76.へやにはとりがにわいる
「だから、10年以上ジョルジェとは会ってなかったんだよ! すごいでしょ?」
7年前から続いている就寝前のリリィとリエルのお茶会。
そこに、何故かジョルジェが加わっていた。リリィは皇子と鳥の姿で会える唯一の安らぎの場を、邪魔されている感覚になった。
「ジョルジェは、夏の静養地に遊びに行った時、出会ったんだよ! 名前も僕がつけた。今日、窓をつつく音がして⋯⋯すると、ジョルジェがいたんだよ! ビックリした!」
リエル皇子は興奮して、リリィに事の経緯を話す。
リリィは、ただただうなだれていた。
ジョルジェは、嬉しそうにリエルの肩に乗っている。
「いい? リリィは僕の大事な小鳥なんだ。食べちゃダメだよ」
ジョルジェは、皇子に返事をするように頷ずいた。
(はぁーー、皇子様はのんきでいいわよね⋯⋯。)
リリィは、思わずため息をつく。
「しかし、兄上が見つからない。本人の意思で出て行かれたとは思うけれど、もう会えないなんて嫌だ。僕はもっと兄上と一緒にいたい。絶対探し出すんだ!」
それを聞いて、リリィはテーブルに移動したジョルジェに話しかける。
『ちょっと! 聞いてる? 皆、探してんのよ!』
『それよりも! 兄上と一緒にいたいってヤツ! 百万回聞きたい!』
ジョルジェは、羽を広げ興奮する。
『ちょっ!! あんた図体がデカいんだから、バタバタしないでよ!』
リエルは、二羽を嬉しそうに眺めている。
「モモイロノトリって猛禽類と仲良くなれるんだ⋯⋯」
興味深そうに、鳴き声で言い争う二羽を観察していた。
※ ※ ※
一ヶ月が経過。
国中あげて捜索したが、へヴァン第一皇子は見つからなかった。
しかし、さすがに隠し通せないので、へヴァン皇子は本人の希望で旅に出た、というニュースを発表。
秘密裏に捜索は続けるが、規模を縮小することになった。
国内は一時騒然としたが、これで皇太子継承争いの内乱は起こらないので、国民は安堵した。
リエルが自動的に次期皇太子となるためだ。
ナユタ嬢デビュタントの日程より前に、皇太子任命式を執り行うことが決定。
国内外に東帝国の基盤は、盤石であることを示さなくてはならない。
連日、リエル第二皇子は、式典のリハーサルで多忙となった。
※ ※ ※
『これじゃあ、いつリエル皇子様とデートできるやら』
ハンナとリンゴをついばみながら、愕然とするリリィ。
『しょうがないわよ。オウジサマが偉くなるための準備してんでしょ? あんたとの求愛ダンスパーティと順番が逆になったけど。』
『ほら、人間って結婚する前にコイビトという期間があるんだって。私もコイビトの期間が欲しくって、すぐ結婚したくなかったんだーー。早くコイビトとして遊びに行きたい!』
『結婚してから、遊びに行けばいいじゃん』
ハンナは、もっともらしいことを口にした。
『人間の16歳の女の子は、彼氏ができたら、ああしたいこうしたいと夢見るんだよ。お兄様も、この乙女心が理解できなかったけど。』
『ふーーん⋯⋯どうせ番になるのに面倒くさい。』
ハンナはリンゴをついばみながら、興味なさそうにつぶやいた。
『ところで、あんたあの猛禽類と毎日顔合わせてるんでしょ? 怖くないの?』
『たぶん、意識して気配を消してくれてると思う。目に入ったら、やっぱり本能的に身構えちゃうけど。』
『もう彼は人間にはならないの?』
『わからない。人間に化けたら、へヴァン皇子そっくりにしかなれないみたいだし、難しいかもね。』
※ ※ ※
最近、すっかりリエル皇子との夜のお茶会には、ジョルジェが参加していた。
リリィは全くもって面白くない。
『タカなんだから、孤独に生きてよ。孤高のハンター(※1)じゃないの?』
『9年間も孤高の皇子を務めたから、これからはリエル依存の猛禽類を目指す!』
いつものように怒涛の会話を繰り広げる二羽の鳥。
リエルはにこにこしながら、二羽を見守っている。
ただ、さすがに連日のリハーサルの疲れが出たのか、言い争っている間に寝てしまった。
『あーーあ、皇子様寝ちゃったぁ、私もシュバルツ家に帰るかな』
ジョルジェはぐっすり寝ているリエル皇子の顔を見つめながら、リリィに話しかける。
『僕の予測では、しばらくは平穏だと思うけど。』
ジョルジェはリリィの方に向き直る。
『たぶん、今まで皇家を苦しめていたのは、西帝国だと思う。』
『西帝国? 閉鎖的な国だよね。』
『エストリニア神の平定(※2)が実行される前に何か動くんじゃないかな』
リリィは、ジョルジェに一呼吸おいてから返事をする。
『ありがとう、教えてくれて。私達は、リエル皇子様を守らなきゃね!』
今や、二羽はリエルの幸せを願う仲間として繋がっていた。
※ ※ ※
(※1)タカは自分の能力だけで、獲物を捕らえることができるので、「孤高のハンター」と呼ばれている。
(※2)シュバルツ家の令嬢が皇后となれば、平安な時代が訪れるという逸話。
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