鏡の前で
街の修復を終えたあと、魔王城へ戻ることになった。
住人たちに見送られるとき、私は顔が熱くてまともに目を合わせられなかった。
(あんな黒歴史ポエムをみんなの前で朗読するなんて……もう一生分の羞恥を味わった気がする……!)
肩を落としたまま魔王城へ帰り着くと、クラウスが部屋を用意してくれていた。
「救世の書記官様。こちらの一室をお使いください。衣服や生活の品も整えてあります」
「は、はい……ありがとうございます」
宰相らしい完璧な所作で頭を下げられ、恐縮しきりで部屋に入る。
厚い扉が閉じられると、ようやく一人きりの空間になった。
「……ふぅ」
重く息を吐き、ベッドに腰を下ろす。
ふかふかの寝具が体を支えてくれるけど、心は全然休まらない。
むしろ、さっきの光景が何度も頭に浮かんでくる。
――蒼穹の律に従え!
「ぎゃあああああああ!」
枕に顔を押し付けてバタバタする。
(よりによって、なんでこんな文章を残してたの私!? 15歳のときの私、センス死んでる!)
散々悶えたあと、ようやく息を整えたときだった。
ふと、部屋の隅に大きな姿見が置かれているのに気づいた。
「……あ」
ゆっくりと立ち上がり、鏡の前に立つ。
そこに映っていたのは――見慣れない自分の姿だった。
銀青色に輝く長い髪。
瞳は左右で色が違う――右は深い蒼、左は鮮やかな金。
肌は少し透けるように白く、纏っている文官風の衣装は光を受けて淡く煌めいていた。
「……っ」
息を飲む。
15歳の私が、深夜テンションで「絶対カッコいい!」と盛りに盛った理想像。
そのままの姿が、今の私だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ……!」
顔から火が出る勢いでのたうち回る。
鏡を見れば見るほど、中二病の黒歴史がダイレクトアタックしてくる。
(なにこれ! あのときの私、調子に乗りすぎでしょ! え、これで外を歩いてたの!? 人に会ってたの!? 死ぬ! 恥ずかしくて死ぬ!)
ベッドに突っ伏し、布団をかぶってジタバタする。
羞恥でのたうつ音が部屋中に響いた。
けれど。
その姿が伝承に刻まれ、住人たちの希望になっていることも、私は知ってしまった。
逃げ出したいけど、逃げられない。
「……ほんとに、私が、救世の書記官なんだ……」
小さくつぶやく。
まだ受け入れきれない。けど、現実は確かにここにある。
布団の中で目を閉じると、今日の光景が次々と浮かんできた。
泣いて喜んでいた人々。
鋭くも確かに私を見つめていた、魔王の瞳。
胸の奥が、少しだけ温かくなった。
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