48.次女カーチャナはリエル皇子の側妃なりたい
視察団訪問を歓迎した宴の後。
ハースト伯爵家6人全員で家族会議を開いていた。
当主カヤンは、それぞれに指示を出す。
「ひとまず明日、リエル殿下とクレオ閣下は領地視察をされる。 皆、失礼のないように」
「はい、 父上」
「それから⋯⋯アイシスとカーチャナ、わかっているな?」
長女アイシスは父カヤンにこやかに返答する。
「はい。なんてリエル殿下は、美しい方なのでしょう。『不吉第ニ皇子』と言われてますけど、皇族には変わりありませんわ 。 必ず見初められてみせます」
次女カーチャナは、しどろもどろに応える。
「わ、私はアイシスお姉さまと違って、まだ子供ですし⋯⋯」
父カヤンは冷静にカーチャナに話しかける。
「リエル殿下の嗜好がわからんからな。うちはアイシスは艶があるし、カーチャナは愛らしさがある 。 どちらかが殿下に気に入れられれば、側妃に希望がもてる 。 頼んだぞ。」
「安心なさって下さい。 きっとリエル殿下の心を動かしてみせます」
「頼りにしてるぞ 、アイシス」
※ ※ ※
南部の夜はあたたかい。
豊かな木の葉たちが風ですれ、ざわざわと音を立てていた。
リエルは窓辺から外をぼんやり眺める。
リリィを窓辺で待つ夜。
これがもう7年もルーティンになっていた。
(リリィは元気だろうか。)
その時。
扉前で待機しているカノ卿の声が響く。
「リエル殿下、お客様がお見えです」
「誰?」
「カーチャナ嬢でございます」
(カーチャナ⋯⋯? ああ、確かハースト家の次女。無下に帰すわけにもいかないな。)
「わかった、通して」
リエルは、護身用に短剣を寝着に忍ばす。
カーチャナ嬢が部屋に入ってきた。
「夜分に失礼いたします。 リエル殿下に御挨拶いたします。 カーチャナ・ハーストと申します。殿下の貴重な時間をいただき光栄でございます」
「いえ 、まだ寝るには早いから大丈夫 。 どんな用件かな?」
カーチャナ令嬢は顔が真っ赤だ 。
唇も青白く震えているように見える。
「せ、せっかく遠くからお越しなので、お茶でもご一緒にと思い⋯⋯」
メイドがお茶の用意をした後、部屋を出ていった。
「とても一緒にお茶を飲みたいように見えないが」
「い、いえ⋯⋯」
震えている令嬢を哀れに思い、とりあえず座るように促す。
カーチャナは、ティーカップにまともにお茶を注げそうもないほど、身震いしている。
「そんなに緊張しないで」
リエルは見ていられないので、お茶を代わりに注いだ。
「さて」
少し、リエルは間を置いた。
「伯爵の命令かな?」
「は、はい⋯⋯い、いいえっ! 私の独断でここに伺いました」
「そう 、令嬢はいくつになった?」
「14でございます」
リエルはにっこり笑ってストールを2枚渡す。
「これを肩とひざにかけて」
カーチャナ令嬢の服装は肌の露出が多い。
(かわいそうに⋯⋯。)
リエルは幼い令嬢を思いやった。
「今日、孤児院を訪問したのだが」
「は、はい? 孤児院ですか?」
「あなたは似てるね」
「誰に?」
「子供達に」
カーチャナは、どういう意味か理解できず、きょとんとした表情をしている。
「悪い意味ではない、子供は皆そうだよ。大人に褒められたいんだ。僕もそうだよ。」
リエルはクスクス笑った。
「カーチャナ嬢は将来何をしたい?」
「はい、ハースト家の繁栄の礎となるような婚姻をすることです 。そのために、素敵なレディになりたいです」
「それは良い夢だね。 」
カーチャナ嬢は、リエルが威圧的な人物ではないとわかり、少し緊張が解けた。
「何か得意なこととか趣味は?」
「私は読書が好きです。 絵画鑑賞も」
「文学や芸術に興味があるんだね 。 自ら執筆したり、絵を描いたりはしないの?」
カーチャナ嬢はそこで少し黙り込んだ。
「どうしたの?」
「いえ、今は淑女になるための勉学やマナー習得を優先しています」
「⋯⋯そう」
カーチャナは三十分ほど会話をして、リエルの客間を退出。その様子を、通りがかった大公クレオは偶然目にする。
ーー殿下も大変だな。おちおち寝てられない 。しかし、カーチャナ嬢は幼すぎる。伯爵も必死だな、まだ長女もいるし、リエル殿下はどう切り抜けるんだろうか。ーー
リエル殿下のお手並み拝見とばかりに、大公はこの問題は静観を決め込んだ。
※
翌日。
リエルとクレオは、領地の復興が遅延している地域を中心に視察。
カヤン伯爵の政治は、市民に寄り添っていると感じる。
公共施設も徐々に復興し、伯爵の評判も悪くない。
被災地もそんなに悲壮感はなかった。
(悪い領主ではないな。)
リエルのハースト家のカヤン伯爵の印象は、むしろ良い方だ。
それでも、幼い娘を献上するような真似をすることに辟易としていた。
良い政治をする領主でさえ娘を差し出す。
それが貴族の常識なのだろう、とリエルは半ば諦めていた。
※
それから数日後。
就寝前、いつものようにリエルが客間の窓辺にたたずむ。
そして、部屋の前で護衛しているカノ卿から、また声がかかる。
「伯爵の長女アイシス嬢がいらっしゃいました」
リエルはため息をついて、部屋に通すようにカノ騎士に指示をした。
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