46.英雄の後継者
今日は、緊急会議の最終日。
ナユタ令嬢の紋章が現れたニュースの公表、デビュタント、皇太子選定、婚約……全ての日程が決定。
後はその日程に合わせて、各管轄が準備するだけだ。
閉会直前、クレオ大公が口を開く。
「それでは私は南部の戦後復興視察のため、明後日からニ週間ほど首都を離れる。これから皇帝陛下にお伺いをたてるが⋯⋯リエル殿下にも帯同していただく予定だ。」
一瞬、会議室がざわつく。
議長を兼ねていた宰相が思わず口をはさむ。
「ご静粛に願います。大公閣下 、承りました 。リエル殿下帯同は急な話でありますが、何故へヴァン殿下ではないのでしょうか?」
クレオは鋭い目線を宰相に向ける。
クレオの圧倒的なオーラに、彼は驚いて肩をすぼめた。
「他意はない。リエル殿下の剣術は東帝国内でも高く評価されているとか。私も騎士のはしくれ。ぜひ有能な若い騎士に、私の全てを引き継いで欲しいだけだ」
会場が一斉にどよめく。
帝国の戦場の英雄が、リエルを後継者と事実上認めた。
クレオは今まで皇位継承者争いでは、中立を保っていた。
大公家がリエルの後ろ楯になれば、一気にリエルが皇位継承者争いに優位になる。
会議に同席していたレオンは、今まさに形勢がリエル殿下に傾き、大公の力をまざまざと見せつけられた思いがした。
「そ、それでは平定対策緊急会議をこれにて閉会いたします 」
宰相は混乱のまま閉会を宣言。
会議後、レオンはリエルと会談する予定だったので、クレオも同行。
先程、皇帝テオにはリエルと一緒に南部視察にあたる許可を得た。
テオは、嬉しそうに大公の提案を聞いていた。
完全に息子を思う親の顔になっていたのだった。
※ ※ ※
その後、レオンとクレオはリエルの部屋に訪問。
「リエル第ニ皇子に御挨拶いたします。クレオ・デ・ナッツと申します」
「改めて、私がリエル ・グリーンカナートだ 。レオン閣下には、幼い頃から目をかけてもらっている 。先ほど執事から話は聞いた。話が長くなるので座って話そう」
三人は、ソファに腰をかけて、お茶を飲みながら会談を始めた。
「何故、僕を南部ノヴァコーストアに連れていくのか?」
リエルは率直な疑問をクレオにぶつけた。
「単に今の状況を楽しんでいるだけですよ」
「先ほどはリエル殿下の騎士としての資質を見込んだ、とおっしゃっていましたが」
呆気にとられながら、レオンはクレオにたずねる。
「そんなのは建前 。淡い想いを抱いている若いニ人を、おじさんが興味本位で後押ししているだけだよ。」
「⋯⋯そうですね 。あなたはそういう方でした。」
レオンは頭を抱えてうなだれた。
リエルはクレオの話の内容が、いまいち理解できないようだ。
「それもありますが、やはり皇族は『戦争』というものを実感しなくてはなりません 。戦後の荒れた土地や人々に直接触れ、未来の帝国の運営に生かしてもらいたい」
リエルは、国の英雄として名高いクレオと行動できることは、学びが多いような気がした。
「よろしく頼む 。足りない部分は遠慮なく指導して欲しい。」
「純粋な方だとお見受けしました 。 そういう方は吸収する能力が高い 。きっと良い先導者になられるでしょう。」
レオンは、クレオがリエル皇子側に舵を切ったことで、へヴァン皇子と五分五分に皇太子選定を争えると確信した。
※ ※ ※
夜。夕食時。
昨日の約束通り、へヴァンとリエルはダイニングで一緒に夕食をとっていた。
(僕に話があるのだろう? 皇位のことだろうか)
リエルはへヴァンの思惑を推測する。
「明後日から南部に出発すると聞いたが、事実か?」
「はい 、クレオ閣下の計らいで、戦後視察を手伝います 。市民の声も聞いて調査して参ります」
「どうしても戦後は治安が悪くなる 。 道中気を付けるように」
「はい 、ありがとうございます」
何気ない会話が終わり、お茶が配膳される。
「クレオ閣下がバックについて、お前に皇位継承が有利に働いてるな」
「閣下は私のバックについた? そうでしょうか? 兄上の方が皇太子選定が有利なのは変わりありません」
「僕は権力には興味はないが、皇位継承権を放棄するわけにはいかないんだ」
「はい、それは当然です」
へヴァンはリエルに改めて、あの言葉を告げる。
「何しろ、俺はお前の幸せを邪魔しなきゃなはないからな」
リエルはその言葉に動きを止める。
「そのことですが、僕をずっと苦しめています。どういう意味でしょうか?」
へヴァンは席を立ち、ラエルにゆっくりと近づいた。
「あれからずっと苦しんでいたか? もう一ヶ月前になるが」
「はい 」
「そうか 、僕のことを一ヶ月間も考えてくれたのか」
「⋯⋯? はい、真意がわかりません。僕は兄上の幸せを願っているのに」
「お前は優しいね」
へヴァンはラエルの頭をそっと撫でた。
「私の幸せは永遠にお前の兄でいることだよ」
「それは⋯⋯僕がどんな人生を歩んでも、兄上は兄上じゃないですか」
「本当に?」
「僕の兄上は、東帝国第一皇子へヴァン兄上ただ一人ですよ」
リエルはまっすぐへヴァンを見つめて、きっぱりと告げた。へヴァンは目を見開き、突然リエルを抱き締めた。
「あ、兄上⋯⋯?」
リエルは思わぬへヴァンの行動にとまどった。
へヴァンは少し体を離し、リエルを見つめた。
「7年前、お前に言ったこと覚えてる?」
「7年前?」
リエルは、思い出そうとしているのか黙り込んだ。
へヴァンはその様子を見て、少し悲しげな表情に変わる。
「気をつけて、行っておいで」
リエルは、兄の顔と自分の顔の距離が、あまりにも近いので戸惑った。
「じゃあ、またな」
へヴァンはダイニングを後にした。
扉の外で待機していたキリアンは、へヴァンの機嫌がめずらしく良く、顔を赤く染めているように見えた。
リエルは一人取り残された後、しばらく思考がまとまらなかった。
(兄上に私は好かれているのか嫌われているのか……)
もちろん、前者であるようリエルは願っていた。
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