59.へヴァンの居場所
アリシア皇后が黒魔術から、ついに解放された。
その一時間後。
皇后テオが第一皇子へヴァンの部屋を訪れていた。
「ありがとう。君のおかげで黒魔術が解けた。リエルも明日視察から戻ってくる」
テオは興奮し、少し早口でへヴァンに報告する。
「⋯⋯おめでとうございます」
「アリシアとは少し話をしたが、黒魔術にかかっている間も、外の景色は見えていたようだ。君のことも本物のへヴァンではないことを見抜いていた」
皇帝はへヴァンを気にかけて、今後のことを口にする。
「君はこの9年、皇家のために自分を犠牲にして、リエルを守り抜いてくれた。私は君がいなかったら、全てのものを失っていたかもしれない」
「大袈裟です」
「何度も言う。頼むから、ここにとどまってほしい。私は君のことをリエル同様大切な存在だと思っている」
へヴァンはうつむき、拳を握って、かぶりを振った。
「僕の居場所はここではない。それはわかる。」
「⋯⋯東帝国以外どこに行くんだ?」
「僕はどこでも生きていけますよ」
へヴァンは、にっこり悲しげに笑った。
※
翌日早朝。
予定通り、南部ノブァコーストア視察団は帰城した。
「両陛下に御挨拶申し上げます。ただいま、私、クレオはリエル殿下と共に南部視察を無事に終え、戻って参りました」
大公クレオは両陛下を前に跪き頭を下げる。
「ご苦労であった。 今日はもう疲れたであろう。クレオには客室を用意した。しばらくゆっくりしてくれ。リエルは私と軽く話そう。私の部屋に来なさい。」
「承知いたしました。着替えて早急に参ります。」
リエルは頭を下げて、謁見の間をクレオと共に退室した。
※
「陛下、リエル殿下が来られました」
護衛騎士がテオの部屋の外から声をかける。
「どうぞ。 ちょうど茶の用意も終わったところだ」
「陛下、失礼いたします」
リエルは頭を下げ部屋に入ると、緊張が走った。
そこには、皇后アリシアもいたからだ。
「し、失礼しました。皇后陛下もいらっしゃるとは思わず⋯⋯リエルが御挨拶申し上げます」
アリシアは、リエルを優しい目で見つめる。
「立派になって⋯⋯さぞ亡きマリアン妃も喜んでいるでしょう」
「アリシア陛下?」
アリシアはリエルに歩み寄り謝罪する。
「今までの私の行動や言動を許してとは言いません。ただ、あなたを傷つけてしまいました⋯⋯どう償ったらいいか。ごめんなさい、ごめ⋯⋯っ!」
真っ青な顔で、はらはらと涙を流し続け言葉がつまるアリシア。
リエルは、アリシアの体を支え言葉をかける。
「お止めください。陛下が私に何をなさったと言うのですか?」
「私はあなたをっ⋯⋯!」
「アリシア、そこまでで良い」
アリシアの言葉をテオが遮った。
「リエル、お前は幼い頃から、私達と見えない壁を感じていたことだろう。どうかこれからの未来で償わして欲しい。誠心誠意、お前を支え続けるつもりだ。」
皇帝テオまで頭を下げられ、リエルはとまどった。
「私は幼い頃、確かに愛情に飢えていたと思います。しかし、今は亡きナーシャ夫人によくしていただきました。もちろんレオン閣下、キリアン卿、ナユタ嬢も同様です。」
そこで、リエルは少し間を開けて言葉を続けた。
「何より、私を支えてくれたのは、モモイロノトリのリリィです。またリリィにも会ってやって下さい」
リエルはアリシアの背中に手を添えて、ソファに座ることを促した。
「せっかくこうしてお茶を用意していただきました。座って話をしましょう。もう未来のことだけ考えましょう」
「リエル、ありがとう。」
リエルは初めて皇家で家族という絆を感じた瞬間だった。
「ところで、へヴァン兄上はどうされたのですか?」
リエルは兄一人この場所に欠けていることに気づく。両陛下は顔を見合わせた。
「へヴァンは少し体調を崩していてな。お前達は二人とも、これから忙しくなる。今は体調を整えておくように。」
「承りました」
リエルは、母の優しい眼差しに、瞳が潤み視界がにじんでいた。
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