69.ハンナの伝言
「へ、へヴァン第一皇子に御挨拶いたします!」
護衛二人は、慌てて頭を下げ最敬礼をする。
ハンナは背筋にぞくりと悪寒が走った。
恐怖で足がすくむ。
(だ、だれ……? 怖い、に、逃げなきゃ……)
護衛の一人が、ハンナの顔が青ざめて震えていることに気づいた。
「どうしたのですか? 大丈夫ですか?」
へヴァンは、護衛のその言葉を聞いて、何かを思い出したように、ハンナにつぶやく。
「ああ⋯⋯悪い。今、気配消すから」
すると、ハンナの恐怖心がすぅっとおさまった。
(何? 今の。気配を消したりできるの? この人は人間? )
ハンナは、波打つ心臓をおさえて、自分が人間に変身した理由を思い出した。
「そうだ! あなたなら聞いてくれるの? 解毒剤のことなんだけど!」
「ご令嬢、あまりにも無礼な口調です。このお方はへヴァン第一皇子殿下ですよ」
護衛はハンナの敬語がない口調に対して警告した。
「かまわない。ご令嬢、こちらへ」
へヴァン第一皇子はスタスタとメインホールの横の園庭に案内する。
(あぁっじれったい! こんなことしてられないのに! )
しかし、ハンナは、彼が自分の話を聞いてくれる唯一の人間のような気がしたので、あとをついて行く。
残された護衛二人は、不満を口にした。
「へヴァン皇子は彼女を気に入ったかな? いいなぁ、先に俺らに声かけてきたのに」
「あれだけの美人なら、正妃は無理でも側妃ならいけるかもな」
※
護衛の目が届かない場所で、へヴァンは歩みを止めた。
「ハンナ⋯⋯だったか?」
「は、はい! リリィ⋯⋯いえ、ナユタ嬢が毒で倒れたのでしょう? 解毒剤は持ってないんだけど、使用方法を間違えると、即死らしいので伝えにきたの!」
「何? 服用するのに手順があるのか?」
「そう! ティースプーン一杯程度を15分おきに少しずつ与えるんだって。個人差はあるけど、一日程度で快復するみたいなの」
「⋯⋯そうか、わかった」
「伝えてくれる? 私じゃ怪しまれて、中には入れそうにないから」
それだけ言い残して、ハンナはその場を離れた。
とにかく、この男から離れたかった。
気味が悪い。とにかく気味が悪かった。
ーー さっき察知した恐ろしい気はなんだったのだろう。あの人間はなんなの?
ハンナは走って逃げて、大木の陰に隠れる。
しばらくして、一羽のモモイロノトリがその大木から飛び立つのだった。
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