67.ピンクの髪色の傭兵
一人のピンクの癖毛の騎士が皇居の園庭を走っている。
そのスピードは驚異的だ。
(やった! ついにリエルオウジサマは死んだ! 人間ってほんと鈍いわ! )
弓矢が入っている筒を肩にかけ直し、大木の枝にジャンプして飛び乗った。
「よお、お前はナユタの仲間か?」
ピンク髪の騎士は、その声に心臓が跳ねる。
「名前は?」
声の主は、同じ高さの枝に立って、大木にもたれかけ腕を組んでいる。ピンク髪の騎士を睨みつける。
へヴァン第一皇子だった。
ピンク髪の騎士は、その人物のオーラにおじけづいた。
かつて、こんなに人間相手に恐怖を感じたことはない。
ーーやられるかもしれない⋯⋯!
本能的な震えが止まらない。
この感覚は、補食されそうになったあの感覚だ。
「ケ、ケンタ⋯⋯」
声まで震える。
「お前の弓の腕前は褒めてやる。ただ、あの矢の軌道だと体をかすめるのが目的だったのだろう。毒を塗っていたな? 解毒剤を持っているだろう。よこせ。」
ケンタと名乗る人間は、全身震えるだけで動けない。
ーー怖い、怖いよぅ⋯⋯。
へヴァンはしびれを切らしたのか、ケンタが乗っている枝に飛び移った。
そして、彼の上着の中を物色する。
その間も、ケンタは冷や汗が止まらない。
へヴァンは、彼の上着のポケットから小瓶を取り出した。
「今度、リエルに手を出したら……」
彼は、ケンタの耳に小声で警告する。
「食ってやる」
※ ※ ※
「キリアン様、お止めください! 未知の毒ですので!」
キリアンは皇医に止められながらも、ナユタのくるぶしの傷から、必死に口で毒を吸い出そうとする。
もう全身に回った後だろう。
この行為に意味はないかもしれない。
それでも、キリアンはやめようとはしなかった。
ナユタの瞳からは、意識が朦朧としながらも、涙が次から次へと溢れ出してくる。
ーー良かった、皇子様が無事で⋯⋯。
閉じた瞼の裏では、雛の姿で幼いリエルと過ごした時間が流れていた。
※
(一体、どこに逃げたんだ……)
こんな広大な皇宮内で、人間二人を探しだすなんて不可能に近い。
しかも、逃亡してから20分は経っている。
リエルは、なすすべもなく立ち止まっていた。
すると、かすかに助けを呼ぶ声がリエルの耳に届く。
人影が現れ、一人の騎士が手を振って走ってきた。
「はぁはぁ⋯⋯っ助けてください! 怪しい者とブライヤ様が交戦中です! 応戦お願いいたします!」
「君は⋯⋯確かバーヤル」
「あぁっ! リエル殿下! 失礼いたしました! 奥でブライヤ様が……」
聞くやいなや、リエルは駆け出した。
パーヤルもリエルの後に続いた。
※
「口ほどにもない! 早くそこをどけ!」
「ここを通すわけにはいかない!」
防戦一方ではあるが、ブライヤは必死にロザンの剣をかわす。
ガキーーーーンッッ!!!
ブライヤをかばうように、一本の剣がロザンの剣をはじいた。
「何者だ!!」
「名乗らないとわからないのか? 貴様はハバイシュ家の者だな」
ロザンは、剣を弾いた騎士を見て驚愕した。
リエル第二皇子。
不吉第ニ皇子と揶揄されている皇子だ。
しかし、今、ロザンは、目の前で立ちふさがる人物のオーラに身動きが取れずにいた。
「今すぐ殺したいが先を急ぐ。解毒剤を持ってるだろう」
「な、なんのことか」
ロザンはこの期に及んで、とぼけた表情をした。
「いたっっ!!」
リエルはロザンのくるぶしあたりを軽く傷つけた
「ナユタが傷ついた場所だ。次は突き刺そうか? 解毒剤がないのなら、しょうがないよな?」
リエルはにっこり笑って、剣を振りかざした。
「わ、悪かったです! ある! あります! 解毒剤!」
ロザンは態度を豹変させた。
あたふたと上着の内ポケットから小瓶を取り出した。
「ど、どうかこれでお許しを!」
小瓶を両手の上に乗せ、献上するような格好でリエルに差し出す。
恐怖で顔を歪めるロザン。
小瓶を取り上げたリエルは、彼に汚物を見るような視線を送る。
そして、彼の傷ついたくるぶしを踏みつけた。
ロザンは、たまらず声にならない叫び声を上げた。
「下衆が」
リエルは一言つぶやいて、ホールに向かって走った。ブライヤとパーヤルはロザンを捕縛。
その間、時折ロザンはニヤリと笑っていた。
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