外伝 第一話 僕のお日様
「こら、遠くに行ってはいけません! 人間にカリで狙われますよ!」
「あんなのろまな奴らに、僕がやられるわけないじゃん!」
「あぁっ! いけません!」
タカの幼鳥は、巣立って一週間しか経っていない。母鳥の静止など全く聞く様子もなかった。
東帝国の鳥類は、他の生物に姿を変えることができる。
エストリニア神が、鳥類は生物の頂点だと位置づけているためである。
しかし、鳥類であり、しかも猛禽類のタカならば、他の不自由な生物になんて興味もなかった。
ーー 僕はあんな能力が低い生物に負けない! 母さんは心配しすぎなんだよ!
タカの幼鳥は空高く舞い上がり、母鳥を困らせる。
地上をふと見下ろすと、カリという遊びをしている人間達を見つけた。
ーー食べる以外に生き物を殺すなんて、下品な遊びだな。
タカの幼鳥はスピードを上げて、わざと人間を挑発するような飛び方をする。
それを視界にとらえた二人の人間は、とたんにはしゃぎだした。
「あそこにタカ⋯⋯かな? 良い標的が現れた!」
「結構複雑な飛び方するタカだな」
「まあ、俺は地元の狩猟大会優勝したんだ、見てろ!」
人間が、幼鳥に向かって矢を放つ。
幼いタカは、スピードを緩めて矢を回避した。
すると、幼鳥が矢を避けた先には、追いかけてきた母鳥が飛んでいた。
「母さんっっ! よけて!」
母鳥はとっさに向きを変えて、間一髪、矢をかわした。
ジョルジェは、それを見た瞬間、頭に血がのぼり人間に向かって急下降。
「母さんに何するんだっっ!」
その時、人間が矢先をタカの幼鳥に向けた。
「あっちから向かってくるぞ! 珍しい!」
「楽勝だな、これは! これ外したら、笑われるぞ!」
人間達が楽しそうに幼鳥に狙いを定める。
母鳥は気が狂ったように鳴いた!
『やめてーーっ!! 殺さないで、私の子よ!』
幼鳥は、矢に突っ込むように飛んでいる。
その時。
「やめて! 何してるの!」
他の人間の叫び声。
カリをしていた人間達が、声を発した人物の方を向く。
タカの幼鳥も、空中で動きを止めた。
(なんだ? 人間共が固まったぞ)
その声を出した人間はまだ幼かった。
(あの人間も巣立ったばかりなのかな? )
幼鳥は、この切羽詰まった状況でそんなことを考えていた。
「リエル殿下に御挨拶申し上げます」
「どうしたのですか? へヴァン殿下とご一緒に遊ばれていたのではないのですか? 殿下に狩りはまだ早いとお見受けしますが、見学されるのですか?」
人間達は、次々にリエルに話しかけた。
「僕は遊びの狩りが大嫌い! 今すぐやめて!」
「失礼いたしました。では、湖近くで散策をしましょうか? ご案内いたします」
その言葉で。
リエルは厳しい表情から、ぱぁーっと光を放つような笑顔に変わる。
その瞬間、幼鳥は眩しくて熱くて、目が開けられなくなった。
ーーお日様? 目が開けられない⋯⋯!
幼鳥がリエルの頭上を何回も旋回していると、母鳥が幼鳥を急かした。
「何しているの? ほら、ここは危ないから帰りますよ!」
母鳥は幼鳥を先導し、一緒に森深く入っていく。
リエルは、その後ろ姿を微笑みながら見送っていた。
※ ※ ※
幼鳥は、翌日から「リエルデンカ」という小さな人間が頭から離れず、彼の姿を見るために頻繁に皇室の別荘に飛び立った。
あの小さな人間の笑顔は、いつも眩しくて光を放っていた。
なんだろう。
あの人間を見ていると体が熱くなる。
晴れた日に空に現れる「お日様」に似ている。
「リエルデンカ」という人間は、よく「へヴァンデンカ」という小さな人間と遊んでいた。
二人はお互い「リエル」「ベヴァン」と呼び合って、仲が良さそうだ。
(いいなぁ、僕もリエルと遊びたい! )
タカの幼鳥は、上空や木の上から、彼の元気な姿を眺めては、幸せな気分になっていた。
(なんだろう……どうしたんだろう、僕は何かの病気にかかったのかなぁ)
※ ※ ※
7歳のリエル第ニ皇子は、義兄のへヴァン第一皇子と共に、皇室が所有する避暑地の別邸に遊びに来ていた。
1ヶ月ほどの滞在予定だが、森や湖が近くにあり、家庭教師も同行し、勉学と休養を兼ねて毎年夏に訪れている。
夕方、リエルは庭でベンチに座り空を眺めていると、一羽のタカが旋回していた。
すると、タカがすぅーーっと下降してきて、なんとリエルの隣の切り株に止まった。
リエルは大きな丸い瞳を、さらに大きくさせてキラキラ輝かせる。
「うわーーっ! カッコいい!! タカさんだっけ? 鳥の中でも強い鳥さんだよね?」
リエルは顔を赤くして興奮する。
何故だかタカまで顔を赤くさせていた。
「もしかして、この前うちの騎士が殺そうとしたタカさん? 本当にごめんね、二度と怖い思いさせないから」
リエルは申し訳なさそうに、タカに話しかけ続ける。
「僕はリエルって言うんだ! 7歳! 名前はあるのかな? 」
リエルはしばらく悩んで、その幼鳥を「ジョルジェ」と名付けた。
「リエル殿下、もうそろそろ屋敷に入りましょう」
メイドと護衛が、リエルに帰宅を促すため近づいてきた。
「あれ、タカじゃないですか。なついてるのですか? 殿下はタカを扱う才能があるのかもしれませんね」
護衛が感心していた。
タカを操るには時間がかかるし、それを生業にする職業だってある。
「友達のジョルジェだよーー」
リエルは嬉しそうにタカを見つめる。
タカのジョルジェも羽を動かして、喜んでいるような動きをした。
「ジョルジェ、また明日ね!」
手を振って、ジョルジェと別れるリエル。
そして、護衛とメイドに連れられて屋敷に入っていった。
その後ろ姿を見つめながら、タカは喜びをかみしめる。
(ジョルジェ……僕の名前! 母さんに僕はジョルジェだって伝えよう! )
幼鳥ははしゃいだ様子で、空高く舞い上がり夕焼けに向かって飛びたった。




