表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第四章 過去編 9年前〜7年前(リリィ登場前)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/71

56.愛されるなんて許さない

 翌日。

 皇居の園庭に見知らぬ男の死体が横たわっていた。

 庭師が見つけたようだ。

 皇帝騎士団長のレオン他が調査に入った。

 テオはその報告を淡々と聞いていた。


  ※


 そのあと、皇帝の執務室でテオとへヴァンが、今回の事件について話し合う。


「⋯⋯本当に君が、あの男を始末したのか?」

「はい。他国の傭兵ですね。お母様が依頼したのでしょう。昨日、殺気だっていた騎士は、案内役をしただけです。彼をどう処理しましたか?」

「とりあえず、実家に返した。皇帝騎士団をつけて安全に。実家近くで再就職できるよう手はずも整えたよ」

「それでいいでしょう。調査も早々に打ち切るよう命令して下さい。お母様がリエル殺害を企てたことがバレてはいけないので。 」


 皇帝テオは、9歳の少年が成人男性⋯⋯しかも傭兵を簡単に始末したことを疑う。


「君は⋯⋯一体?」

「⋯⋯お母様が元にもどったら、僕は帰っていいですか?」

「い、いや! ダメだ! せめて、リエルが成人するまでは待ってくれ! 報酬ははずむ!」


 テオはとたんに焦りだす。

 アリシアがいつ元に戻るかわからないが、本物のへヴァンが生きている可能性は低い。

 そして、へヴァンの存在自体が彼女の支えになっている。

 今は、この不思議な少年には、ここにいてもらわなくてはならない。


「成人⋯⋯あと何年ですか?」

「あ、あと8年はいてほしい」

「長いな⋯⋯じゃあ、早くお母様が黒魔術が解けるように願うしかないですね」


 へヴァンはため息をついた。


「身代わりの依頼受けるかわりに、もう一度だけリエルに会わせて下さい。次はお母様にばれないように。それを最後に僕もお父様も、しばらくリエルとの接触を避けましょう。」


 ※ ※ ※


 一週間後。

 皇后アリシアが外出時に、皇帝テオの部屋にて三人で合流する予定を立てた。

 その部屋でリエルを待つテオとへヴァン。


「⋯⋯またお父様がいるんですか?」

「私もこれを最後にリエルと距離を取るのだろう? 私だってリエルが愛しい。ちゃんとそれを伝えなくては。」


 そんな会話の中、リエルがメイドのアリサと一緒に、おずおずと部屋に入ってきた。

 へヴァンはそんなリエルに嬉しそうに駆け寄る。


「リエル! この前はごめんね!」

「⋯⋯お父様、お兄様、僕は大丈夫です。お母様はどうされたんですか? 僕、何かしたのなら謝りたいです。」


 リエルは、8歳の子供らしく自分が悪いことをしたのだと疑わない。

 親は絶対的存在なのだ。その姿にテオは胸が痛む。

 彼は、リエルの目線に合わせるためにしゃがみ、小さな肩に手を置いた。


「いいかい、リエル。お母様は少し心の病気になられたのだ。だから、治療のため、お父様もお兄様も君に冷たくすることもあるだろう。しかし、いつでも私たちは心から君を愛しているよ」

「ああ!! 僕が愛してる(・・・・)って言いたかったのに!!」


 へヴァンは父のテオに声を荒げた。

 そして、二人の間に割って入る。


「いい? リエル! 僕が! 僕が一番リエルを愛してる! わかった? 僕は君の家族(・・)⋯⋯お兄様(・・・)だからね!」


 それだけ言うと、へヴァンはリエルをきつく抱きしめた。

 リエルはきょとんとした表情をしていたが、照れたように言葉を返す。


「ぼ、僕もお兄様を愛してますよ!」

「⋯⋯本当に?」

「もちろんです! 僕の大事なお兄様ですから」

「しばらく、僕はリエルのことを嫌いな態度を取らなくちゃならない。わかってくれる? 心の中では、どんな時もリエルが大好きなんだよ!」

「わかりました、お兄様」


 そこで、へヴァンはやっとリエルを解放する。

 そして、肩をつかんで目線を会わせた。


「もう一度言って。お兄様(・・・)って。」

「お兄様」

「もう一回」

「お兄様」

「も、もう一回だけ⋯⋯」

「お兄様⋯⋯?」


 へヴァンは頬を涙で濡らしていた。

 リエルは思わず小さな指で、彼の目尻の涙を拭う。

 そして、へヴァンにとって永遠の言葉を、無邪気に告げる。


「愛してます、お兄様」


 ※ ※ ※

 それから、また一週間。


 皇后アリシア同様に、二人はリエルを避けるようになった。

 リエルは、テオとへヴァンにいくら冷たい態度を取る(・・・・・・・・)と予告されていたとはいえ、戸惑っているようだ。

 しかし、純粋でどこまでも愛らしいリエル。

 皇家三人に無視をされようが、使用人達にかわいがれ、貴族達にも人気があった。

 彼の周りは愛情であふれている。

 それを目にした時。

 へヴァンは、自身に黒い醜い感情が生まれるのだった。


 ※


「リエルに何かしら理由をつけて、彼の評判を落として下さい」

「⋯⋯なんだと?」

「そうですね、不吉第ニ皇子(・・・・・・)なんてどうです? 実母マリアン側妃が亡くなり、僕のケガも彼の責任にして⋯⋯刺客の傭兵も園庭で死んだ。護衛騎士も実家に帰った⋯⋯この全てを彼におしつけて下さい」

「何故? 君はリエルのことを大切に思ってたんじゃ⋯⋯」

「もう見てられない!!」


 へヴァンは、いきなりテオに激昂した。


「僕はリエルのために、彼を遠くから見てるだけなのに。嫌われるしかないのに! リエルだけが、幸せそうに誰かに笑いかけるなんて耐えられない! 彼から皆を排除してやる!」

「な、なんてことを! リエルが何をしたって言うんだ!」

「じゃあ、僕は帰る! こんな辛い役目やってられない! 国のことなんて僕には関係ないんだ!」


 へヴァンは肩で息をしながら、思いの(たけ)をテオにぶつけた。

 しばらく、二人は黙り込む。

 興奮して叫んだ分、呼吸が乱れていた。


 そして、テオは考える。


 ーーこの子は、リエルをどうしたいんだ? アリシアさえ早く元に戻ってくれれば⋯⋯それまではなんとか⋯⋯。


「わかった。好きにすればいい。」

「では、お母様をつかって不吉第ニ皇子(・・・・・・)というリエルの異名を広めてもらいます。」


 その後、「不吉第ニ皇子」は、またたく間に貴族の間に広まり、リエルから少しずつ貴族や使用人が離れていった。



 ※ ※ ※


 それ以来ずっと。


 テオは、アリシアとなるべく同じ時間を過ごすように努めた。

 黒魔術にかかっている彼女は表情に乏しい。

 夜は彼女が眠りにつくまで、手を握った。

「愛してる」と何度も伝える。

 その間、彼女は表情も崩さず、形式的に「私も」と答えるだけだった。

 目を閉じながらも、よく彼女は呼吸を乱し、うめき声を上げ、やがて深い眠りにつく。


 一体、何年かかれば、皇后アリシアが元に戻るのかわからなかった。







 

最後までお読みいただきありがとうございます


感想や評価、リアクションいただけると、とても嬉しいです(.❛ᴗ❛.)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ