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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第ニ章 騎士として

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40.背中が痛い


 皇室騎士団の鍛錬場。


 キリアンとナユタは、ダミーの剣で対戦中。

 力技で押し切るキリアンと、俊敏な動きで惑わすナユタ。

 必ず持久戦になる二人。

 二人が稽古していると騎士達がざわざわ集まってくる。

 他を圧倒する二人の動きに見入っていた。


 そこに、リエルが鍛練場に現れた。

 彼も訓練に参加するようだ。

 とたんに、ナユタの動きが止まる。


「お兄様、休憩休憩ーー!」

「何? またお前は殿下と話したいんだろうっ!  させるかっ !」


 キリアンが隙だらけのナユタに襲いかかる。


 バンッッーー!!


 衝撃音と共にダミーの剣が宙に舞う。

 キリアンの剣が弾かれる。

 それは地上に落ちて、くるくると回って止まった。


「物騒な兄妹ゲンカだな」


 リエルが二人の対戦に介入し、キリアンの剣をはじき飛ばしたのだ。

 リエルは、本気でキリアンに怒っているようだ。

 リエルの行動に呆然とするナユタ。


(リエル殿下が私をかばった⋯⋯まあ、あんな攻撃全然かわせるんだけどね⋯⋯お兄様ナイスタイミング!! )


 ナユタは皇子の背中越しから、兄に向かって、サムズアップを見せて喜ぶ。

 キリアンは妹のテンションについていけなかった。

 早速、リエルに話しかけるナユタ。


「殿下、あちらの園庭に参りましょう」

「え、でも⋯⋯」

「キンモクセイが咲きましたよ、 早く」

「⋯⋯皆、稽古を続けてくれ」


 リエルがナユタの誘いを断れず、ついていく。

 ナユタの幸せそうな顔を、キリアンは切なそうに眺めた。


 ーー俺はあんな表情させてやれないな。


「さあ、稽古の続きやるぞーー!」

 キリアンの気合いに身震いする騎士団員達。


「シュバルツ家の兄妹は仲が良いな」


 急にキリアンの背後から声がした。

 振り向くと、珍しくへヴァン第一皇子が鍛錬場に現れた。


「へ、へヴァン殿下⋯⋯!」

「珍しい奴が来た、とでも? まあ、その通りだな。私は鍛練するつもりはない。見学に来ただけだ」


 騎士団員達もへヴァンに気付き、次々に挨拶にやってくる。彼は素っ気なく彼らに接した後、ベンチに座った。

 キリアンも戸惑いながらも、主君の側に立つ。


「シュバルツ家の兄妹は仲がいいな」


 へヴァンは騎士団達の稽古を見つめながら、キリアンに話しかけた。 


「そうでしょうか 。 もう少し兄を敬う気持ちが欲しいところです」

「遠慮なく会話ができるのが()()というものだろ」


 キリアンは、へヴァンとリエルの関係が頭によぎる。


 ーーしかし、弟のリエル殿下と距離を取っているのは、へヴァン殿下の方だろう? 皇后陛下の命令かもしれないけど……。


「お前はナユタ卿を()()()()()として好意があるのだろう?」


 ーードクンッッ!


 心臓が、跳ねた。


「いえ……誤解です」


 へヴァン皇子は、後ろに立つキリアンの方へ体をひねって目を合わる。


「ここには俺たち二人しかいない 、 無理しなくて良い」

「違います」

「まあ、本心なんて言えるわけないか 」


 二人に微妙な空気がながれ、会話が途切れる。


「ただ、『兄妹』という関係は最強だと思うぞ」

「何故ですか?」

「パートナーは確かに愛し合ってるかもしれないが、所詮は感情で結び付いてるだけだ 。何か困難なことがあれば、生家に帰ってくるじゃないか」

「そうでしょうか」

「無償の愛情は尊い 。お前はすでにそれを手にしている。 うらやましい限りだ」

「⋯⋯なんか現実的な話ですね」

「君は、ナユタ卿にとってかけがえのない存在になっている。それでいいじゃないか」


 すると、血相を変えてキリアンの元に一人のメイドが駆け寄ってきた。


「キリアン様、大変でございます! ナユタ様が! 早くこちらへ!」


 ※ ※ ※



「見てください! キンモクセイが咲き始めてます。良い香りでしょう」


 騎士団の訓練を抜け出したナユタとリエル。

 このあたりの園庭は、低木が等間隔で植えられている。

 オレンジ色の小さな花。

 その匂いが、リエルの感情を麻痺させる。


「この辺りの庭は、そこまで手入れされてなくて、私は好きです」


 ナユタの桃色の髪が風に揺れる。

 訓練服を着用していても、女性らしい姿に見えた。

 リエルは背徳感から彼女から目をそらす。

 ふと、鳥が多く集まっている場所が目に止まった。


「あの場所は⋯⋯」

「あぁ⋯⋯アンナのお墓にエサを置いてたんです。すると、鳥達がつついてるようですね」

「アンナ?」


(しまったっっ! 殿下は名前まではご存じなかったっ! )


「あ、あのモモイロノトリの名前を勝手につけました 。やはり名前がある方が馴染みやすいので」

「そうだね。じゃあ、僕もあの鳥をアンナと呼ぼう」


 ナユタは、その場を切り抜け安堵した。


「鳥は良いよね、 空が跳べて」

「ええ、最高ですっ!」


 リエルはくすくす笑った。


「まるで跳んだ経験があるみたいだね」


 ナユタは、また失敗した、と頭を抱えた。


「アンナ⋯⋯だっけ? ああやってエサに群がる仲間がいたら、寂しくないだろうね、ありがとう」


 ナユタはリエルに感謝され、盛大に照れていた。

 その時、彼の心を乱すように風が吹き荒れる。

 甘く誘惑するキンモクセイの匂い。

 風に揺れる愛らしいオレンジ。

 全てはキンモクセイのせいだった。


「ナユタ」

「はい?」


「婚約しようか?」


 ズキンッッーーー!!


 激痛。

 声も出ない激痛が背中を貫く。

 ナユタはキンモクセイの低木に倒れこむ。


「ナ、ナユタ!!」


 その香りが一層むせ返り、小さなオレンジを揺らして風が通り抜けた。

 

最後までお読みいただきありがとうございます


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