42.義妹が実妹になりました
東帝国最高神官のマニュシュ。
突然、彼がシュバルツ家に訪れた。
レオンが教会に連絡を入れるまでもなかった。
早速、二人は会談をはじめる。
「突然の訪問失礼いたします。私は神官のマニュシュと申します」
「シュバルツ侯爵家のレオンです 。 ミサ以外でこうして言葉を交わすのは初めてですね。身に余る光栄です。」
「早速ですが、先ほどエストリニア神の神託(※1)がございました」
「察しはつきます。我々もとまどっております」
マニュシュは事の重大さに身震いする。
「しかし、東帝国始まって以来の神事です。つまり、千年で一度もなかったこと。」
「私も迷信だとばかり思っていました」
「シュバルツ家直系以外の女性の体に、その家門の紋章が現れた場合。エストリニア神がシュバルツ家直系の実子と認めた印。⋯⋯つまりナユタ嬢は、正真正銘のシュバルツ家の令嬢となられたのです。」
その時、扉の外からメイドが声をかける。
「失礼いたします。ナユタ様のご準備が整いました」
それを聞いて、レオンは神官に告げた。
「娘の身支度ができたようです 。参りましょう」
「ありがとうございます」
マニュシュは緊張した面持ちで、レオンの後をついていった。
※ ※ ※
「東帝国最高神官マニュシュ様に御挨拶申し上げます。シュバルツ侯爵家のナユタと申します」
ナユタは背中が開いたドレスに着替え、神官に丁寧に挨拶した。その場には、父レオンと兄キリアンも同席。
「どうぞ無理をなさらず。痛みを伴ったと聞いております」
神官はナユタにイスに座るよう促した。
そして、彼女に背中を確認する許可をもらい、背後にまわる。
「これは⋯⋯確かにシュバルツ家の紋章ですね」
マニュシュ神官は感嘆でため息がもれる。
「歴史的瞬間を目撃できて、私は幸せ者です」
マニュシュは心落ち着かせてから話し始める。
「今日の朝の礼拝が終わり、一息ついていたところに神託がおりました。 『ナユタ嬢の背中にシュバルツ家の証を刻んだ』⋯⋯と。」
「では、ナユタは⋯⋯」
「はい 。シュバルツ家の実子と認めなければなりません 。 書類上の手続きもあるでしょう 。これから、世間が騒がしくなるのも必至です」
その言葉を聞いて、キリアンはとまどった。
ーーナユタは正真正銘、僕の実の妹になったのか。
「これから、皇居に報告に行かなくてはなりません。」
「共に参りましょう。」
レオンとマニュシュは、慌てて登城の準備を始めた。
「私はどうしたら良いのですか?」
ナユタはレオンにたずねた。
「お前は丸一日眠っていたから、とりあえず休養しなさい 。キリアンもついているから。」
レオンはナユタの肩を抱きながら、寄り添うキリアンをじっと見つめた。
「キリアン、私はお前を誇りに思うよ。」
一瞬、キリアンは何かをこらえるような表情を見せた。
「はい、 ありがとうございます。」
レオンは、幼い子供を慰めるように、彼の頭をぐりぐり撫でて、神官と共に邸宅をあとにした。
※ ※ ※
ーー私は、シュバルツ家の正式な子供になったの? 人間になったということ? もうモモイロノトリに変われないのかしら? あとで人目がない場所で、こっそり変身してみよう。
ナユタはそんなことを思いながらも、サンドイッチをばくばく口に運ぶ。
ソファーの隣にはキリアンが座り、呆然としている。
ふと、妹の背中の紋章が目に入り、胸が張り裂ける思いがよぎる。
「お前、この状況でよく食べるなぁ」
「お兄様はお腹すかないの?」
「紋章が現れたことで、国全体がしばらく大騒ぎになる」
「考えてもムダなことは考えない。」
「正式に俺の妹になったな」
「はい 。でも、私は私よ。 」
キリアンはしばらく表情が固まってから、笑いが込み上げてきた。
「ハハハッッ!」
「何かおかしいこと言った?」
彼は思わず、座ったままナユタを抱き締めた。
「どうされましたか?」
「いや、お前はたくましいよ」
ーーこれでもう兄として気持ちに一区切りつけれるのかな? 時間はかかるだろうけど。
キリアンは、ナユタを抱き締める手に力をこめる。
ーーきっと貴族達はナユタを取り込もうと画策する。国民はナユタを救世主のように崇め期待を寄せる。皇家は、急遽どちらかの皇子を皇太子に選出しなくてはならない。その全ての喧騒からお前を守ってやりたい。
初めて出会った時。
レオンの後ろに恥ずかしがっていた少女の姿を、キリアンは感慨深く思い出していた。
彼は抱きしめる手に、祈るように力をこめる。
「お兄様」
ーーきっと私の事を心配してくれているのね。
ナユタは、キリアンの背中に手を回して、抱きしめ返した。
※ ※ ※
(※)1神託⋯⋯神のおつげ。神が人や物を介して意思を伝えること。
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