68.果てしないクズと超絶美少女
ハンナは一羽の鳥を探していた。
すると、その鳥の気配を前方の大木から感じ取った。
『ケンタ! あんたケンタでしょう!?』
もちろん鳥なのでピィピィとしか、人間には聞こえない。
しかし、ケンタは人間の姿をしたモモイロノトリなので、会話は可能だった。
「あ、あいつ⋯⋯あいつ、いなくなったか? 」
ケンタは、なぜかガタガタ震え、顔面蒼白だった。
『なんの話? それより、あんたナユタに何したの? ナユタが血を吐いて倒れてるんだけど!!』
ケンタは、それを聞いて表情が変わった。
「なんだって? お、俺はただリエルオウジサマを殺したい人間どもと組んで、計画を練っただけだ! 弓矢を訓練して、毒矢をリエルオウジサマに命中するように! そして、さっき毒矢を当てたはずだ!」
『なんだかわからないけど、ナユタが苦しんでるんだから、ナユタに当たったんでしょ?』
「そ、そんな⋯⋯お、おれはただリリィと番になりたかっただけだ、どうして⋯⋯」
ケンタは動揺して、木の枝に力なくへたりこむ。
『ナユタはリエルオウジサマのためなら、命を差し出すわよ! あんた、どうせ矢を放っただけで命中した、と判断したんでしょう? ナユタはきっとリエルオウジサマをかばったんだわ! あんたは真のクズね!』
「そんな、どうしよう⋯⋯」
ハンナはケンタを問い詰める。
『何か方法はないの? あんた知ってんじゃないの?』
「ゲドクザイとやらを渡されてたんだ。間違って俺が毒が体内に入った時に打ち消す薬。でも、さっきあいつに奪われた」
『あいつ?』
「だから、薬はもう持ってない。ただ、薬には使い方があるんだ! 飲む量と飲む間隔を間違えたら、すぐ死んでしまう!」
『なんですって!?』
ハンナは、あわててケンタに薬の用法を詳しく聞く。
そして、メインホールの方向に飛び立った。
ケンタは、あの人間がまた戻ってくることを恐れた。
小鳥の姿にに戻り、忙しなく空高く舞い上がった。
大木には、着用していた服が無造作に散らばり、弓矢の筒も地面に落ちて、矢が散らばった。
※ ※ ※
へヴァン皇子は、メインホールの入り口近くで身を隠していた。
騎士や使用人がバタバタと走り回っている。
それを木の陰から観察していた。
そして、解毒剤の小瓶を握りしめ、思い巡らせる。
ーーこれがあればナユタ嬢は助かり、リエルは皇太子に選ばれ、幸せになるだろう……。しかし、僕は? 僕はリエルの前から消えなくてはならない。僕は所詮身代わりだから。
へヴァンは、切なげにため息をついた。
ーーしかし、あの毒は国内に存在しないが、西帝国に遅延性毒薬の製造を成功させたと聞いたことがある。黒魔術といい刺客といい、ろくな国じゃないな。皇帝は病んでるのか? ーー
へヴァンは空を見上げて、自嘲気味に笑った。
(僕も似たようなもんだな⋯⋯。)
このまま小瓶を差し出さず、ナユタが死ねば、どんな未来が待っているのだろうか。
そんなことを想像する。
その時。
へヴァンの耳には、メインホール正門の護衛二人の声が聞こえた。
「なんだ? こいつ、モモイロノトリだっけ? まとわりついて、うるさいんだけど! あっち行け!」
メインホールの入口の護衛二人が、一羽のモモイロノトリに絡まれていた。
ホール内では、ナユタが生死の境を彷徨っている。
兄キリアンが抱きかかえ、皇医と助手ができる限りの処置をしていた。
モモイロノトリのハンナは、ナユタを助けるべく解毒剤の処方を人間に伝えたい。
しかし、小鳥のためピィピィとしか声が出ず、護衛二人にとっては、うるさい小鳥でしかない。
(しょうがない、出直すか⋯⋯早くしなきゃ! )
ハンナは、メインホール近くの大木の陰に隠れる。
そして、初めて人間の姿に変身した。
ピンクの羽毛のドレスに、ピンク色の瞳。まっすぐ絹のようなストレートの長いピンク色の髪ーーどこから見ても人間の美少女になった。
「急がなきゃ!」
ハンナはメインホールの護衛を突破すべく走り出す。
(しかし、地面に足をつけるしか移動手段がないなんて、本当に不便だわ)
ハンナは走りながら、そんなことを考えていた。
※
「しかし、さっきの鳥はなんだったんだ?」
「めっちゃ鳴いてたぞ、なんか食い物でも持ってたのか?」
「いや、そんなもん持ってない。なんか今日は厄日だな。ナユタ嬢は大丈夫だろうか」
護衛二人が会話していると、背中越しに女性に声をかけられた。
「こんにちは、お兄様方。ナユタ嬢の解毒剤のことでお話があるの。急ぐのよ、通して下さらない?」
護衛はその女性の姿を見たとたん、顔を赤らめ動揺が隠せなくなった。
「あ、あなた様は⋯⋯どこのご令嬢ですか?」
滑らかな白い肌に愛らしいピンクの髪がなびいて、ピンク色の瞳をしている。色気のある厚い唇はピンク色で、東帝国でも稀なタイプの美しさだ。
「ハンナだけど⋯⋯こんなことしてる場合じゃないのよ! ナユタ嬢の解毒剤のことでっ!」
護衛達は、この全身ピンク色のレディと話がしたいばかりで、ホール内に通してくれない。
決して、怪しい人物だから、中に入れてもらえないのではない。美少女と話がしたいだけなのだ。
「何をしている」
低く威厳ある声が護衛二人の行動を制した。
二人は一気に震え上がり、声の主に向き直る。
へヴァン第一皇子が、護衛二人と美少女一人の前に現れた。
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