63.記念日の朝
「いよいよ今日ねーー! 『デブタント』!」
「『デビュタント』ね⋯⋯ハンナ」
朝5時から早起きの小鳥たちは、おしゃべりに余念がない。
野生動物達にとっては、なんの変哲もない朝に過ぎなかった。
皇居の園庭も、まだ空は暗く、朝の澄んだ空気にひっそりと佇んでいる。
「リリィ、あんたの晴れ姿こっそり見に行くよ!」
「忙しかったら、無理しなくていいよ」
「じゃあねーーまた後でね」
ハンナは、早朝の空を忙しなく飛び立った。
「私も少し二度寝して、準備しなきゃ」
リリィは、ナユタに戻るため急いで皇居のゲストルームに戻っていった。
※
今日はナユタのデビュタント当日。
静養していたキリアンも体調が戻り、妹ナユタをエスコートする予定だ。
次期皇太子妃のデビュタントとあって、中央地域のほとんどの貴族が集結する。
会場内の護衛は、東帝国騎士団の騎士達がその責務を担う。
会場外はそれぞれの家門に割り振られた。
※
ナユタは白いドレスに着替え、瞳と同じエメラルドのアクセサリーをつけていた。
髪はゆるく結い上げ、少し巻き髪をこめかみにおろす。
ほぼ準備が完了。
その時、兄キリアンがナユタの様子を確認しにドレス部屋に立ち寄った。
「ナユタ、準備は⋯⋯っ!」
キリアンは言葉を失くす。
「お兄様、馬子にも衣装って言わないの?」
ナユタは立ち尽くす兄をからかう。
キリアンの脳裏には、初めて出会った瞬間、父の後ろに隠れていた小さなナユタが蘇る。
およそ8年前の場面。
あの時の雷に打たれたような衝撃。
心臓の上を手でおさえても、乱れた動きはおさまらない。
キリアンは、あの日のように走って逃げてしまった。
「ちょっと! お兄様! 迎えに来たんじゃないの?」
その時、一羽のモモイロノトリが少し離れた木から、ナユタの部屋をのぞいていた。
※
アンナの小さな墓の前。
リエルは小さな花束をそっと供えた。
彼はすでに公式行事の正装に着替えている。
後ろから、いつかの中級騎士パトシュナ家のブライヤと従騎士パーヤルが、木の実を持ってきた。
「リエル殿下にご挨拶いたします」
「ありがとう、ちゃんと足を運んでくれてるんだね」
「殿下もよくここに来られるのですか?」
「私はほぼ毎日来てるよ。ただ、君達は無理をしないように。来たくなったら、来てくれたら良い。今日は忙しいだろう?」
「リエル殿下の方が何倍もお忙しいでしょう。」
今日はナユタ嬢のデビュタント。
国中上げての祝福ムードでお祭り騒ぎだ。
「警備はどこに配置されたの?」
「はい、皇居の園庭のパトロールです。会場からは離れてますね。ちょうどこの辺りを回ります」
「そうか、よろしく頼む」
「は、はい!」
リエルはそのままデビュタント会場に向かった。
※
「シュバルツ家ナユタお嬢様、デビュタントおめでとうございます!」
「ご成人おめでとうございます!」
「東帝国ばんざーい!」
町では、紙吹雪が舞い人々が踊り、祭りが開催されていた。
「シュバルツ家の養女が、まさかエストリニア神に皇太子妃に選ばれるとは」
「素敵な話ねーー」
「シンデレラストーリーだわ!」
民衆達は、皇族の噂話に花を咲かせた。
そんな中、次々と貴族達の馬車が、町中に列をなして皇居に向かっていた。
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