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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第三章 次期皇太子妃として

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47.南部ノヴァコーストアの美人姉妹

 就寝前。

 リエルはリリィと夜のルーティンである小さなお茶会を開いていた。


「リリィは最近忙しそうだね 。」

『ごめんなさい皇子様、一時間もここにいれなくなっちゃって。』 


 小鳥は、力なくピィピィと鳴いた。


「責めてる訳じゃないよ 。リリィも生活があるもんね 。僕も目まぐるしく状況が最近変わるから。」


 しばらくリリィはリンゴをつついていた。 


「明日からは南部のノヴァコーストアに行ってくる 。港町で暖かい場所なんだよ」

『ノヴァコーストア⋯⋯遠いなぁ。』

「二週間くらい留守にするね。 クレオ閣下と同行できるなんて、きっと良い勉強になるよ 。短いけど初めての遠征で楽しみなんだ。」

『いいなーー、私も一緒に行きたい! 護衛もしたいのに⋯⋯まあ帝国一の騎士のクレオ閣下が同行してるから安心だけど⋯⋯』


 リリィはピィピィ鳴いて寂しがる。


「じゃあ、明日は早いからもう寝るね。リリィもお帰り。」


 リエルはリリィの頭にキスをする。


 ーーは、はぁ?! リエル皇子様は、こんな大胆なタイプだったっけ? レディの頭に口づけするなんて! すっかり大人の男になってしまった!


 リリィは、心臓の鼓動が跳ね上がり、足元がおぼつかなくなった。ニコニコしながら、リエルはリリィを見送るために窓を開ける。

 そして、小鳥はフラフラと蛇行しながら、飛び立っていった。



 ※ ※ ※


 早朝、南部地方ノヴァコーストアの視察団が出発。 

 リエル第ニ皇子、大公クレオ他およそ30名と少数で編成。

 レオンとキリアン、会議に参加した幹部等が見送った。

 皇帝テオと第一皇子へヴァンは、執務室の窓からその様子を眺める。

 リリィが南部遠征の隊列を、町の家屋の屋根から見下ろしていた。

 南部は領地戦があり、疲弊している場所。

 視察団は、配慮された地味な馬車を用意し、武装も軽微なものを着用している。


(リエル皇子様かっこいい⋯⋯早く帰ってきてね)


 リリィはリエルを見届けた後、シュバルツ家方向に戻っていった。



 ※ ※ ※


 ニ週間後。

 隊列はもうすぐ森を抜け、夜営場所に着く予定だった。

 隊列を率いるクレオは急に馬の足を止める。


 ガキンッッーー!!


 鋭い音を立てて、一本の矢が地面に落ちた。

 剣で矢をかわしたクレオ。

 騎士達は一斉に動きを止める。


「奇襲だーーーっっ!」

「矢を放てっっ!」


 途端に10人ほどの刺客が木の陰から飛び出してきた。

 視察団側は30人だが、敵もなかなか手強(てごわ)い。

 馬車内にいたリエルが飛び出してきた。


「僕も戦う ! これでは僕を護衛している分、不利になる」


 リエル皇子は護衛にそう告げて、刺客と剣を交え始めた。


(ほぅ⋯⋯状況把握できているな 。 殿下にまかせてみるか)


 大公は向かってくる刺客には防御するだけで、リエルの剣さばきを見守った。


「リエル殿下とお見受けする。お覚悟を!」


 やはり刺客はリエルを狙っている。


「殿下っっ!」


 カノ卿はリエルを護衛しようと近づいたが、クレオはそれを止めた。


「な、なぜ?」

「たぶん殿下の方が強い。君もわかっているだろう?」

「しかし、何かあったら⋯⋯」

「そうなる前に俺が倒すから、殿下にまかせてみよう」


 リエル皇子は、次々と襲ってくる刺客をかわしては、致命傷にならない程度に相手を倒していく。

 あまりにも美しい剣術に、クレオも見惚れるほどだった。

 あっという間に10名の刺客を倒すリエル。

 カノ卿が刺客を捕縛しながら感嘆した。


「リエル殿下は護衛なんていらないんじゃないですか?」

「まさか。 今までどれだけ君たちに助けられたか」


 そんな会話をしている最中に、見回りの騎士が報告する。 


「ここから200メートル先に、20人ほどの仲間と思われる死体が散乱しています」

「⋯⋯なんだと?」


 捕縛した刺客の一人の襟首をつかみ、クレオが尋問する。


「本当か? お前ら、仲間が他に20人もいたのか?」

「俺たちは先頭を走ってきたからな。 まさか後ろがやられてるとか気づかなかった」


 ーーどういうことだ?  どこかの騎士団が後方から応戦してくれたのか?  20人も?


 クレオはとりあえず、捕縛した刺客を現場管轄の領地城の牢に運ばせる手配をした。



 ※



「殿下は、すでに素晴らしい剣術を習得されています。」

 クレオは夜営場所で薪の火にあたりながら、リエルを称えた。


「いえ、ナユタ卿の見様見真似(みようみまね)で⋯⋯あ、今は令嬢と呼ばなくては」


 少し顔を赤らめている皇子を、クレオは微笑ましく見つめた。


「最近会われましたか? 大変な状況ですから、難しいでしょう」

「そうなんだよ、毎日一緒にいたので寂しいかな」

「ご存じだと思いますが、紋章が現れた事実を認知しているのは、会議参加者と肉親と皇族のみです 。公表は2ヶ月後となりました 。それまでにお会いになってはいかがですか? 殿下が会いに行かれる方が、今となっては容易かもしれません」

「ありがとう」

「いろいろありましたが、明日も早いのでゆっくりお休み下さい 」


 その後、クレオは夜営テントの幕を下ろした。


 ※ ※ ※


 視察団は、早朝に出発。

 昼前には南部ノヴァコーストアに入った 。


 この地方は、今はハースト伯爵家がおさめている。

 一年前、タバマ伯爵家の領地だったが、領地戦でハースト家に敗北。

 元々、タバマ家は多額の税金を水増しし、市民から不満の声が上がっていた。

 ハースト家に市民が協力したのも敗因の一つだった。


 ノヴァコーストアは、町も活気があり、交易も盛んな様子がうかがえる。

 港町ならではの雰囲気が漂っていた。

 海のにおいに心も浄化される。

 ただ、まだ戦から一年足らずなので、焼け落ちた家や施設が一部残っている。

 リエルは、馬車から外の様子をぼんやりと眺めていた。


「どうされましたか?」


 同乗しているクレオはリエル皇子に声をかけた。


「いや、戦争は悲惨だと痛感させられる」

「ええ⋯⋯、戦争は一生心の傷として残ります 。平民に必要なのは、生活の安定です。戦争は一瞬でそれを壊しますから」


 リエルはその現実を肌で感じていた。


「だから、皆⋯⋯『エストリニア神の平定』(※1)にしがみつくんですよ」

「それとこれとはっ⋯⋯」


 リエルは、しどろもどろ返事をする。


「同じです 。皆、ただ平和に過ごしたいだけなんですよ」


 ※ ※ ※


 滞在先は領主ハースト伯爵家の居城。

 領主のハースト伯爵、夫人、令息2人、令嬢2人が一行を出迎えた。

 やはり、リエル第ニ皇子と騎士の英雄クレオを迎えるということで、緊張しているようだ。

 ハースト家全員が華美な衣裳を着用。

 音楽を鳴らし、出迎え自体が派手な演出。


「リエル皇子殿下 、クレオ大公閣下にご挨拶申し上げます。ハースト伯爵家当主のカヤンと申します。道中危険な目に遭われたと聞いております 。うちでは、どうぞおくつろぎください」

「カヤン殿、出迎えをあまり派手にしないよう通達したはずだが」

「いえ、そうも参りません 。これでも抑えた方です。宴もかなり小規模にしました」

「用意してしまったのなら、しょうがないが、あまり平民の心を刺激しないように」

「はい、肝に銘じます」


 続いて、リエルがカヤンから声をかけられる。


「リエル殿下 、こちらは私の娘アイリスとカーチャナです」

「リエル第ニ皇子殿下に御挨拶申し上げます。 私はアイリスです、17歳になります」

「わ、私はカーチャナです 、14歳になりました 。滞在中はよろしくお願いいたします」


 突然、令嬢ニ人に丁寧に挨拶を受けるリエル。

 クレオは、カヤン貴族の娘の押し売りに半ばあきらめたていた。


 ーー何も起こらなければよいが……まだナユタ嬢の紋章が表れたことは非公表だし。側妃で良いと考えてるかもしれない。


「リエル・ グリーンカナートだ 。同世代の令息令嬢がいらして心強い 。短い間だがよろしく頼む 」


 令息令嬢四人は、皇子の容姿の美しさと気品、堂々とした言動に感嘆していた。



 ※ ※ ※


(※1)⋯⋯シュバルツ家の令嬢が皇后となれば、平安な時代が訪れるという逸話がある。「エストリニア神の平定」と呼ばれる。

最後までお読みいただきありがとうございます


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