52.9年前からの戦友
リエルとクレオが視察から帰城する一週間前。
皇居では、皇后アリシアが体調を崩したままだった。
「陛下 やはりここにいらっしゃいましたか?」
「あぁ へヴァンか」
皇帝テオは、寝室で眠っている皇后アリシアに寄り添う。
彼女は、リエルが次期皇太子に名乗りを上げてから、夜毎うなされている。
今夜も例外ではなかった。
「たすけて⋯⋯へいか⋯⋯うぅ、ご、ごめんなさ⋯⋯」
うわ言で助けを求め、謝罪をし涙を流す。
テオは甲斐甲斐しく、布で彼女の涙や汗をふいていた。
「ここでは話しにくいな 。 私の部屋に移動しようか」
テオはアリシアの世話を侍女にまかせて、第一皇子へヴァンと自室に移動した。
テオの寝室に入り、メイドがお茶を用意して退出。
テオとへヴァン二人きりになった。
「徐々に黒魔術が解けてるな」
陛下が感慨深くつぶやく。
「はい⋯⋯リエルが皇太子継承の決意表明してからですね。心の深層世界にいる母上に力を与えたのでしょう」
「そういえば、南部のノヴァコーストアに向かう途中、一行は刺客に襲われました。ざっと30名ほど。20名くらいは私が始末しましたが」
「⋯⋯20名? なんと⋯⋯また世話になったな。今のリエルが健在なのは、他でもない君のおかげだ。」
「残り10名は視察団を急襲しましたが、ほぼリエルが片付けていました。」
「そうか⋯⋯強くなったな」
ナユタのおかげでリエル暗殺が未遂に終わった事件は2件ある。
婚約者選定パーティの毒殺未遂と、市中視察での刺客事件。
しかし、黒魔術にかかったアリシアにリエル殺害を指示された刺客は、9年間で数えきれなかった。
「あれから9年か」
「はい」
テオは9年前から、目の前にいるへヴァン皇子と何回も密談をし、もはや戦友のような錯覚に陥っていた
※ ※ ※
9年前、皇居謁見の間。
「へヴァンが池に落ちただと?」
「はい! 今、消えた護衛と共に捜索中です!」
皇帝テオがシュバルツ侯爵レオンとの謁見中に、その急報が入った。
「私も捜索に加わります! 失礼いたします!」
レオンは、すぐさま謁見の間を後にする。
城中が緊迫しパニック寸前だ。
全員皇居内外でへヴァンの捜索のため、走り回っていた。
(へヴァン、へヴァンが池に……! )
テオも呼吸が乱れ、足元がおぼつかない。
護衛に支えられながらも現場に急ぐ。
混乱する現場。
レオンが指揮をとる。
潜水兵を動員し、皇居門や出入口全てを封鎖。
草の根を分けての捜索で、人が入り乱れている。
アリシア皇后は、シュバルツ侯爵ナーシャ夫人に支えられていた。
抱き合いながら怯える幼いリエルとキリアン。
テオは、クーデターの疑いもあるため、護衛騎士に取り囲まれる。
「陛下、ここは危険です。 部屋で報告を待ちましょう」
ーー確かに自分がここにいても、騎士達の手間が増えるだけだ⋯⋯。
テオはふらつくアリシアの肩を抱いて支えていた。
その時。
アリシアが大声で笑いだす。
「アハハハハッ! 全部あの子のせいじゃないっ! まさかへヴァンまでこんな目に遭わすなんて! ハハッ」
ーーアリシア? ⋯⋯どうしたんだ?
テオは思わず彼女を支えている肩に力が入る。
狂ったように爆笑し出したアリシア皇后。
皆の視線が集中する。
「リエルッ! へヴァンをどこにやったの?!」
アリシアはリエルに向き直り糾弾した。
「え……? ぼ、ぼく……? ぼくは……」
「あなたは存在するだけで、周りを不幸にするのよ! わからないの?!」
幼いリエルが涙目で彼女の刺すような視線に耐える。
「何をおっしゃるのですかっ?!」
そんな皇后アリシアに声を荒げた人物がいた。
ナーシャ夫人だ。
「何があっても、子供にそのような言動は慎んでください!」
テオは混乱する現場で、別人のようなアリシアを抱きとめた。
ーーアリシア、こんなアリシアは見たことがない! 息子が行方不明になって、母親が取り乱すのは当然だ。私だけは冷静でいなければ⋯⋯!
「アリシアはあまりのショックで、自分を見失っているのだ 。リエル、許してほしい」
テオは息子リエルに謝罪した。
そのまま二人は護衛数人と共に皇居内に戻り、報告を待った。
※
二十分後、護衛騎士に扮したスパイの自決の報告が入る。
これで、へヴァンの捜索が更に困難を極めると思われた。
しかし、二時間後、部屋の扉が乱暴に開く。
「申し上げます! へヴァン殿下、東の森ビタナ池ほとりにて腕を負傷しながらも発見されました! ただいま、レオン閣下が保護された病院に急行中!」
へヴァンの無事を知らせる吉報が舞い込んできた。
「良かった!」
「よくご無事で!」
待機部屋が、わあーーっと人々の歓喜の声に包まれる。
ーー 発見場所等に疑問も残るが、とにかくへヴァンが生きている!!
ベッドで横になっていたアリシアは、テオに震える手を伸ばした。
「へヴァンが、へヴァンが見つかったと⋯⋯」
アリシアは涙を流しうずくまった。
テオはアリシアの手をきつく握り、彼女の体を支えて起こす。
「神よ⋯⋯エストリ二ア神よ⋯⋯感謝いたします」
テオは静かに口ずさんだ。
しかし、この後、彼はへヴァン皇子と再会し絶望するのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます
感想や評価、リアクションいただけると、とても嬉しいです(.❛ᴗ❛.)




