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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第七章 デビュタント当日

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73.リエルが不幸になりますように

「お兄様、もう大丈夫なのですか?」

「ああ、もうなんの問題もないよ」


 ナユタはへヴァン第一皇子の執務室の前で、護衛騎士として側衛している兄キリアンに話しかけた。


「お前、またアポなしでへヴァン殿下に謁見しに来たのか? いくらお前でも許可がおりるかどうか⋯⋯。」

「お礼を申し上げるだけですよ」


 すると、執務室の扉が開き、中からへヴァン第一皇子が姿を見せた。


「これはこれはナユタ嬢、体調はいかがですか?」


 へヴァンはあまり表情を変えず、ナユタに声をかける。


「へヴァン第一皇子に御挨拶申し上げます。もうすっかり良くなりました。今日からは、剣の鍛練に参加させてもらって、体を動かしています。それより、先日は私の救命にご尽力いただいたと聞いております。改めてお礼申し上げます。」

「⋯⋯。」


 へヴァンは何も言葉を発しない。 ナユタも、この間をどう対処して良いかわからず黙っていた。


「ちょっと話をしようか。中へ入って」

「よろしいのですか?」


 ナユタとキリアンは、へヴァンの謁見の許可に少し驚いた。へヴァンは、護衛のキリアンに命令する。


「キリアン、メイドにお茶と軽食を頼んでくれ」


  ※


 メイドが、お茶とサンドイッチとスイーツをテーブルに置いて、退出した。


「昼食がまだだったのでね。ナユタ嬢は好きなものを食べて」

「それでは遠慮なくいただきます」


 ナユタは好きなクッキーを口に運んだ。そんな彼女をへヴァンは眺める。


「君は、これからもリエルを守れるのか?」

「え⋯⋯?」


 クッキーをほおばり、口の端にかけらがついた顔でへヴァンを見た。


「はい、もちろんです!」

「そうだな、君は命をかけてリエルをかばい、毒矢に倒れたのだったな」

「へヴァン殿下?」


 彼はうつむいて、自嘲気味に微笑んだ。


「君と僕とでは、決定的な違いがある。それに気づいたんだ」

「違い?」

「リエルに対する思いだよ」


 ナユタは、皇子同士疎遠なことは知っていたが、へヴァンは自分と二人で話す時には、いつもリエルの話だけだった。


(へヴァン殿下は、本当はリエル殿下のことを⋯⋯? )


 ナユタはそう直感した。


「僕はリエルの不幸(・・)を願ってた」


 ナユタはへヴァンの告白に絶句した。


 ーー彼はリエル殿下を好きなんじゃないの? 憎んでるの? 


 ますます彼の感情が理解できない。


「リエル殿下を憎んでるのですか?」

「いいや、逆だ。彼は僕の太陽のような存在だ。」


 やはり、へヴァン殿下はリエル殿下が好意をもっている。

 そう思うと、ナユタは安堵した。

 彼を愛してくれる人は、一人でも多い方が嬉しい。


「ならば、何故不幸を願うのですか?」

「君には理解できないだろうが⋯⋯彼が誰かと幸せそうにしている姿を見たくなかった。僕の独占欲だ」

「なんですって?」


 ナユタは、愛してる人の幸せを願わないなんて到底理解できなかった。


「でも、君は違う。目の前で、婚約者選定のパーティーが行われてもそれを受け入れていた。彼が誰かと結婚して幸せそうにしていても、耐えれる人間なんだろ?」

「ああ、あの時は⋯⋯。」


 まだ本隊がモモイロノトリ(・・・・・・・・・・)だったから⋯⋯と言いかけそうになって、慌てて止めた。


「騎士!! 孤児院からの養女で、彼の専属騎士でしたからっっ!!」


 しどろもどろしながら、少し大きな声で答える。


「あの時は、君は人間じゃなかったからな」


 へヴァンは、ナユタには聞こえないくらいの小声でつぶやいた。


「申し訳ありません。何かおっしゃいましたか? 聞き取れませんでした」

「いや、どちらにしろリエルの幸せを願うかどうかが、君と僕との違いだ。僕は最近それに気づいたんだ。だから、君がこれからもリエルの側にいることは正しい。そう思う」

「そうですか。でも、今からリエル殿下との関係を修復すればよろしいじゃないですか? 今では、皇后陛下もリエル殿下と親密になられましたよ」


 へヴァンは、サンドイッチに手をつけ始めた。


「そうだな。彼に出会ったころに戻るのもいいかもしれない。リエルも大人になって、自分の身を多少は守れるようになったしな」


 ナユタは、へヴァン皇子の表情が柔らかくなったように感じた。しかし、彼に出会った頃に戻るという意味がわからない。


 ーーリエル皇子と初めて会ったのは、へヴァン殿下は1歳じゃないの? リエル皇子が赤ちゃんの時では? 


「ありがとう、ナユタ嬢」

「いえ、何もしておりません」

「リエルとの関係を昔のように戻してみるよ」

「それがいいです。東帝国はこれで安泰ですよ」


 二人はテーブルの軽食を食べ終わり、簡単なお茶会を終わらせようとしていた。


「君は、リエルになついているモモイロノトリを知っているか? 名はリリィと言うが」


 ナユタは、思わず最後に口にした紅茶を吹出しそうになった。


「リ、リエル殿下から聞いたことはありますが! よ、よく知りません!」

「君が一番よく知ってるんじゃないのか? そのピンク色の小鳥について」


 へヴァンはなぜかニヤニヤと笑っていた。初めて見る楽しそうな表情だった。


「いえ、見たこともございません!」

「そうか、ならばその小鳥とリエルの夜の密会に変化が起こるかもな」


 ナユタは心臓に矢が刺さったような痛みが走る。


 ーー あのささやかな日常に変化があるの? 私と皇子様の夜のルーティンなのに!


「へヴァン殿下、それはどういう⋯⋯。」

「いや、なんでもない。全てはリエル次第だ。さあ、もう喋りすぎたな。お開きにしよう。私も仕事に戻る。」


 へヴァンはベルを鳴らしてメイドを呼び、食器を片付けさせた。

 ナユタはへヴァンに改めて救命の礼を言い、執務室を退出。彼女はキリアンと部屋の外で、少し話をして、お妃教育の時間に間に合うよう急いで自室に戻っていった。

最後までお読みいただきありがとうございます


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