65.反乱
「あれは何? 火事?」
「かなり広がっている! 放火か?」
しかし、距離は遠い。東門のあたりだ。
同時に、鳥達が羽ばたく音、皇宮所有の猟犬の吠える声、馬鳴き声が一斉に響き渡る。
一体何が起こったのか。
黒煙が東の空の色を闇に変えている。
そして、デビュタント会場は騒然となった。
「静まりなさい!」
皇帝テオが立ち上がって、一喝。
「騎士の誘導に従って避難しなさい! クーデターの可能性もある! 外の安全を確かめてから避難指示がでる。その場で待機なさい!」
さすがに、テオはどんな状況でも落ち着いていた。
クレオとレオンは、会場内の騎士達を引き連れて、火災現場と思われる皇居東門辺りに出動。
外で待機していた護衛も、怪しい人物がいないか捜索を始めた。
「大丈夫か? 驚いただろう」
リエルはナユタをかばうように抱き締めていた。
「は、はい⋯⋯何が起こったのでしょうか」
「事件か事故かわからない。調査を待つしかない」
この場所から東門までは、馬を走らせても5分はかかる。
貴族達は皇帝の指示通り、その場で静まり返り、少し落ち着きを取り戻していた。
その時!
会場内に武装した数十人の騎士が、濁流のように突入してきた。
「動くな!」
「邪魔をすると、斬る! 道を開けろ!」
会場内は再び混乱に陥った。
「キャアアアッッ!」
「クーデターか!? バカな!」
四方八方に貴族や使用人が逃げ惑う。
今は、東帝国騎士団も皇室騎士団も、火災現場に急行していて、護衛の人数が少ない。
ーー火災はホール内の護衛騎士を減らす囮だったんだわ!! リエル殿下を護らなければ!
ナユタは、自分を抱きしめているリエルの袖を強くつかむ。
刺客達は、ホール中央にたたずむリエルとナユタ二人に向かっていた。
ターゲットは、リエルとナユタであることは明らか。
彼らの標的ではない貴族達は、今度こそ外に逃げようと出入り口に殺到する。
残る護衛騎士達は、必死に二人を守っていた。
「誰か剣を!」
リエルが叫ぶ。
ホール上段の皇室席から騎士が二本剣が投げ飛ばした。
「リエル! 大丈夫? リエル!」
皇后アリシアが壇上から叫んだ。
「大した人数でもありません。両陛下は避難して下さい!」
リエルは剣一本をナユタに渡した。
「君がこれを使うことがなければいいが⋯⋯」
刺客達は自分達が狙いなのだ。
まっすぐ二人の方向に付き進もうとしている。
二人は剣を抜いて、防御体制に入る。
しかし、どうも大したことない刺客達だ。
時間稼ぎのような気もする。
兄キリアンもナユタを背に剣を抜き、刺客達を待ち構えながら刺客の腕を見極める。
(あと数分あれば、全員捕縛できそうだな)
敵は人数は多いが、実力は大したことない。
その時。
キリアンは頭が割れるように痛んだ。
思わず膝をついて、しゃがみこむ。
ーーあいつさえいなければ、ナユタはお前のものになる。
頭の中でこだまする低い声。
「お兄様! 大丈夫?」
兄の異変に気づくナユタ。
リエルは進んで刺客達と対峙している。
致命傷を与えず次々と倒していた。
そんなリエルの背後に、キリアンは回った。
ーーこいつさえいなくなれば!
かすかに黒い影がキリアンの肩に出現した。
その瞬間。
彼は、リエルに向かって剣を振りかざす。
(お兄様!? 何故!? )
カキーーーーンッッ!!
一本の剣が宙を舞う。
兄の剣をナユタが弾き飛ばしたのだ。
同時に。
彼女はリエルを守るように、片足を高く後ろに振り上げた。
手はキリアンの剣を弾いて、すぐに後ろに足を上げた格好だ。
「つっっ!」
すると、ナユタの足に何かが当たり、方向を変えて落ちる。
彼女は、そのまま崩れ落ちた。
くるぶしあたりからの出血している。
「ナユタ!! 大丈夫か!?」
リエルは、狼狽し、しゃがんでいるナユタを覗き込む。
「かすり傷です。すぐ治ります」
確かにそんなに深い傷ではない。
しかし、リエルは鬼と化した。
「絶対に⋯⋯殺してやる!」
すると、なぜか突然バタバタと撤収し始めた刺客達。
リエルは、急いで皇医を呼ぶようにカノ騎士に指示。
キリアンは、地面にへたりこんで微動だにしない。
ーー僕は⋯⋯僕は、今、何を?
ただ、剣を握っていた手を見つめる。
青ざめて小刻みに震えていた。
そこへ火災現場に向かっていたクレオやレオン達が、メインホールに戻ってきた。
刺客達を一人残らず捕縛。
ものの15分程度の騒動だった。
到着した皇医や助手が、ナユタの足の傷の手当てを始める。 縄で縛られた刺客達、護衛騎士、皇医、助手、リエル、ナユタ、キリアン、レオン、クレオ大公のみが残るホールは、がらんとしていて静かだ。
負傷者数の確認。
捕縛した刺客達を連行。
後始末の段階に入った時。
「ごほっっ⋯⋯」
ナユタが一つ咳をした。
足の手当てを終えた皇医が顔を上げる。
すると、小さな赤い唇の端から、一筋の鮮血がしたたり落ちていた。
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