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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第三章 次期皇太子妃として

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51.兄上には負けない!

 ナユタがリエル皇子と自室で過ごしている間。

 レオンはクレオと応接室で歓談。


「往路で10人の刺客の襲撃に遭ったと聞きました。怪我人もなく何よりです」

「リエル殿下のお手柄だよ。他に20人ほど、誰かが私たちを襲う前に始末してくれた」

「他に20人も?」

「たぶん、たった一人で音も立てず、短時間で刺客達を一網打尽(いちもうだじん)にしたと思う」

「そんな剣豪(けんごう)が東帝国にいますか?」

「⋯⋯捕まえた刺客も誰の命令で動いたのかわからず仕舞(じま)いだ。尋問する前に全員自決したらしい」

「なんですって?」


 レオンは、あまりに奇妙な襲撃事件に耳を疑った。


「つまり、30名に襲われそうになったが、20人は誰かが裏で始末して、リエル殿下が捕縛した10人は口を割る前に自決したと?!」

「自決と言うか⋯⋯聞いた話だと、尋問すると口から吐血(とけつ)して息絶えたらしい」

「黒幕を問いただすような質問をされると、息絶えるのか⋯⋯呪いか魔法か知らないが」

「恐ろしい力ですね」


 レオンとクレオはあまりの不可解な現象に言葉をなくす。


「ところで、ナユタ嬢は息災(そくさい)だったか? 状況が複雑になって、とまどっているのではないか?」


 重い空気に耐えきれず、話題を変えるクレオ。


「そうですね。リエル殿下はとてもタイミングが良い。ナユタは少し憂鬱(ゆううつ)そうでしたから」

「何かあったのか?」

「南部のハースト家姉妹とリエル殿下が何かあったのではないかと、やきもきしてました」


 その話を聞いて、クレオは表情をくずした。


「かわいらしいなぁ、本当に良い娘をもったな」

「エストリニア神が認めた娘ですからね」

 レオンは誇らしげに笑った。



 ※ ※ ※

「ナユタ⋯⋯背中は大丈夫?」

「はい、もうなんともありません。エストリニア神もあんなに痛くする必要ないのに!」


 リエルはそこで言葉をつまらす。


「あの時、僕が言ったこと覚えてる?」

「あの時?」

「⋯⋯やっぱり聞こえてなかったのか」


 リエルはため息をつきながら、顔を赤くしていた。


「なんですか? ハッキリおっしゃって下さい」

「ぼ、ぼく⋯⋯プロポーズしたんだけど⋯⋯」

「はあ?」

「ナユタが倒れる前に⋯⋯婚約しようかって」


 時間が止まる。

 開けられた窓から風が入り、揺れるカーテン。

 木々の葉擦(はず)れの音だけが耳に響く。


「私と⋯⋯(つがい)?」

「でも、もうシュバルツ家の正統な令嬢になったから、ナユタは次期皇太子妃に決定したじゃないか。次は、僕が頑張って皇太子にならないとね」


 わかってはいた。ナユタは自分がシュバルツ家の正式な令嬢になったことも。そうなると、次期皇太子妃になることも。

 しかし、リエルは背中に紋章が現れる前に、自分を(つがい)に選んだのだ。


 すると、彼女の瞳はとたんに潤みだした。


「ど、どうした?」


 リエルはナユタの隣に席を移し、ハンカチを手渡した。

 ナユタは涙をふきながら、たどたどしく話す。


「ご、ごめんなさい! わ、わたしは、不安になって⋯⋯殿下を信じてなくって」

「どういうこと?」


 ナユタは、リエルがハースト家の令嬢達との関係を疑ったことを泣きながら告白した。


「私はなんて心が狭いのか⋯⋯っ!」


 すると、急にリエルに抱き締められ、言葉が続けられなかった。


「嬉しい! こんな嬉しいことはないよ、ナユタ!」


 リエルは子供のようにはしゃいだ。


「え……? でも……めんどくさくないですか? こんなことでヤキモチとか」


「かわいい!」


 ナユタもリエルの背中に手を回す。


「ナユタ、このまま聞いて」

「はい」

「ハースト家の令嬢達は一人一人確かに夜に僕の部屋に来たよ」


 ナユタは一瞬息が止まった。

 心臓がとたんにつぶれるかと思うぐらい痛み出す。


 ーードクン、ドクン、ドクン


 すると、リエルがナユタの背中をとんとんと叩いた。


「でも、僕は部屋に入れる前に、短剣を足に忍ばせたよ。刺客かもしれないから。実際に一人には短剣で脅したし」

「えぇっっ! そこまでしたのですか?」

「彼女らは僕の信頼に値しないよ」


 リエルは体を離して、ナユタの顔を覗き込む。


「安心した?」

「はい」

「ただ、彼女達も悪くない。彼女達は僕の『第二皇子』という地位に惹かれているだけだ。もっと突きつめれば、僕と結婚できれば、父親のハースト伯爵に褒められるからだよ。僕に好意があるわけじゃない。誰もが誰かに自分を認められたいんだよ」

「父親に褒められたい?」

「そう。僕だって、ナユタやリリィのために皇太子になりたいんだ 。 特にリリィは東帝国でしか生きられない鳥だからね。地位とか名誉とかの欲望は、単純な理由が大きいと思うよ」


 ナユタは少し考え込んでから、リエルに質問した。


「今も短剣持ってますか?」

「いや、ナユタなら殺されてもいい」


 リエルはまたナユタをきつく抱擁する。


「皇太子になるよ、絶対に。兄上には渡さないから」



 ※ ※ ※

 その後。


 レオンとナユタは、邸宅前までリエルとクレオを見送った。ナユタは馬車が遠くなると、とたんにニヤニヤし始める。

 それを見て、レオンは思わず吹き出した。

 ナユタは気にせず、これからの予定に胸が(おど)る。


 ーーこんなに幸せでいいのだろうか。


 リエルと次に会うのは、デビュタント会場となる。

 その前に、|正式なシュバルツ家の令嬢・・・・・・・・・・・・と内外に大々的に公表される。同時に次期皇太子妃(・・・・・・)と発表。

 その公示が明後日に迫っている。

 レオンとナユタは、邸宅内に引き上げていく。

 すると、ふいに後ろを振り向くナユタ。


「どうした?」

「いえ⋯⋯」


(人間ではない何かに見られていたような⋯⋯猛禽類のような敵ではないけど)


 敵でなければ関係ないと、ナユタはレオンと一緒に邸宅内に姿を消した。


 その時。

 ナユタの後ろ姿を見つめていた一羽のモモイロノトリが、木陰から飛び立った。



 

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