49.長女アイシスはリエル皇子の側妃になりたい
「リエル殿下にご挨拶いたします。
ハースト家長女アイシスと申します」
彼女の格好を見て唖然とするリエル。
あからさまに寝着の布が少ない。
目のやり場に困り、護衛に目配せで合図を送る。
(はぁ⋯⋯カーチェナ嬢の寝着を更に切り刻んだみたいな服だな)
「どうぞ、座って」
「はい 、ありがとうございます。 先にお茶を入れますわ」
アイシス嬢が紅茶を注いでいる間、使用人が入室。
リエルにストール数枚を渡し退出した。
「アイシス嬢、肩とひざにこちらを。」
リエルの方から、アイシス嬢にストールをテーブル越しに手渡す。
「すぐ熱くなりますのに」
そんなことを言いながら、ストールをかけるアイシス。
輝く豊かな金髪。透き通るような絹肌。
目鼻立ちがハッキリした妖艶な美女だ。
アイシスは、ハースト家自慢の娘であった。
「用件は何かな?」
リエルはアイシスに問う。
「私、リエル殿下をずっとお慕いしておりました」
アイシスは顔を赤らませ、もじもじしながら、恥ずかしそうに告白する。
「ずっと? 初対面だと思うのだが。」
「6年前、父に皇宮に連れていってもらいました。そこでお見かけして、恥ずかしながら一目で恋に落ちました。へヴァン殿下と仲良く園庭で遊んでいらして、陰からそっと見ておりました」
「そう⋯⋯僕と兄上が仲良く」
アイシスはゆっくりとストールを取って立ち上がり、リエルに近づいて話かける。
「殿下は更に聡明で美しくなられました。どうか私の長年の想いを受け止めて下さいませ。」
リエルの隣に座り、肩を密着させ、豊かな胸元を見せつけるようなポーズを取る。
リエルを濡れた眼差しで見つめるアイシス。
するとーー。
「動くなっっ!」
突然、リエルが叫ぶ。
その声にアイシスは体を縮める。
すると、リエルは彼女の胸元近くに、短剣を向けていた、
「な、何をなさいます!」
彼女は短剣を見つめ、恐怖で声が震えている。
「私は常に刺客に狙われている 。信頼している者以外は警戒心が解けない。悪いが、君のことは全く信用していない。せめて、向かいの席から動くな。」
短剣をつきつけたまま、低い声で警告するリエル。
「し、失礼いたしました!」
アイシスは慌てて、ソファの元の位置に座リ直す。
(な、何よ! これじゃあ甘い雰囲気にもっていけない ! どうすれば⋯⋯アルコールを使おうかしら)
アイシスは、リエルを攻略する方法を模索する。
「君もカーチェナ嬢も同じだね」
「私が妹と一緒?」
「君の方が上手に社交界渡っていけそうだ。しかし、嘘をつくのはよくない 。情報収集が足りないな。」
「嘘?」
(八年前から兄上と遊んだことなど一度もない 。ただ、彼女が幼い初恋というストーリーを付け加えたかっただけだ。)
リエルは、アイシスにはっきり告げる。
「僕は側妃はとらない」
「はい?」
「ハースト家親子には毅然とした態度を取った方が良いだろう 。君たち姉妹は自分を大切にしなさい 。 私が言えるのはそれだけだ。」
「でも、せっかく遠い南部までいらしたので、ゆっくり私と話を」
アイシスは、懲りずにテーブルに置いたリエルの手に触れようとした。
⋯⋯ガンッッーー!!
何かがぶつった衝撃音。
「失礼いたします! どうされましたか?」
カノ卿が扉を開けて、リエルに駆け寄る。
すると、テーブルに短剣が突き刺さっている。
「私に触るなと言ったはずだ!」
さっきまでの優しい表情ではなく、険しい表情のリエルに、アイシスは身の危険を感じた。
「も、申し訳ございません!」
彼女は真っ青になってうなだれる。
「アイシス嬢のお帰りだ。 部屋まで丁重にお送りするように」
「かしこまりました」
カノ騎士は、他の護衛に令嬢の付き添いを命令。
アイシスは、力ない足取りでリエルの部屋を退出した。
思わず、リエルはカノ卿に愚痴をこぼす。
「カノ卿、僕は疲れたよ」
「視察の度に起こることだと思われます。気が抜けませんね」
「彼女らは悪くないし、カヤン伯爵も悪くない 。やはり女性の経済力が男性に依存するしかないからだろう 。」
「致し方ないのではありませんか?」
「ただ、アイシス嬢にはハッキリした態度を取った方が良いと判断した。」
「この度は殿下もお疲れでしょう。 私は業務に戻ります 。お休みなさいませ。」
「ありがとう。」
カノ卿が退出し、リエルはまた窓辺で空を見上げた。
ーー他の令嬢と接した方が、ナユタの存在の大きさを痛感する。夜にリリィにも会えない。ナユタは何をしてるんだろう。リリィにも会いたいーー
リエルはベッドに潜り込む。
リリィとナユタに想いを馳せながら、無理やり目を閉じた。




