44.リエルの新しい味方
シュバルツ家低宅。
ナユタは、皇室騎士団の騎士数名に24時間体制で見張られていた。
彼女が屋敷の中を移動するだけでも、護衛がついてくる。
ーー紋章が表れてから、リリィとしてもう一週間も皇子様の元へ行けてない。これでは夜に一時間抜けるのが精一杯かなぁ。今日は決行してみよう。
※ ※ ※
ここは、皇室専用の会議室。
皇室高官数名、シュバルツ家関係者、教会神官達が連日会議を重ねている。
議題は、当然「次期皇太子妃公表スケジュールについて」。
このニュースの発表する日時や順序など事務レベルでの協議に入っていた。
※ ※ ※
朝。
リエルは、自室の窓から空を見上げる。
様々な小鳥のさえずりから、リリィの姿を探す。
(リリィ、どうしたんだろう。一週間も来てくれない。)
今や次期皇太子妃は決定した。
次は、皇太子がへヴァンかリエルかどちらかが焦点。
しかも、急いで選ばなければならない。
リエルが、ナユタと婚約するには、絶対に皇太子にならなければならない。
(どうしよう、どうしたら⋯⋯。)
皇居内は、使用人が毎日会議参加者のための食事や世話に追われている。
そんな中、キリアンがリエルを訪ねてきた。
「へヴァン殿下が明日話がしたい、とおっしゃっています」
「では、明日夕食を共にしましょう、と伝言してくれ」
「かしこまりました」
「ところで、ナユタ嬢は⋯⋯元気か?」
「はい 、今の状況にとまどってはいますが」
リエルは、ただただナユタが気がかりだった。
あまり重荷になってほしくない。
「皇子の専属騎士を続けたかったそうです。ですが、自分の身を守れる次期皇太子妃なら、護衛も安心ですよね」
「⋯⋯キリアン」
リエルはキリアンの心情を思いやる。
「皇子も急な行程が増えて、お忙しいでしょう 。それでは、明日の夕食の件承りました 。お体に気をつけて下さい。」
※ ※ ※
夜、リエルが自室でバスローブから部屋着に着替えていると、コンコンと窓をつつく音。
リエルは表情が一変し、嬉しそうに窓辺に駆け寄る。
「リリィっ! 心配したんだよ!」
『きゃアァぁぁーーッ!』
リリィは叫び声を上げたが、もちろん人間にはピィピィとうるさく鳴いてるだけに聞こえる。
『皇子っっ! 服を着てくださいっ! 服をっ!』
リエルは沐浴直後でバスローブ姿。かなり前がはだけている。リリィは器用に羽で目元を隠し、ピィピィ鳴いていた。
「なんだ? 着替えを促してるのかな? 相変わらず面白い鳥だなぁ」
リエルはいそいそと寝着を着る。
「それよりどうしたの? 最近、忙しかった? 無理に来なくてもいいけど⋯⋯すこしだけでも顔を見せに来てほしいな」
リエルはリリィの大好物のリンゴで、もてなした。
(護衛が一時間に一回定期的に部屋を突然開けるから⋯⋯ここには40分くらいしかいれない)
リリィは大きくため息をつく。
「リリィ、僕は絶対に皇太子にならなきゃいけなくなった」
『ピィ?』
「はじめは、自分の命やリリィを守るために皇太子になる決意をしたけど⋯⋯ナユタと婚姻するためにも皇太子にならなくちゃ」
(そ、それはつまり……私と番になりたいと? )
リリィはくちばしに挟んでいたリンゴを落とし、動きが固まった。
「リリィ?」
リリィは思わず窓をつついて、リエルに開けるよう指示する。
「リリィ、もう帰るの?」
何回も首を縦に振り、うなずいたような仕草を見せた。
窓を開けると、勢いよく飛び出す。
リエルがリリィの遠くなった後ろ姿を見つめながら、つぶやく。
「……リリィも忙しいのかな」
※ ※ ※
リリィは少し開けていた窓から自室に入り、ナユタに戻った。とりあえず羽毛ワンピースから部屋着に着替える。
(よく考えると、私はもう⋯⋯本体が人間になったから、人間と番なれる。雛を産むことも許される)
ナユタは、今やリエルとの恋愛を夢見る16歳の少女となった。
皇子の皇太子になりたい理由を思い出しては、顔に熱が集まる。
とりあえず、ベッドにもぐり読書していたふりをする。
「ナユタ嬢、お茶をお持ちしました」
「どうぞ」
メイドがワゴンを押して入室。
(はあ……本当に一時間おきに誰かしら様子を見に来る……ハンナにも会いたいのに。今度、朝一ハンナに会おう。護衛も朝4時とか油断してるだろう)
※ ※ ※
翌日、会議後。
ナッツ大公クレオは、後輩のレオンと二人でお茶を飲んでいた。建国以来の神事に直面し身震いする。
ーー エストリニア神に次期皇太子妃と認められた令嬢が現れるとは⋯⋯
「侯爵も驚かれたことだろう」
「もう毎日目まぐるしく感傷に浸ってる暇もありません 。当人が一番とまどっていると思います」
「こういうことが起こると、二匹目のドジョウをすくおうと、貴族や小金持ちの商人⋯⋯はたまた平民までが孤児院の女児をこぞって養女にしだす 。 ナユタ嬢のように、女騎士に育成し、奇跡を起こそうとするだろう。公表する前に、法整備を急がねば」
「それが終われば、エストリニア神の神託を公にするのですか?」
「そうだな⋯⋯喜ばしいニュースではある。ナユタ嬢は負担だろうが」
「本人は専属騎士のままでいたかったみたいです」
クレオはそれを聞いて高らかに笑った。
「ハハハ! やっぱりナユタ嬢は最高だ」
ひとしきり笑った後、クレオはレオンにたずねた。
「真面目な話⋯⋯どうなんだ?」
「はぁ? 何がですか?」
「ナユタ嬢は、へヴァン殿下とリエル殿下どっちに嫁ぎたいんだ?」
「嫁ぐ⋯⋯ナユタはもうずっとリエル殿下に好意をよせています。たぶんリエル殿下も⋯⋯両想いだと」
「そうか、じゃあ現状は厳しいな。 皇后陛下はへヴァン殿下をもちろん皇太子に推しているし、あの御方は、ほとんどの貴族連中を手中に納めているじゃないか」
「そうですね」
レオンもこればかりは口を挟みようがなかった。
娘の意向を尊重してやりたいが、ただでさえリエル殿下は側妃の子。
クレオは少し間を置いて、口を開いた。
「うちも他人事ではないからな」
「どういうことでしょう」
「私が皇位継承権第三位であることはご存知かな?」
レオンは、飲みかけのお茶を吹き出しそうになった。
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