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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第七章 デビュタント当日

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65.反乱


「あれは何? 火事?」

「かなり広がっている! 放火か?」


 しかし、距離は遠い。東門のあたりだ。

 同時に、鳥達が羽ばたく音、皇宮所有の猟犬の吠える声、馬鳴き声が一斉に響き渡る。


 一体何が起こったのか。

 黒煙が東の空の色を闇に変えている。


 そして、デビュタント会場は騒然となった。


「静まりなさい!」


 皇帝テオが立ち上がって、一喝。


「騎士の誘導に従って避難しなさい! クーデターの可能性もある! 外の安全を確かめてから避難指示がでる。その場で待機なさい!」


 さすがに、テオはどんな状況でも落ち着いていた。

 クレオとレオンは、会場内の騎士達を引き連れて、火災現場と思われる皇居東門辺りに出動。

 外で待機していた護衛も、怪しい人物がいないか捜索を始めた。


「大丈夫か? 驚いただろう」


 リエルはナユタをかばうように抱き締めていた。


「は、はい⋯⋯何が起こったのでしょうか」

「事件か事故かわからない。調査を待つしかない」


 この場所から東門までは、馬を走らせても5分はかかる。

 貴族達は皇帝の指示通り、その場で静まり返り、少し落ち着きを取り戻していた。


 その時!

 会場内に武装した数十人の騎士が、濁流(だくりゅう)のように突入してきた。


「動くな!」

「邪魔をすると、斬る! 道を開けろ!」


 会場内は再び混乱に陥った。


「キャアアアッッ!」

「クーデターか!? バカな!」


 四方八方に貴族や使用人が逃げ惑う。

 今は、東帝国騎士団も皇室騎士団も、火災現場に急行していて、護衛の人数が少ない。


 ーー火災はホール内の護衛騎士を減らす(おとり)だったんだわ!! リエル殿下を護らなければ! 


 ナユタは、自分を抱きしめているリエルの袖を強くつかむ。

 刺客達は、ホール中央にたたずむリエルとナユタ二人に向かっていた。

 ターゲットは、リエルとナユタであることは明らか。

 彼らの標的ではない貴族達は、今度こそ外に逃げようと出入り口に殺到する。

 残る護衛騎士達は、必死に二人を守っていた。


「誰か剣を!」


 リエルが叫ぶ。

 ホール上段の皇室席から騎士が二本剣が投げ飛ばした。


「リエル! 大丈夫? リエル!」


 皇后アリシアが壇上から叫んだ。


「大した人数でもありません。両陛下は避難して下さい!」


 リエルは剣一本をナユタに渡した。


「君がこれを使うことがなければいいが⋯⋯」


 刺客達は自分達が狙いなのだ。

 まっすぐ二人の方向に付き進もうとしている。

 二人は剣を抜いて、防御体制に入る。

 しかし、どうも大したことない刺客達だ。

 時間稼ぎのような気もする。 

 兄キリアンもナユタを背に剣を抜き、刺客達を待ち構えながら刺客の腕を見極める。


(あと数分あれば、全員捕縛できそうだな)


 敵は人数は多いが、実力は大したことない。

 その時。

 キリアンは頭が割れるように痛んだ。

 思わず(ひざ)をついて、しゃがみこむ。


 ーーあいつさえいなければ、ナユタはお前のものになる。


 頭の中でこだまする低い声。


「お兄様! 大丈夫?」


 兄の異変に気づくナユタ。

 リエルは進んで刺客達と対峙している。

 致命傷を与えず次々と倒していた。

 そんなリエルの背後に、キリアンは回った。


 ーーこいつさえいなくなれば! 


 かすかに黒い影がキリアンの肩に出現した。

 その瞬間。

 彼は、リエルに向かって剣を振りかざす。


(お兄様!? 何故!? )


 カキーーーーンッッ!! 


 一本の剣が宙を舞う。


 兄の剣をナユタが弾き飛ばしたのだ。

 同時に。

 彼女はリエルを守るように、片足を高く後ろに振り上げた。

 手はキリアンの剣を弾いて、すぐに後ろに足を上げた格好だ。


「つっっ!」


 すると、ナユタの足に何かが当たり、方向を変えて落ちる。

 彼女は、そのまま崩れ落ちた。

 くるぶしあたりからの出血している。


「ナユタ!! 大丈夫か!?」


 リエルは、狼狽(ろうばい)し、しゃがんでいるナユタを覗き込む。


「かすり傷です。すぐ治ります」


 確かにそんなに深い傷ではない。

 しかし、リエルは鬼と化した。


「絶対に⋯⋯殺してやる!」


 すると、なぜか突然バタバタと撤収し始めた刺客達。

 リエルは、急いで皇医を呼ぶようにカノ騎士に指示。

 キリアンは、地面にへたりこんで微動だにしない。


 ーー僕は⋯⋯僕は、今、何を? 


 ただ、剣を握っていた手を見つめる。

 青ざめて小刻みに震えていた。


 そこへ火災現場に向かっていたクレオやレオン達が、メインホールに戻ってきた。

 刺客達を一人残らず捕縛。

 ものの15分程度の騒動だった。

 到着した皇医や助手が、ナユタの足の傷の手当てを始める。 縄で縛られた刺客達、護衛騎士、皇医、助手、リエル、ナユタ、キリアン、レオン、クレオ大公のみが残るホールは、がらんとしていて静かだ。

 負傷者数の確認。

 捕縛した刺客達を連行。

 後始末の段階に入った時。


「ごほっっ⋯⋯」


 ナユタが一つ咳をした。

 足の手当てを終えた皇医が顔を上げる。

 すると、小さな赤い唇の端から、一筋の鮮血がしたたり落ちていた。


 

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