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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第ニ章 騎士として

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41.消える命と授かる命

「もしかして、ご懐妊ではないのですか?」


 侍女がナーシャ夫人に告げる。


「え? まさか⋯⋯」


 シュバルツ侯爵家当主レオンの妻ナーシャ。

 彼女は頬を染めて動揺した。


「だって、食事の好みががらっと変わられましたし⋯⋯匂いに敏感になられて」

「言われてみれば、月のものも遅れてるわ」

「絶対そうですよ! 最近、お体の調子がよくありませんが、ご懐妊が原因なら喜ばしいことです。一度、主治医に診てもらいましょう 」

「そうね 、お願いするわ」

「少しお休みください。早速、主治医と連絡を取りますので」

「ありがとう」


 侍女が、慌てて部屋から出て行った。


 ※


 やわらかく優しい日差しが、窓からふりそそぐ。

 カーテンが風で小さく揺れた。

 ナーシャ夫人は何かに気づき、窓辺近くに歩み寄る。

 すると、窓枠に一羽の桃色の小鳥。

 そのくちばしは、鹿の毛をたくさん(くわ)えている。


(巣作りかな……この小鳥も親になろうとしているのね、私はまだ妊娠しているかわからないけど)


 ーーーードクンッッ!! 


「うぅっっ!」


 突然、胸が悲鳴をあげた。

 心臓がわしづかみされる痛み。

 心臓に持病があるナーシャも、今までに経験したことがないような発作だった。


(どうしよう、息ができない、だ、だれか⋯⋯)


 声にならない叫び声を上げる。

 片手でカーテンをつかんで、よろめきながら立ち上がる。


(今? 今なの? 今、死ぬの? レオンを残して? キリアンをおいて? お腹に子供がいるかもしれないのに?)


 はぁはぁとか弱い呼吸しかできない。

 胸をおさえ苦しみもだえた。

 つかんだカーテンは金具から外れる。


 ドスンッッ!!


 その場に仰向けで倒れるナーシャ。

 頭を強く打ち付けてしまった。


(もうダメ⋯⋯目も霞んで⋯⋯)


 彼女は窓枠にたたずむ鳥を、かすかにとらえる。

 小鳥は鹿の毛を(くわ)えながらナーシャを見つめている。

 思わず、その鳥に想いを託す。



 ーーお願い⋯⋯あなたも親になるのでしょう? 私の最後の望みを聞いて欲しいの。もし妊娠しているならば、この子だけは、なんとしても生まれてほしい。どうか⋯⋯この子の魂だけでも、あなたに預けさせて。どうかエストリニア神よ、私に……情けを⋯⋯!! ーー


 ナーシャは涙を浮かべながら、ゆっくり目を閉じた。親鳥はナーシャのお腹の上まで飛んで、その上にうずくまる。

 まるで抱卵(ほうらん)しているかように。


「きゃあああっっ! ナーシャ様!」


 部屋に戻ってきた侍女が、倒れているナーシャ夫人を見て、悲鳴を上げた。


「ナーシャ様!! どうされましたか! 誰か! お医者様を呼んで! 早く!」


 混乱している使用人をよそに、桃色の小鳥は大空に向かって羽ばたいた。鹿の毛を(くわ)えたままーー。



 ※ ※ ※


(なに、この映像⋯⋯ナーシャ⋯⋯お母様の最期なの? )


 あれは、まちがいなくモモイロノトリの親鳥だ。

 義母ナーシャが()()()()()()()()()()()


(ここは⋯⋯? )


 ナユタはゆっくり瞳を開けた。意識がぼんやりと覚醒していく。


(私の部屋の天井だわ。)


 ゆっくり体を起こした。


(確かリエル殿下と話している時に、背中に激痛が⋯⋯キンモクセイの匂いしか覚えていないなんて。)


 上半身が硬い。

 なぜか硬くて動かせない。

 彼女は、包帯でぐるぐる巻きにされていることに気づいた。


「ナユタお嬢様! お目覚めですか? 良かったです!」


 侍女が駆け寄る。


「私はどのくらい寝ていたの?」

「はい。丸一日です。」

「包帯が巻かれてるけど⋯⋯?」

「ナユタ様が倒れた直後背中を痛がっていた、とリエル殿下にお聞きしたようです。とりあえず、固定したようですね。」




 ※ ※ ※


 十分後。


「ナユタ、気がついたか?」

「どうだ、体調は? 背中は痛くないか?」


 父レオンと兄キリアンが血相を変えて、部屋に飛び込んできた。

 ちょうど女医が包帯を解いていた。

 もう少しで、上半身全てを露出(ろしゅつ)してしまうタイミング。

 家族三人は目を合わせたまま、動きを止める。


「わ、悪いっっ! 見てないからっ!」


 顔を赤くした男二人は、慌てふためく。


「出ていって!」


 ナユタが低い怒号が響かせた。

 二人は逃げるように部屋を出る。


「どうぞ作業を続けて」 


 ナユタは女医に包帯を全部取ってもらった。


「背中に痛みはありますか?」

「いえ、もうないわ、なんだったのかしら?」


 女医は目を見開いて、ナユタの背中に顔を近づけた。


「ーーお嬢様 、 胸をお隠し下さい 」


 急にシーツで胸辺りを隠すよう女医に促される。


「閣下に背中を見ていただきます」

「お父様に? 何故?」


 女医は、ナユタの問いを最後まで聞かなかった。

 部屋の外に出て、レオンに事情を説明しているようだ。

 直後。

 彼は取り乱した様子で、再び女医と共に部屋に入ってきた。


「⋯⋯悪い。ちょっと背中を見せてくれ。」


 父のあまりの剣幕に、ナユタは少し戸惑い気味で了承する。

 彼は、背中の肩甲骨(けんこうこつ)あたりを何度も女医と確認。


「ナユタ⋯⋯触れてもいいか?」

「は、はい? どうぞ」


 レオンは震える手でナユタの肩甲骨をなぞる。


「これは間違いなく、我がシュバルツ家の紋章⋯⋯」


 ナユタは聞き間違いかと思い侯爵に尋ねた。


「モンショウ?」


 ナユタは、メイドに鏡をニ枚用意させ、合せ鏡で背中を確認した。

 キリアンは、外から部屋の様子を眺め、時が止まったように立ち尽くす。


 レオンは呆然としながら娘に呟く。


「これは⋯⋯医者じゃなくて、神官を呼ばなくてはならない」

最後までお読みいただきありがとうございます


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