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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第四章 過去編 9年前〜7年前(リリィ登場前)

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57.11歳の殺し屋

 ニ年後、へヴァン皇子11歳、リエル皇子10歳になっていた。

 リエルを『不吉第ニ皇子』と貴族が呼び初めて二年。

 彼に寄り添う貴族は、シュバルツ侯爵家のレオン、ナーシャ、キリアンの三人だけとなっていた。


 そして、この二年間、リエルを狙ったと推測される刺客が後を立たない。

 皇后アリシアが送り込んだ傭兵は、へヴァンが全員始末していた。

 絶命している傭兵を使用人が見つけては、皇帝テオに報告が入る。


(またへヴァンがリエルを救ったのか? )


 もう何人目かわからない。

 刺客の口を割らしてはいけない。アリシアに捜査が及んでしまう。 

 そのため、確実に手早く仕留めなくてはならない。

 それを9歳から一人の少年が淡々とこなしているのだ。


 (プロの殺し屋みたいだ)


 彼には感謝してもしきれない。

 第一皇子としての勉学も所作も完璧にこなす 。

 剣術の授業は受けていないが、熟練の傭兵を次々と倒すので、全く必要ないだろう。


「なんとかアリシアが自分を取り戻した後も、第一皇子としてリエルを支えてくれないだろうか。報酬はいくらでも出す。」


 テオの要望を耳にした瞬間。

 ヘヴァンは顔を一気に紅潮させた。


「いえ、僕はリエル皇子が成長したら、姿を消します。陰ながら見守ります」

「平民に戻るということか?」

「そう考えていただいて結構です」



 ※ ※ ※


 突然、皇室に訃報が入った。


 シュバルツ侯爵家のナーシャ夫人急死。


 元々心臓が弱いことは、社交界では周知の事実ではあった。

 しかし、あまりにも若い。

 夫レオンと一人息子キリアンの悲しみは計り知れない。

 そして、彼女を母のように慕っていたリエルは⋯⋯。


「リエルは大丈夫だろうか」


 テオはへヴァンに問いかける。


「今は、侍女アリサに彼の心のケアを万全にするよう命じて下さい。しばらく様子をみましょう。」


 ※ ※ ※


 その数日後の夜。

 アリシアの部屋。

 今、彼女はよく眠っていた。

 寝顔を見守るテオとへヴァン。

 テオとへヴァンは、アリシアが眠りにつくまで、手を握り他愛のない会話をするのが、夜のルーティンとなっている。


 アリシアの部屋を出て、テオの部屋へ二人は移動する。

 そこでは、毎日へヴァンがリエルの様子を報告していた。


「今日、リエルが巣から落ちた雛を救いました。巣立ちまで育てるそうです。」

「そうか⋯⋯私達がそばにいてやれないから、動物から癒しをもらってくれれば助かる。」

「あれから、二年。たまにアリシアが苦しみ出すが、あまり状況は変わらないな」


 テオは大きくため息をついて落胆する。


「お母様がマリアン妃に嫉妬していた期間は、どのくらいですか?」

「⋯⋯推測になるが、マリアンと婚約してからと考えると大体9年かな」

「じゃあ、覚醒するまで同じ時間か⋯⋯それ以上かかるかもしれませんね」

「そんなに?」

「こればかりは分かりません。リエルは、僕がいる限り守ります。お母様を深層世界から出してあげれるのは、お父様だけです。だから、お父様は毎晩お母様に語りかけてあげて下さい。」


 二人がそんな毎日を送っていることも知らず、リエルは小鳥の雛の世話をやいていたーー。


 ※ ※ ※


(ここは……? )


 皇后アリシアは、真っ暗な空間で目を覚ます。


(何も見えないわ⋯⋯ここはどこ? )


 体を起こして、覚醒しきれていない頭をおさえた。

 そして、巨大な光に照らされる。

 人間の眼の中にいるような感覚。

 光が入る眼の形の二つの窓が、まばたきするように開閉を繰り返す。

 開くと外の世界が見えた。

 一人の男性と一人の少年の姿がぼんやりと見える。

 馴染みのある部屋⋯⋯アリシアは自室であることに気づく。


「それで、次こそはリエルを確実に始末できるのでしょうね」


(これは⋯⋯私の声? 私は今、自分の眼の中から外を見ているの? )


「おまかせ下さい 。我々は帝国屈指の傭兵集団です。優秀な護衛がついていようと、標的を逃したことはございません!」


 雇われ傭兵がアリシアに頭を下げて、リエル第ニ皇子殺害の密命を受けている場面。


「楽しみだわ。 リエルが片付いたら、自然と私の息子へヴァンが皇太子になるもの。ねえ? へヴァンも期待してるでしょ?」


 幼いへヴァン第一皇子が密談に加わっている。


「そうですね。 弟リエルさえいなくなれば、東帝国はほぼ手中に治めたも同然ですね」


 へヴァンはニヤリと気味悪く微笑む。


『へヴァン⋯⋯? いや、この少年はへヴァンではないわ! そっくりだけど⋯⋯違う! 』


 暗い空間でアリシアは狂ったように叫んだ


 ーーふふふ⋯⋯やっと目が覚めたか。


  『だ、だれ……? 』


 ーー私はあなたの体を意のままに操る者。


 アリシアは後ろを振り向く。

 暗い空間に、浮かび上がる不気味な白い影。

 それがアリシアに語りかけた。


 ーーあなたが本物の皇后アリシアですよ。


『もちろんよ! 私がテオ皇帝陛下の妻、へヴァン、リエルの母親よっ』


 ーー残念ながら、あなたはもう二年も私に憑依されています。


『二年⋯⋯二年ですって? どの時点から? 』


 確か皇子達とキリアン⋯⋯三人がかくれんぼをしていて⋯⋯へヴァンが池に落ちて⋯⋯そこから記憶がない! あれから私はずっと眠っていたの? いえ、体を乗っ取られているの?


 ーー少しは理解したようだな。私は半年前、へヴァン皇子を片付けるよう刺客を仕向けたのだが、お前も気づいてるだろう? あれは誰かわからないが、へヴァンの偽物だな。


『へヴァンの偽物? 一体、あれは誰? 』


 確かにへヴァンの姿にしか見えない 。 そっくりなあの少年は誰? 本物のへヴァンはリエルとは仲が良かったはず。気の弱い優しい子だったはず。あのように弟の死を望むはずがない。


 ーーへヴァンが池に落ちて絶望(・・)した皇后⋯⋯あなたの体には、簡単に憑依することができた。何しろ黒魔術には、人間の悲しみや妬みの感情がエネルギー源だからな。


(悲しみはともかく⋯⋯妬み⋯⋯妬みですって?)


『私は誰も妬まないわ!! 』


 アリシアは白い影に絶叫する。


 ーー側妃マリアンへの嫉妬がないとは言わせない。皇帝の愛を一身に受けていたからな。マリアンが死んだ時、それはそれは喜びもひとしおだったのではないか? 


『なんですって? 絶対に、絶対にないわ! 』


 ーー側妃マリアンにそっくりなリエルを見るのも腹立たしかったであろうが。


『無礼な! リエルはへヴァンの弟! 義理でも私の子よ! 』


 アリシアは涙を流しながら叫ぶ。


 ーーこうして黒魔術にかかっているのが、何よりの証拠ではないか。とにかく、私の計画はあなたの体を完全に乗っ取り、偽物へヴァンを皇太子にして東帝国()支配する。あのへヴァンは母親の操り人形みたいなヤツだからな。リエルには消えてもらう。


 アリシアはリエルの身に危険であることは理解したが、こんな闇の世界ではどうすることもできない。


『黒魔術? 私の体は憑依されたままなの? お願い、陛下⋯⋯リエルを助けて ! 私はここからでは何もできないの!』


 深層世界に住む本物のアリシアは絶望する。

 彼女は目の中から、助けを求め、涙を流し続けるしかなかった。



 

最後までお読みいただきありがとうございます


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