74.第一皇子失踪
「いやー、もうあんたダメだと思ったわ。血、吐いてるんだもん!」
「ハンナのおかげだよーー! 本当にありがとう」
早朝。
モモイロノトリ二羽が、庭園の小枝にとまり、お喋りしていた。
「私のために人間にまで化けてくれたんでしょ?」
「一生使わない能力だと思ってたわ」
リリィはいろんな仲間に助けられて生きていることを実感した。
クズのケンタを除いて。
「ケンタ、何してるの?」
「悪かったよーー、と謝るぐらいだよ。まあ、切り替えが早くないと、野生動物やってられないからね」
リリィも、ケンタを責める気はなかった。
責めたところで、ケンタには理解できないだろう。
野生動物は、皆、気まぐれに生きているから。
それでいい。
「ところで、ハンナ大騒ぎになってるよ。メインホール前に、ピンク髪の謎の美少女が現れたって。どこの令嬢か貴族達が血眼になって探してるわ」
「まあ美しいことは認めるけど、少女ではないわ。もう何十個卵産んだと思ってんのよ」
悪い気はしないけど、と得意気にさえずる。
「あと、あの人間何者なの? 食べらられるかと思ったわ。あの人間こそ鳥類じゃないの?」
「へヴァン第一皇子のこと?」
「そういう名前なの? ケンタも思い出しただけでも、震えてたわよ。私もあんな恐怖を感じたのは初めてかも。本人が言ってたけど、気配消したりできるみたいよ。鳥類超えた能力だわ」
リリィも何回か彼には身震いした覚えがある。
気配を察知できたりできなかったり……。
「ちょっと探ってみる。」
「気をつけてね。猛禽類だと思うから。」
※ ※ ※
「ナユタ様、大変です! へヴァン皇子が!」
「失踪いたしました! 置き手紙もあるので、自ら姿を消されたようです」
ナユタは、皇居で経営学の講義を受けている時間にその知らせを聞いた。
「なんですって?」
ーーリエル殿下との関係を修復すると発言されていたのに。
彼女は、とりあえず兄キリアンの元へ向かった。
※
「ついにこの時が⋯⋯」
皇帝テオは、へヴァン失踪の一報に膝をついてうずくまった。
ーー彼が何物であっても、ずっと一緒にいたかった。彼はリエルが成人したら、皇后の黒魔術が解けたら、元の生活に戻ると言っていた。なぜ、今このタイミングなのかわからない。彼に心の変化があったのか⋯⋯?
皇帝テオは、両手で顔を覆って、肩を震わせる。
皇后アリシアは、そんな彼を後ろから、そっと抱き締めた。
彼女もショックが大きい。
ーー自分が黒魔術にかかっていた約10年間。皇帝陛下と第二皇子を陰で支え続けてくれていた。これから、あなたの存在の大きさを、私は知ることになるだろう⋯⋯。
両陛下は、彼が残した手紙を交代で黙読。
『皇帝陛下 皇后陛下
今までありがとうございました。様々な問題が解決し、私の役割も終わりました。私は本来の姿に戻り、生きてまいります。探されても、たぶん私を見つけることは不可能なので、おやめください。少し、広い世界をこの目で見ようと思います。東帝国のますますのご繁栄を願っております。』
結局、へヴァン第一皇子の身代わりをした彼は、本名も出身地も不明なまま、消息をたった。
両陛下は、へヴァン皇子の捜索を皇室騎士団に指示するしか方法がなかった。
※ ※ ※
「お兄様も捜索隊に加わるのですか?」
皇室騎士団の宿舎にいる兄キリアンを訪ねたナユタ。
彼の主君である第一皇子が失踪したのだ。
国をあげての捜索になる。
キリアンは専属騎士として、捜索隊の中心的役割を担うのだろう。
「殿下は何も持たずに姿だけ消えた、と言ってもいい。全く手がかりがないんだ。失踪当時、部屋の窓が開いてたくらいで⋯⋯あの高さから、下に降りたとも思えない。」
「しばらく、国中が騒然としますね。」
「皇太子の第一候補が失踪したんだ。騒がないはずがない。しばらく、お前のデビュタントの日程の再調整も遅れるだろう。」
「私のことは構いません。世論を尊重して下さい。」
「⋯⋯ちょっといい?」
キリアンはナユタをぎゅっと抱き締めた。
ナユタは少し驚いたが、彼の背中に手を回した。
ーー私の事件の後に、へヴァン皇子の失踪だもの。不安になるわよね。
ナユタはキリアンの心情を思いやる。
キリアンはしばらくして、それじゃ行ってくる、と告げ捜索隊の集合場所に向かった。
次に、彼女はリエル第二皇子の部屋に向かった。
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