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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第五章 デビュタント前

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62.デビュタント3日前

 ナユタに登城を要求する皇命。

 そのため、兄キリアンと共に馬車で皇居に向かう。

 父レオンは業務のため、3日後に現地でおちあうことになった。

 いよいよ3日後には次期皇太子妃ナユタのデビュタントだ。


「お兄様、どうかしましたか? 顔色がすぐれませんね」


 馬車の中で疲労の色が濃いキリアンを気づかうナユタ。


「最近、寝つきが悪くて。考えることが多いからかな」

「例えば?」

「お前のこと以外に頭を悩ますことはないだろうが」


 キリアンは呆れて返答する。


「デビュタントが終われば、皇太子選定があるだろう。すぐに婚約、婚姻だよ。お前は平気なのか?」

「確かに。それに関してはお父様に意見しようと思っています」

「え?」


 キリアンは、想定外のナユタの返答に驚く。

 その瞬間。

 突然、頭が割れるような痛みと共に、目の前が真っ暗になった。


「お兄様? 大丈夫ですか?」


 頭を抱えてうずくまるキリアン。

 ナユタは動揺して、彼を抱きかかえた。


「あ、ああ、なんでもない。びっくりさせたな」


 キリアンは、ナユタの腕の中で体制を立て直す。


(貧血かな? 皇居で少し休ませてもらおう)


 ※


 馬車が皇居に到着。

 両陛下やリエル皇子、多くの護衛、使用人が出迎えている。

 ナユタはさっさと護衛のエスコートで馬車を降り、次にキリアンが降りてきた。


「お兄様、失礼します」


 ナユタは、キリアンを抱き上げた。

 いわゆるお姫様だっこ(・・・・・・)である。

 両陛下、リエル他、皆が呆気にとられている。

 キリアンは、言葉も出ず固まっていた。

 ドレスで着飾った次期皇太子妃が、体格の良い男性を軽々と持ち上げて、スタスタと皇城に向かって歩く。

 リエルが、思わずナユタに小走りに駆け寄ってたずねる。


「どうしたんだ? キリアンは歩けないのか?」

「お兄様の体調が思わしくありません。申し訳ないですが、客室に直行いたします」

「護衛が連れていくよ。ナユタはひとまず挨拶に忙しいだろう? 両陛下にも⋯⋯」

「お兄様を、私が客室のベッドに寝かせてからです。これは譲れません」


 リエルはナユタの性格を熟知している。

 そのため、彼は説得は諦め、兄をお姫様だっこするナユタの後ろ姿を眺めるしかなかった。


  ※


「お兄様、大丈夫ですか? 熱はなさそうですが」


 キリアンを皇居のゲストルームのベッドに降ろした。

 そして、彼の額に手をあてている。


「両陛下の前で恥ずかしい。妹に抱きかかえられるなんて。ろくに挨拶もしないで、不敬なことこの上ないぞ。今すぐ謝罪してこい」


 キリアンは、ナユタの手の感触に本当に発熱しそうだった。


「では、改めて両陛下と殿下に挨拶して参ります。お兄様のことは、使用人におねがいしておきますね。ゆっくりなさって下さい」


 ナユタはそう言い残して、客室を後にした。


  ※


「東帝国の太陽に御挨拶いたします。シュバルツ侯爵家のナユタと申します。先ほどは失礼いたしました。今日からデビュタントの日までお世話になります。」


 皇帝テオと皇后アリシアは、ナユタがますます亡きナーシャ夫人に似てきたことに感嘆する。


「突然の登城の皇命に戸惑ったであろう。次期皇太子妃の身の安全のため、早目に来てもらった。皇室に新しい風を運んでくれることを期待している」 


 テオはナユタを気遣った。


「ようこそナユタ嬢。歓迎いたします。この通り、皇室は男性ばかりだったので、個人的にかわいい娘ができることが、とても嬉しいのですよ。何かありましたら、なんでも相談して下さいね」


 皇后アリシアは、にこやかにナユタに声をかける。

 ナユタは、彼女が別人のように表情が明るくなり驚く。


(皇后陛下は、リエル殿下との関係も改善したと聞く。何があったのだろう)


 ナユタは両陛下に感謝の言葉を述べ、謁見を終えた。


 ※ ※ ※


「リリィ、今日はナユタが皇居に登城したんだよ」


 ナユタは、今日もリリィになって、皇子と夜の時間を過ごしていた。

 ろうそくの小さな炎が、皇子の部屋をぼんやり照らしている。


「ナユタはキリアンにかかりきりなんだよ⋯⋯しょうがないんだけど、兄と距離が近すぎるんだよね」


 リリィは、リエルの兄キリアンを嫉妬する言葉に目を丸くする。

 小鳥は、とりあえずピィピィ鳴いて、相手は兄じゃないか、と訴えた。


「⋯⋯僕もあれして欲しい。お姫様だっこ(・・・・・・)ってやつ? ファーストダンスもへヴァン兄上に取られちゃって⋯⋯」


 リリィは、まさかお姫様抱っこを羨ましがってるとは思わず、吹き出しそうになった。


「あっ! 今、笑ったろ? もう付き合い長いんだから、わかるんだよ!」


 ーー 皇子様かわいい! もう今すぐナユタになって、お姫様抱っこでも何でもしてあげたくなっちゃう!


 しかし、リリィは戻らなくてはならない時間が迫ってきた。ナユタがちゃんと寝ているか、使用人が部屋に定期的に確認するためだ。

 リリィは窓に近づいてつつくと、リエルが窓を開けてくれた。


 ーーしかし、皇太子妃になったら、皇子様とのこの大切な夜の時間はどうなるのだろう⋯⋯もう7年も続くルーティンなのに。


 小さな疑問を抱いたまま。

 一羽のモモイロノトリが皇子の部屋から飛び立つ。

 そして、その様子を園庭からへヴァン皇子が見上げていた。

 

最後までお読みいただきありがとうございます


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