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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第七章 デビュタント当日

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66.混乱

「ナユタ嬢⋯⋯? 一体、これは?」


 皇医の(つぶや)きにキリアンが気付き、目を見開いた。


「ナユタ! どうしたんだ! どういうことだ!」


 狂ったように、キリアンは叫ぶ。

 ナユタの瞳は、床に口から落ちた赤い血痕(けっこん)を映す。


(これは⋯⋯私の血⋯⋯)


 徐々に視界が霞んでいく。

 リエルは、力が抜けたナユタを後ろから支えた。


「これは毒!? 毒なのか!?」


「いえ、こんな毒は初めてです! 矢に毒が塗られていたとしても、通常すぐに麻痺や呼吸困難が起こるはず。負傷されてから、15分は経っています! こんな遅延性の毒は我が国にはありません!」


 声を震わせながら説明する皇医。


「すると、東帝国には解毒剤も存在しないということになる。なんてこと!!」


 クレオは怒りで頭を抱えた。

 リエルはキリアンに弱っているナユタを託し、捕縛した刺客に問いただす。

 ゆっくり尋問にかけてる時間はない。


「これはどういうことだ! お前らは僕の命を狙ってたんじゃないのか!? 何故ナユタがこんな目に!?」


 襟首を捕まれた刺客もとまどっている様子だ。


「ナユタ嬢の命を狙ってなんかない。指令はリエル皇子殺害だった。貴族寄りの皇后陛下の実子へヴァン皇子を皇太子にするため……エストリニア神が認めたナユタ嬢を狙うヤツなんて、この東帝国にいるはずがない!」

「もういい、時間がない! 解毒剤はどこだ! ミスした時のために、解毒剤を持っているヤツがいるだろう?!」

「く、詳しくは知らないが、弓をひいた傭兵とハバイシュ家の騎士団長が持っていると思う」


 リエルは、返答を聞くやいなやホールを飛び出した。


「リエル殿下!」


 カノ騎士がその後を追った。


 キリアンは、横たわり青ざめたナユタを抱きしめる。


 ーー僕のせいだ、僕がリエル殿下に剣を向けなければ!! 


 ナユタは肩で息をしながら、震える手でキリアンの頬に触れる。ナユタの手の冷たさに、キリアンは一瞬(ひる)んだ。


「ち、違い、ます⋯⋯にいさまの、せいでは⋯⋯ありません」

「いいから、もう話すな、頼む⋯⋯」


 ナユタの手を握りながら涙を流すキリアン。

 レオンにとって、その光景はまさに地獄絵図だった。


(なぜ⋯⋯なぜこんなことに! 今日は子供達にとって、人生で最高の日になるはずじゃなかったのか! )


 レオンはナユタに目線をうつす。

 彼女は必死に酸素を求めている。生きようともがいている。


(諦めてはいけない! 子供達は、今、苦しんでいるんだ!)


 レオンは自らを奮い立たせた。


「とにかく解毒剤を探すことが先決だ! リエル殿下に続け! 弓を放った刺客とハバイシュ家の騎士団長を探せ!」


 騎士達は、クレオ大公とレオンの指示を受け、実行者を探し始めた。


  ※


「あー、少し遅れちゃったわねぇ。リリィの晴れ姿を拝まなくっちゃあね!」


 ピィピィと陽気に歌を歌いながら、一羽のモモイロノトリがホールの天窓に降り立つ。

 天窓は何故か開いていた。

 下を覗くと、親友のナユタ(リリィ)が口から血を流して仰向け倒れていた。

 それを人間の兄が抱き抱えている。


(え? 何これ? 求愛ダンスを大好きなオウジサマと踊るんじゃなかったの? )


 ハンナは、動揺して身震いし出した。


(何⋯⋯? 何があったの? )


 ふと、足元の窓枠あたりに、ピンクの羽が何枚か落ちている。


(まさか⋯⋯!! )


 ハンナは、慌てて飛び立っていった。


 ※


 ハバイシュ家の騎士団長のロザンは、園庭を死に物狂いで走っていた


(ナユタ嬢に見事に当たった! さすがあの傭兵はすごい、人間離れしたヤツだ! もうこんな国は、伯爵様と一緒におさらばだ! )


 ロザンは、前方の道が二手に分かれていて、どっちに走るべきか一瞬迷った。

 すると、一方の道から中級騎士ブライヤとその従騎士パーヤルが、会話しながら歩いてきた。


「火災は結局なんだったんだ?」

「しばらく原因解明に時間がかかるでしょう。火元のない場所なので、放火の可能性が高いんじゃないでしょうか? レオン閣下やクレオ閣下は、ホールに戻りました。ホールの護衛が手薄になってはいけないので。」

「ふーん、何もなければいいが⋯⋯ん?」


 2人がパトロールしている道に、一人の騎士が立ち止まっている。


「パトシュナ家のブライヤと申します。どうされたのですか?」


 自分より身分が高いであろう騎士に声をかける。

 彼はハバイシュ家のエンブレムを着けていた。


(ハバイシュ家は東門あたりの担当ではなかったか? )


 ブライヤは、西門に向かうこの騎士の行動に疑問をもった。


「ちょうど良い。私はハバイシュ家の騎士団長ロザンだ。西門はどちらの道を進めば良いのか?」

「何故ホールの方向から来られたのですか? ハバイシュ家は、それこそ火災のあった東門の護衛担当では?」


 ロザンは、一瞬(ひる)んだが、疑問に答える。


「火災があり、会場に報告に駆けつけたところ、西門から出て避難するよう指示されたのだ」

「誰に? それに騎士は主人を守るのが責務でしょう。皇族、ナユタ嬢を放ってどこに行くのですか?」


 ブレイヤは剣を抜き、怪しい騎士ロザンに突きつけた。


 ーーくそっ! こんなことをしている場合ではないのに! 


 思わず、ロザンは声を荒げる。


「貴様! 中流風情(ふぜい)が! 後で処分されてもいいのか?」

「もし、あなたが脱出する前に捕まえれば、私は一躍(いちやく)英雄ですが」


 ブライヤは怯まず冷静な声で告げる。


「それに⋯⋯私はこの場所で、リエル殿下に直接職務をまっとうするよう命を受けたのです。あなたを通すわけにはいかない」


 ブライヤは、淡々とロザンに語りかける。


「しょうがない!」


 ロザンも怒りにまかせて剣を抜き、2人は対峙した。


「パーヤル! ここは食い止めるから、援助を呼びに行ってくれ!」


 ブライヤは部下のパーヤルに命令した。



 

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