45.リリィとハンナとケンタ
【クレオ・デ ・ナッツ大公】
子爵から戦功のみで、大公の地位まで上り詰めた英雄。
東帝国騎士団の総括リーダー。
その数7万⋯⋯ここ10年で規模が拡大。
これは、クレオの求心力に他ならなかった。
そして、確かに大公家といえば、皇位継承権三位であるのは間違いない。
レオンはクレオに謝罪する。
「ただただ皇子二人どちらかの問題だと考えていました 。失礼いたしました」
「そりゃそうだ 。 若い皇子が二人いたら、そちらが注目されるだろう。私は既婚者だし。」
クレオは一息ついて、紅茶カップに口をつける。
「皇子二人が不在になる⋯⋯とは思いたくはない。私は家庭もうまくいっている。万が一継承権が回ってきたら、離婚を強要され、ナユタ嬢と婚姻させられてしまう。」
「寒気がしますね。」
「私が、君の義理の息子になるとか真っ平ごめんだ 。私には、ナユタ嬢と年がかわらない息子もいるのに」
「しかし、このままだと9割方へヴァン皇子が皇太子に選出されるでしょう」
レオンは、リエル皇子が不利な状況を伝える。
クレオは、腕組みをして、顔を上に向けて考えを巡らせる。
「あまり皇室の権力争いに加担したくないが、このままではフェアではない。せめて、へヴァン殿下とリエル殿下は同じ条件で争わなくては」
レオンもその点は同意だ。
「どうされるのですか?」
※ ※ ※
『ハンナ、久しぶりーー!』
友達のハンナに会えて、嬉しそうに羽をバタつかせるリリィ。
『聞いたわよ! 本当に『人間』になっちゃったのね!』
『まあね、私も良く分からないけど』
モモイロノトリの二羽は仲良くくるみを食べる。
前日にナユタが侯爵家の庭に、布で隠すようにくるみを置いていたのだ。
早朝、ナユタはリリィになって、ハンナと雑談しながら一緒にくるみをつついていた。
『最近つまんない。リエル皇子と会う時間が少なくって 。人間の姿では全く会えないし。』
『何それ、 本体が人間になった方が会いにくいとか。』
『なんか、私が次期皇太子妃になるらしいよ。』
『ジキコウタ⋯⋯?』
『う〜〜ん、東帝国で二番目に偉い女性だよ。』
『へーー、なんだかすごそうだね。』
世間話をしていると、もう一羽モモイロノトリが降り立った。
『あれ、ケンタじゃん! 元気だった?』
ナユタが懐かしそうに声をかけた。
『あ、うまそー! 俺にもくれよ!』
『はい 、私もういらないから。』
ナユタはケンタにくるみを譲る。
ケンタは、それを慌てて口に入れた。
空腹が多少満たされると、お喋りを始める。
『お前 、とうとう本体が人間になったんだってな』
『そうだけど、変わり身はできるんだよ 。本体がモモイロノトリの時と何も変わらないわ』
『変わるよ! もう俺と番になれないじゃんか!』
ナユタはケンタを見つめて、真剣な口調で話す。
『それは鳥のままでも無理だったと思う 。 皇子様しか好きじゃないし』
『そんなの関係あるのか?』
『あるよ。私は昔から好きな人じゃないと番になんてなれないもの』
『⋯⋯お前は最初から人間だったのかもしれないな』
ケンタがなぜか悔しそうな表情を見せる。
『俺だって、毎年お前とどれだけ番になりたかったか 。 でも、お前は人間ばかりに夢中で。俺は雛を育てたかったから、他のモモイロノトリと番になったんだ!』
『ごめんね 。でも、親鳥にはなれてるんでしょ? これからもかわいい雛達育てて。』
『ちょっとっ! 私もいるんだけどっ!』
ハンナがまるで痴話喧嘩をしているような二羽の会話に割ってはいった。
『ごめんごめんっ!』
ナユタは拗ねたハンナに笑いながら謝罪。
『私もう帰るわ、 監視役がまた部屋をのぞくからさ。』
『大変だね 、またねーー』
ハンナはナユタに羽を広げて振った。
その後すぐに、ケンタに向き直る。
『あんたもしつこいねぇ! 嫌われるよ!』
『俺は、ずっとリリィと番になりたかったんだ ! 今だって諦めるつもりはない』
『リリィは、鳥の生を捨てるほど皇子様を好きなんだよ 。あんたにその覚悟さえないでしょ、諦めな!』
『鳥の生⋯⋯人間か⋯⋯。』
ケンタはしばらく口を紡いだ。
『⋯⋯じゃあなハンナ。』
『? ⋯⋯またねケンタ。』
ケンタは忙しなく空へ飛び立った。
ハンナは、ケンタの後ろ姿を見送り、またくるみをつつく。
(⋯⋯何もしないよね? あいつ気の小さい鳥だし 。野生動物っぽくない! )
ふと、ハンナは、よくくるみを食べていたアンナを思い出した。
(アンナ⋯⋯ナユタを見守ってあげてね。)
静かに亡きアンナに心の中で語りかけた。
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