外伝 第二話 僕のオレンジ
「こんな大きな鳥が近くにいて怖くないの?」
「全然怖くないよ、かわいいでしょ? 調べたら、タカの幼鳥だって。名前はジョルジェだよ」
今日、リエルはへヴァンと一緒に庭で遊んでいたところ、ジョルジェが降り立った。
ジョルジェは、この一週間毎日リエルを訪ねている。
そして、いつもへヴァンがリエルの側にいることが、面白くなかった。
(いいなぁ。へヴァンとかいう人間は、いつもリエルと一緒にいる。リエルのお兄さんだって)
ジョルジェは、へヴァンを睨みつけ羽を広げて鳴いて威嚇した。
「なんか僕、嫌われてる? 怒ってない?」
「こら、ジョルジェ。へヴァンは僕の大事なお兄様だよ。良い子だから、大人しくしてて」
リエルは、ジョルジェの羽をなでて諌めた。
「ほら、かわいいでしょ?」
リエルがへヴァンの方に振り向くと、へヴァンは屋敷の方に逃げてしまっていた。
少し距離をおいて、護衛とメイドのアリサがリエルを見守る。
二人は、タカがリエルになついている様子を見ながら感嘆する。
「本当にリエル殿下は、タカを操れるのではないのですか?」
「すごいことですね。その才能がありそうです」
一方、リエルは、
「あ~あ……お兄様、逃げちゃった」
と、残念がる。
その時、ジョルジェはリエルと二人きりになっている事実に気づいた。
(邪魔者がいなくなった! )
とたんにドキマギして、挙動不審な動きをするジョルジェ。
タカの幼鳥は心臓を跳ねさせながら、夕焼けをスケッチブックに描いているリエルの横顔を見つめる。
ーーオレンジのお日様に溶けてこんでるみたい。こんなかわいい人間がこの世に存在したなんて。ただ、僕はタカだしリエルと話せない。でも、僕は人間に変わることができるじゃないか⋯⋯。
ジョルジェは、そんなことを考えるまでにリエルへの想いは膨らんでいた。
※ ※ ※
それから三週間が過ぎ、へヴァンとリエルが首都の皇居に帰る時がやってきた。
「リエル、早く~~」
へヴァンが、馬車の前でリエルを呼んでいる。リエルは、いつもジョルジェと遊んだ場所で、空を見上げ探していた。
(ちゃんとジョルジェとお別れできなかった。また会えるかなぁ……)
リエルは後ろ髪を引かれながらも、馬車にベヴァンと共に乗り込む。
ジョルジェは、木の上から隠れるように馬車を見下ろしていた。
(僕はタカなんだ、タカとして生きなくちゃ)
タカの幼鳥は、視界で小さくなる馬車を眺めながら、そう自分に言い聞かせた。
※ ※ ※
一年後、鳥類に恋の季節がやってきた。
しかし、ジョルジェは求愛行動をする気になれない。
ーー自分はタカとして、もう生きていけないかもしれない。リエルのことばかり考えてしまって。いっそのこと人間として生きた方がいいのだろうか。
そして、ついにジョルジェは、リエルが生活している首都の皇居に向かうことを決意。
ーー とりあえず、あのリエルという人間に会ってみたら答えが出るかもしれない!
ジョルジェは皇居を目指して大空へ飛び立った。
※ ※ ※
皇居近くの森に着いた。
ジョルジェは、木に止まり休憩を取る。
ーーこの森を抜ければ、後少しでリエルに会える。 人間は成長が遅いけど……背は伸びたかな? 髪も伸びると聞いた。また遊んでくれるだろうか?
いろいろ思い巡らせながら、ジョルジェは空に舞い上がった。
その時、油断していたのだ。
ーーしまったっっ!
左の翼に激痛が走る。
そのまま、地面に叩きつけられた。
ーー痛い痛い痛いっっ! カリだ! 人間にやられた! こんなところで死ぬのか? リエルにも会えず?
ジョルジェは痛みに耐えながら、ある考えがよぎる。この一年ずっと考えていた計画。
ーー人間に化けるのは? 化けて助けてもらうのは?
だんだんと、カリをしていた人間の声が近づいてくる。
「タカだったよな? 仕留めたのは」
「この辺りに落ちたと思うのだが」
ーー迷っている時間はない!!
※ ※ ※
ジョルジェは病院に運ばれ、ケガの手当てを受けた。
腕の骨折と全身打撲という診断で、包帯で固定されている。
ついに、ジョルジェは初めて人間の姿に化け、治療をされベッドで横たわっている。
ーー人間はすごいな……ケガに効く薬も開発してるのか。空を飛べない代わりに頭脳が優れている。しかし、空を捨てることは僕にはできないな。
そんなことをぼんやり考えていると、ジョルジェの両親という人達が現れた。
(両親? 人間の? )
ジョルジェは、父と母という人達と面会した。
母親は涙を流していたが、黒い影のようなものが全身から出ていた。
ーーあれは……タカの仲間達の噂で聞いたことがある。「黒魔術」かもしれない。まあ、僕には関係ないけど。
当たり前だが、ジョルジェは二人にはなんの感情もわかない。
ジョルジェの人間の姿を見た人は、皆口々に「へヴァンデンカ」と呼んだ。
ーー「へヴァン」……どこかで聞いた名前だな。それに皆、頭を下げてくる。よくわからない。治療が終わったら、ここを出よう。リエルに会いにいかないと。
しばらくすると、扉が開いて下僕の人間が、小さな人間と一緒に病室に入ってきた。
「へヴァン殿下、リエル殿下が来られましたよ」
「リエル……?」
へヴァンは耳を疑った。
この一年その名を何度唱えただろう。
そして、記憶より少し背が伸びた「リエル」が、ジョルジェの目の前に現れたのだった。




