77.デートする!絶対に!
ある日の午後1時頃。
ハンナがナユタの元へ慌てて訪ねてきた。
「あんたのオウジサマが、今から夕方まで式典リハーサルのスケジュール空いたんだってさ! 下僕達が喜んでたよ! 仕事が楽になったって!」
「本当?!」
「なんかよくわからないけど、良かったじゃん! 人間の姿で会えてないんでしょ?」
「わーーい! ありがとう、ハンナ! 準備しなきゃ!」
ーー 私も二時間くらい部屋を空けると大騒ぎになるだろうけど、デートって大事じゃない?
慌てて、ナユタはリリィになって、リエルの元へ向かった。
※
急遽、リエルは執事たちの手違いで、スケジュールに穴が空き、部屋でくつろいでいた。
コツ、コツ、コツーー
窓をつつくリリィ。
リエルは急いで窓を開ける。
「リリィ、珍しい! こんな時間にどうしたの?」
次に、リリィは部屋に入り、クローゼットの扉をつついた。
「ここを開けて欲しいの?」
リエルがクローゼットを開ける。
すると、大量の服の中から一枚の服をくちばしでつつく。
「え? この服に着替えるの? でも、これは⋯⋯町に内緒で出かける時の服だよ」
ピィピィとねだるように鳴くリリィ。
「わかった、わかった」
リエルは慌てて服を着替えた。
次に、リリィは窓の外に飛び立つ。
そして、うっそうとした木の葉でリリィの姿が見えなくなった。
「どうしたんだろう」
リエルが心配していると、窓辺近くの木に人が座っている。
服は、ピンクの羽毛のワンピースだ。
「リエル殿下にご挨拶いたします。座ったままで、申し訳ありません」
間違いなく、ナユタだった。
ーーリリィに気を取られて、わからなかった。いつの間に?
リエルは驚いて、しばらく声も出ない。
「ナユタ! 何してるの? そんなとこで! 危ないよ!」
「リエル殿下なら、この木まで飛んで移れるでしょう? 早く!」
「えぇ? どこに行くの?」
「デートです、デート!」
一瞬、リエルは耳を疑った。
「デ⋯⋯今から?」
「早く! いつデートできるかわからないじゃないですか!」
「わ、わかった」
リエルは顔を赤く染めながら、木に飛び移る。
ガサガサと、大量の葉が音を立てながら、二人の姿を隠す。
ナユタはリエルをしっかり抱き留めた。
「あ、ありがとう」
リエルは耳まで赤くしていた。
「急ぎましょう! 一緒に町でデートしましょう!」
ナユタも心臓の鼓動の早くしながら、大木を降りた。
二人は、皇居の秘密の抜け穴を巧みに使って門外に出る。
馬車もないので、一番近くの小さな町を散策することにした。
恋人同士であろう男女が、手を繋ぎながら楽しそうにに歩いている。
ナユタとリエルは、同じように、なんとなく手を繋いでみた。
「な、なんか恥ずかしいね」
リエルは照れながら、ナユタに話しかける。
「私の夢だったんですよ、町で手を繋ぐの」
人間の子供に化けた頃、ナユタは自分の手を見つめながら、リエルと手を繋ぐ妄想していた日々を思い出す。
リエルは、ナユタの言葉に胸がくすぐったくなった。
「どこに行きたい?」
「アップルパイ食べに行きましょう!」
二人は目に留まったカフェを見つけて入る。
ちょうど15時過ぎで、賑わっていた。
近くに座っている4人席の若い女性達の楽しそうなお喋りが、リエルの気を引いた。
「ほら、ケブァン第一皇子が失踪したじゃない? 本当に愛する身分違いの平民と駆け落ちして」
「結局、ルエル第二皇子とタユナ嬢が結ばれたかぁーー!」
「あら、私は最初からそのカップルを推していたわ」
「でも、ケブァン皇子の駆け落ちも素敵ねーー」
ーーいつか観た大衆劇の続編が、公演されているのか。
と、リエルは感慨深く彼女達の会話を聞いていた。
ーー「ケブァン皇子の駆け落ち」……失踪をドラマチックにするには駆け落ちが一番かもな。
ほほえましく思い、彼女達を眺めるリエル。
ナユタは、それをリエルが他の女性達へ視線を向けていると勘違いをする。
そして、すぐに自己嫌悪に陥った。
(はあーー、人間ってこんなことで妬くのか⋯⋯、心が狭いったら!)
ナユタは、大好きなアップルパイで気を紛らわそうと一口食べてみる。
でも、このカフェのアップルパイは全然おいしくなかった。
「どうしたの? ぼーっとして」
リエルは、ナユタの怪訝な様子に気付いた。
「いえ、なんでもありません」
「そう? アップルパイがあれば、ナユタはいつも機嫌がいいのに。珍しく、はしゃがないから」
「それは、殿下が」
「僕が?」
「女の子達をじっと見てて⋯⋯。」
リエルはその言葉を聞いて、嬉しそうに笑いだした。
「嬉しい。妬いてくれたんだ」
ナユタは顔に熱が集まったが、とたんにアップルパイがおいしく感じるようになった。
「残念だけど、そろそろ帰ろうか。気づかれないうちに」
「はい」
しぶしぶ返事をするナユタ。
皇居に帰り、皇子の部屋近くの木から中の様子を確認する。
すると、まだばれてないようだった。
「じゃあね、ナユタ」
「はい、また」
リエルが自室の窓辺に飛び移る前に、ナユタのアゴをつかんだ。
そして、そのまま頬にキスを落とす。
「またね、僕の皇妃様」
リエルは、そのまま部屋に飛び移って、窓を閉めた。
ーー今、僕の皇妃様って言った! 僕の皇妃様って!
ナユタは足がもつれて、背中から落ちた。
しかし、とっさにモモイロノトリのリリィに変わる。
ーーあぶない、あぶない! 人間のままだったら、頭を打って即死だったわ!
しばらくは平和だというジョルジェの予想は当たるのだろうか。
そんな話はすっかり忘れて、デートの余韻に浸る幸せな桃色の小鳥は、さえずりながら忙しなく羽を動かしている。
かわいらしいその姿は、東帝国のどこまでも続く夕焼け色の空に吸い込まれるように消えていった。
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