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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第四章 過去編 9年前〜7年前(リリィ登場前)

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55.鳥さんが大好き!

「好きな食べ物⋯⋯マドレーヌ!」

「じゃあ、好きな遊びは?」

「追いかけっこ!」

「リエルは将来何になりたいの?」

「騎士がかっこいいから、騎士! クレオ閣下みたいになりたい!」


 テオは紅茶を飲みながら、9歳へヴァンと8歳リエルの可愛い会話を楽しんでいた。


 ーーしかし、何だ? へヴァンのリエルへの質問攻めは? 彼にとっては、初対面だから相手のこと知りたいのか?


 二人を眺めていると、へヴァンがリエルのことを知りたがっているのが一目瞭然だった。テオは微笑ましく見つめている。

 質問攻めも一段落した頃。

 へヴァンは少し戸惑いながらたずねた。


「じ、じゃあ⋯⋯好きな動物は?」


 質問した後、何故か顔を赤くしてうつむくへヴァン。

 リエルはマフィンを頬張りながら答える。


「鳥さん! 鳥さんが大好き」


 その瞬間、へヴァンはリエルを勢いよく抱きしめた。

 テオもリエルも急な抱擁に驚き、言葉も出ない。


「本当に鳥がいいの?」


 へヴァンはリエルから体を離して、彼の肩を掴み、目を合わせてたずねる。


「はい。だって、僕は去年⋯⋯」


 その時。


「何をしているの? へヴァン! その子から離れなさい!」


 皇后アリシアの怒りの声。

 子どもたち二人はあぜんとして動かない。


「アリシア? 何故ここに?」


 皇帝テオは、アリシアには内緒で子供たちを会わせていたが、誰かが彼女に密告したかもしれない。

 とにかく、アリシアが仲の良さそうな二人を見てしまった。


「お母様、何故僕がリエルと会ってはいけないのですか?」

 へヴァンはアリシアを睨みながら、問いただす。


「この子は側妃マリアンそっくりじゃない! あの女は死んでからも、リエルをつかって私を苦しめてるのよ! 私のへヴァンが、そんな子と一緒に遊んではいけません!」

「ア⋯⋯アリシア⋯⋯なんてことを」


 テオは動揺する。

 アリシアの本音を初めて耳にしたからだ。


「お、お母様⋯⋯?」

 リエルが震えながら、うっすら目に涙を浮かべている。

 へヴァンはリエルをまた抱きしめて、アリシアを非難。


「リエルは僕の大切な弟です! いくらお母様でも⋯⋯」


 へヴァンはそこで口をつぐんだ。

 とたんに彼はリエルから手を離す。

 しばらく、呆然としていたが意を決して言葉を続けた。


「⋯⋯わかりました。とりあえず、今は部屋に戻ります。お父様も行きましょう」

「し、しかし⋯⋯リエルが⋯⋯」


 切なく細めた瞳で、まだ震えているリエルを見つめるへヴァン。

 小さな彼の肩に手を添えて、へヴァンはメイドのアリサに命令した。


「リエルを頼む。お願いだ。」

「は、はい⋯⋯へヴァン殿下。」


 へヴァンはテオと一緒にアリシアに近づき、三人で皇居に戻る。

 園庭には、子供が好きなお菓子と紅茶がそのまま放置されたテーブル。

 家族に残されたリエルはアリサにしがみつきながら、その三人の後ろ姿を見守っていた。


  ※


 その夜。

 テオとへヴァンは、皇帝の部屋でソファに座り密談する。


「今日のアリシアはどうしたんだ? 君なら何か見えたのか? また黒い煙(・・・)とか⋯⋯」


 あれから、母アリシアの部屋で彼女の側にいたへヴァン。

 彼女と会話をして、忠実な息子を演じたらしい。

 テオは予定通り公務をこなすため、その場には同席しなかったのだ。


「憶測ですが⋯⋯お母様は側妃マリアン様を妬んでいたのでしょう。心当たりはありますか?」

「マリアンは⋯⋯私が幼い頃から想いを寄せていた令嬢だ。アリシアとは政略結婚で、どうしても正皇后として迎えねばならなかった。」

「じゃあ、その負の感情が、長年お母様にくすぶっていたのでしょう。黒魔術の使い手にその嫉妬心を利用された。そして、へヴァンが池に落ちた悲しみで、術者に完全に体を囚われたのです」

「本物のへヴァンはどうなったのだろうか? 遺体さえ見つからないとは⋯⋯」

「そこまではわかりません。護衛騎士に突き落とされたとは思いますが。」

「その騎士が服毒自殺したのは?」

「わかりませんね。自分の意志か操られたかまでは」


 二人は、自らの推測と疑問を一通り口にした。

 しばらく、へヴァンは目をつむり天井をあおぐ。


「僕はリエルとは距離をおきます。」

「⋯⋯何?」

「お父様もそうして下さい。お母様の言う通り、リエルを孤立させます。」

「君までおかしくなったのか? なんてことを言うんだ!」

「僕は! リエルに生きて笑っててほしいんです!」


 幼い9歳の偽物のへヴァンの迫力に、テオはたじろぐ。

 彼は泣いていた。流れる涙も拭かない。


「あなたには見えないでしょう。今日、お母様の体から邪気が放出され、一面闇に覆われました。リエルの幸せは、彼女の悲しみなんです。これ以上、負の感情に支配されると、術者にリエルが殺されるかもしれない。」

「⋯⋯私には煙なんて見えない、今日はずっと青空だったじゃないか。」

「どこで術者が操っているかわかりませんが、いずれその力だけでリエルを攻撃できるかもしれない。今のところ、まだお母様を使って、人間にリエルの殺害命令を出す程度でしょうね。黒魔術はかなり術者も疲弊するはず。」


 淡々とへヴァンは今の現状を話す。

 その内容は幼い子供の会話からかけ離れていた。


「どうしたらいいんだ⋯⋯」

「お父様は、アリシア皇后にできるだけ寄り添って、愛情をわかりますく伝えて下さい。僕もリエルを避け、お母様と一緒の時間を取り監視します。」

「リエルが一人ではあぶないな。護衛を増やさないと」

「⋯⋯護衛は今まで通りの人数で。なぜなら、お母様が護衛を使って、リエルを殺すチャンスが増えます。」


 テオは頭を抱えてうなだれた。


(リエルを守る方法がわからない。)


「僕がリエルを守ります。」

「君が? どうやって?」

「僕はお母様にべったりくっついて監視します。他の時間は部屋に引きこもっているように見せかけます。常にリエルを陰ながら見守るために」

「9歳の君に何ができるんだ?」


 へヴァンは、ニッコリとテオに笑いかける。


「もうリエルを狙おうとしている騎士がいます。気づかれましたか?」

「何? だ、誰だ!」

「殺気が見えなかったですか? 人間はしょうがないですね⋯⋯」

「⋯⋯? 人間?」

「あ、ああ、いえ。僕が現場をおさえて始末します。お父様は後処理をお願いしますね。」



最後までお読みいただきありがとうございます


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