初めての修復
魔王城を出て半日。
私は魔王と幹部たちに連れられ、荒れ果てた大地を進んでいた。
「……あれが、街?」
視界に広がったのは、かつて人々が暮らしていたはずの街。
けれど今は、建物の半分が崩れ落ち、地面には裂け目が走っている。
虚無の靄がそこかしこから漏れ出し、街全体をじわじわと飲み込もうとしていた。
「助けてくれ!」「もう駄目だ……!」
逃げ惑う人々の叫びが、胸に突き刺さる。
「救世の書記官様だ!」
誰かが叫んだ。
一斉に人々の視線が私に集まる。
怯えと縋りが入り混じった眼差し。
逃げ出したくなるほどの重さに、息が詰まった。
「……えっ、ちょ、ちょっと待って。なんでみんな私のこと知ってるの?」
慌てて小声で魔王に尋ねる。
「伝承だ」
低く響く声が答える。
「――“銀青の髪と異なる二色の瞳を持つ者、筆と古書を携えて現れ、世界を縫い直す”」
「……」
「この国の者は皆、その伝承を信じている。だからお前を見た瞬間に悟った。……救世の書記官は現れたのだと」
背筋がぞわりと震えた。
今の私は確かにその姿をしていて、羽ペンと古書を携えている。
15歳の私が「カッコいいから」と考えた設定が、そのまま“伝承”になっていた。
「……救世の、書記官……」
つぶやいた声が震える。
「やれ」
魔王の低い声が重なる。
「世界は筆を求めている」
住人たちの祈るような視線が突き刺さる。
背を押されたように、私はバッグから羽ペンと古書を取り出した。
ページは勝手に開き、昔書いたポエムじみた文章が光の文字で浮かび上がる。
「……うわぁ……これ、ほんとに中二の私の文章……」
羞恥で顔が熱くなる。
でも、やらなきゃ。
『――崩壊せし大地よ、虚無に沈まず、蒼穹の律に従え!』
朗読と同時に、羽ペンが走る。
光の文字が大地に刻まれ、亀裂が音を立てて閉じていく。
黒い靄が押し返され、崩れた建物が少しずつ形を取り戻していった。
「おお……!」
「伝承の通りだ……!」
「救世の書記官様が本当に!」
住人たちの歓声が広がる。
泣きながら抱き合う人々の姿に、胸がじんわり熱くなった。
(……ほんとに、直ったんだ)
震える手を見つめる。
これは偶然じゃない。私の“言葉”が、世界を縫い直した。
「見事だ」
低い声に顔を上げると、魔王がこちらを見ていた。
金の瞳がまっすぐ射抜いてくる。
称賛でも侮蔑でもなく、ただ見極めるような視線。
「救世の書記官。その力は本物だ」
「……や、やっぱりその呼び方、やめません!?」
顔が赤くなる。
けれど魔王は口元をわずかに歪めただけで、否定しなかった。




