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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第四章 過去編 9年前〜7年前(リリィ登場前)

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54.一生一緒

 翌日。

 早速、テオはへヴァンの病室に訪れていた。


「おじさん、僕、いつリエルに会えるの?」


 彼はすねながらも無邪気にたずねる。


「皇族らしくなったらな。君ならすぐ身につくだろう。もう文字も理解していると言うじゃないか」

「まあ、僕は天才だからね!」

「⋯⋯昨日、アリシアに話してた()ってなんだ?」

「ああ、あのおばさん黒魔術にかかってるよ。体乗っ取られてる。」


 へヴァンはあっけらかんと話す。


黒魔術(・・・)⋯⋯アリシアが? 何故わかる?」

「体から邪気がたくさん出てた。 見えないの? 」

「見えないな⋯⋯誰も見えてないと思うぞ」

「あ、ああ⋯⋯えーと、ぼ、僕の勘違いかなぁ⋯⋯」


 慌ててへヴァンは言い直すが、テオは引き下がらない。


「アリシアもおかしいが、君も妙だな。本当にへヴァンなのか?」


 目の前の9歳の少年は、悪びれず素直に答える。


「あーー、やっぱり分かった? まあいいや。腕も直ったし、めんどくさいから、もう一度、リエルに会ったら帰るよ」

「き、君は誰なんだ! 本物のへヴァンはどこに行ったんだ!」

「知らない。僕はリエルに会いに来ただけだよ。また会ったら帰る」

「⋯⋯い、いやそれは困る! 第一皇子が行方不明となれば、国中混乱する! 本物が見つかるまで、そのままでいてくれ! 報酬ははずむ!」


 テオはへヴァンの言動にうろたえる。

 へヴァンは少し口をつぐんで考え始めた。


「リエルの兄⋯⋯へヴァンってリエルの家族(・・)なのか?」

「あ、ああ、そうだ。大切な家族だな」

「ふーーん⋯⋯一生一緒にいられる?」

「兄弟は何があっても、一生兄弟だ」


 その言葉を聞いたとたん、へヴァンの表情はぱあっと明るくなった。


「じゃあ、いいよ。へヴァンでいてやる!」


 テオはこのへヴァンはリエル(・・・)という単語を出せば、思い通りに動いてくれるかもしれない、と勘づいた。


「ところで、黒魔術(・・・)とはなんだ? 耳にしたことはあるが、本当にアリシアがかかっているのか?」

「うーーん、黒魔術(・・・)については、僕も噂で聞いただけだから。ただ、心の中では抵抗はしてるかも。だから、すぐ体壊すんだよ!」

「どうやったら、元に戻るんだ?」

「⋯⋯それはわからない。解き方は聞いたことない。」

「聞く? 誰に?」

「僕はいろんな国に行ったことあるから。噂で聞いただけだよ。黒魔術のことは。」


 ーー 確かにアリシアはへヴァンの失踪事件から様子がおかしい。 黒魔術(・・・)⋯⋯調べてみるか。


 テオは皇居に保管されている書庫の文献で、黒魔術を極秘に調べることを決める。


「ねえ、それよりリエルに会いたい!」


 偽物へヴァンは、テオにしつこく要求する。テオはニヤリと笑って少年に答えた。


「君がリエルの兄にふさわしくなったらな」


 ※ ※ ※


 一ヶ月後。


 偽物へヴァンは驚くべき成長を遂げていた。


 皇族としての気品と行動。言葉遣い。表情。

 本物のへヴァンとは性格は異なるが、皇族らしい落ち着きを身に着けた。


「記憶は戻っていませんが、地頭が良いのでしょう。敬語、所作等申し分ありません。本格的な勉学を始めてもかなり期待できるでしょう」


 皇帝テオは、そのように家庭教師から報告を受けていた。

 そして、彼は黒魔術(・・・)について、臣下数名と会議を重ねる。有識者からも意見を聞く。

 もちろん、皇后が黒魔術にかかっている疑いがあることは内密だ。

 それを相談できるのは、9歳の偽物へヴァンのみ。

 テオは何度も正体がわからない少年と議論を重ねる。


「黒魔術というのは、人間の負の感情(・・・・)をエネルギーとしているようだ。それを解くには、逆の正の感情(・・・・)。これを与えつづけることによって、被術者⋯⋯つまり、アリシアは救われる」


 テオはこの一カ月の見聞をまとめ、へヴァンに報告する。


「そうですか。では、お母様は負の感情⋯⋯つまり、彼女の嫉妬や悲哀が大きくて、術にかけられてしまった。正の感情とは⋯⋯希望、愛情といったものを彼女に与え続ければ、術が解けて、本来のお母様に戻るという仮説ですね。」

「そうだ。しかし、どのくらいの年月がかかるかはわからない」


 テオは、この少年の成長速度に感心しながら話す。

 大人のような口ぶりと態度。品格と才能。

 皇帝皇后のことを、お父様お母様(・・・・・・)と自然に呼ぶようになった。敬語も習得している。

 それもこれもリエルに会うための努力。

 そう思うと、テオは身震いする。リエルに対して、どういう感情をもっているのだろうか。


「お父様、僕はもうリエルにつり合う兄になれたでしょうか?」

「そうだな、リエルも会いたがっている。病院で見舞ってからと考えれば、2ヶ月以上会ってないだろう。明日にでも、園庭で一緒にお茶でもするようリエルに伝えるよ。」


 ※ ※ ※


「お兄様! もうケガは良くなりましたか?」


 園庭で先に紅茶を飲んでいるへヴァンに、リエルは駆け寄った。


「リエル! 久しぶり!」


 へヴァンはリエルをきつく抱きしめた。急なことで、リエルは驚いたが、嬉しそうに抱きしめ返す。


「お兄様! 今日はお招きありがとうございます!」


 無邪気に二人は子供らしくはしゃいでいた。

 へヴァンは、そこに他の人間がいることに気づく。

 皇帝である二人の父親テオが側にいる。

 テオも、へヴァンのリエルへの態度を見極めようと一緒についてきたのだ。

 そして、あからさまにテオはへヴァンに嫌な顔をされる。


「⋯⋯お父様もご一緒ですか?」

「心配するな。私は公務があるから、途中で退席する。」


 へヴァンがあまりにも不服そうに睨むので、テオはたじろいだ。


「まあ、いいでしょう⋯⋯。リエル、僕の近くに座って。」


 そして、リエルにだけ彼はとびきりの笑顔を向けるのだ。


「リエルは好きな食べ物は何?」




 

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