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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第三章 次期皇太子妃として

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50.人間の嫉妬

 一方、首都のシュバルツ家低宅。


 ナユタは、お妃教育で慌ただしい毎日を過ごしていた。


(もうすぐリエル殿下が南部から帰ってくる! 夜だけでも()()()として会えるわ! )


 ナユタは、久々に訓練場で剣術の鍛練をしていた。

 見学している新人騎士達が、感嘆の声をあげる。


「ナユタ様は、稽古は久しぶりだろう? しかし、どの騎士よりお強いのではないか?」

「最近、お妃教育を受けておられる。ついに皇太子妃候補に上がられたのかな」

「女騎士が去年より10倍増えたらしいな。⋯⋯ナユタ嬢の影響で」


 ナユタの話題に花を咲かせる新人騎士たち。


「何話してるの?」


 突然、ナユタが新人騎士達の輪の中に入ってきた。


「ナ、ナユタ様!! 御挨拶申し上げます!」

「いいよーー、かしこまらなくても⋯⋯と言っても無理だよね。」

「皆、ナユタ様に憧れてるんです。目の前で剣術を見学できて、私たちは幸運です」

「ありがとう。私は騎士の方が性に合ってるんだけどね。他のことを学ばなくてはいけなくなったの」


 まだ、ナユタが次期皇太子妃になることは非公表だ。

 そのため、彼女は騎士解任の理由を発言することは避けた。

 すると、新人騎士の一人が、南部視察団の話題を出す。


「今、クレオ閣下がリエル殿下と南部ノヴァコーストアを視察をされてますよね。 ノヴァコーストアと言えば、ハースト伯爵家に美しい令嬢姉妹がいると評判です。」


 ナユタがリエルに淡い恋心を抱いていることは、皇居の騎士達なら有名な話。

 しかし、シュバルツ家の新人騎士達は、ナユタがリエルを想っていることを知らない。

 入門したばかりの見習い騎士達は情報に疎かった。

 そのため、ナユタの前で、次々とデリカシーのない話題を口にしだす。


「へぇ⋯⋯これから、その姉妹も大きな舞踏会とか参加されるかな? 」

「きっと、ハースト伯爵家も皇室とのつながりを画策してるだろう。姉妹をつかって、現地でパーティでも開いてるよ。」


 その時、号令がかかる。


「休憩終了! 整列!」

「はい! 副団長!」

「それではナユタ様、失礼いたします!」


 ナユタはひきつった笑顔で、初々しい騎士達に手を振って送り出した。


 ーードクン、ドクン、ドクンーー


 心臓が乱れ始める。

 突然、頭の中に駆け巡る様々な場面。


 令嬢達に笑顔を向けるリエル皇子様

 令嬢と2人きりになって、パーティを楽しむリエル皇子様。

 手を握りしめたり、肩に触れあったり……。


 これは妄想だ。わかってる。

 でも、モヤモヤする。

 これまで、こんなことはなかった。

 切なくなることはあっても、胸がやけつくような感情はなかった。


 ーーこれが人間の「嫉妬」……? 


「ナユタ、ここにいたのか」


 背中越しに聞こえる父レオンの声。

 振り向くと、彼が手紙を持っていた。


「先ほど、伝書鳩が飛んできたよ。明後日、リエル殿下が皇居に戻られる前に、少しだけここに寄るらしい。ナユタに会いたいってさ」


 レオンは嬉しそうにナユタに話かける。

 しかし、娘はあまり元気がなく、眉をひそめていた。


「どうした? 明後日、殿下に会えるのに」

「いえ、ちょっと自分が嫌になって」


 その会話の後、レオンはナユタを園庭でのお茶に誘った。

 娘の沈んだ様子が気になったからだ。

 急遽、メイドが紅茶とアップルパイを用意する。

 そして、レオンに問い詰められ、ナユタは素直に今の感情を彼に吐露(とろ)した。


「あぁ⋯⋯、ハースト家の令嬢が気になるのか」

「なんだか、どうしてもモヤモヤします。そんな自分があまり好きではありません」

「君が成長した証拠だよ」


 レオンは娘の悩みに耳を傾ける。

 そして、彼なりの答えを口にする。


「今は一人の人間として、ナユタはリエル殿下と向き合おうとしているんだ。それでいいんだよ。」

「殿下に嫌われないでしょうか?」

「たぶん喜ぶと思うよ。気になるなら直接、本人に聞いてみなさい」

「嫉妬を喜ぶ?」


 ナユタは父と会話をして、少し心が軽くなった。


「ほら、そういう時は、甘いものを食べなさい。」

「はい。私の好きなアップルパイですね! ありがとうございます!」


(以前なら、アップルパイがテーブルにあれば、会話なんて後回しだったのに)


 レオンは恋に悩むかわいらしい娘の姿に、終始にやけた表情をしていた。



 ※ ※ ※


「リエル殿下がもうすぐ到着いたします!」


 使用人から伝言が入った。

 ナユタの姿では、ほぼ2ヶ月ぶりにリエル第ニ皇子に会う。

 心臓が壊れそうに早鐘を打ちだす。

 レオンとナユタは、リエルを出迎えるため低宅の外に出た。

 馬車が到着。

 ゆっくりとリエルが降りてきた。


 (皇子様、皇子様だ!! )


 ナユタは子供のように、駆け寄りそうになった。


(専属騎士の時は、ほぼ毎日会えていたのに⋯⋯やっぱり皇子様の側がいい! )


 そして、リエルもナユタを見て、あからさまに明るい表情になる。


「リエル殿下、大公閣下に御挨拶いたします。お疲れのところ、ようこそいらっしゃいました」


 レオンが、皇子に頭を下げた。その後ろでナユタも頭を下げる。


「皇居に帰る前に、レオン閣下とナユタ嬢と話をしたくて⋯⋯忙しいだろうに、すまない」

「いいえ、私どもも嬉しく思います。ぜひ、視察の様子などお聞かせ下さい」


 ナユタは、レオンの後ろでリエル皇子を見つめていた。


(会わない間にすごく落ち着かれたような⋯⋯皇子としての風格さえ増したような気がする。)


 すると、リエルはナユタの手を取り、手の甲にキスをした。とたんにナユタは顔に熱が集まる。


 ーードクン、ドクン、ドクン


「ナユタ嬢、しばらく会わない間にまた美しくなったね」


 ナユタは驚いた。


(以前の皇子様はただ照れるだけだったのに⋯⋯急に紳士になられたのね。)


「じゃあ、ナユタはリエル殿下と一緒にいなさい。私はクレオ閣下と二人で話がしたいから。」


 レオンは、ナユタとリエルが二人きりで話ができるよう気を利かせた。



 

最後までお読みいただきありがとうございます


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