39.ナユタとリリィが似ている件
「リエル皇子殿下に御挨拶申し上げます。うちのナユタがお世話になっております」
「いや、私の方がナユタには負担をかけっぱなしで、立派に務めを果たしてくれている」
「ありがたいお言葉でございます」
リエルは、レオンと形式的な挨拶の後、ナユタに話しかけた。
「……ナユタ、きれいだ 本当に」
(き、きれい……)
ナユタは一気に顔が赤くなり心臓が跳ねた。
「あ、ありがとうございますっっ!」
ナユタは片手で顔を覆い、そのまま顔だけ後ろを向き、もう一方の手で皇子を叩くような仕草をした。
「これ、よしなさい!」
レオンに注意され、ナユタは我にかえる。
「東帝国一の美女が台無しだ」
レオンは呆れて、娘を叱責しっせきした。
「実際、殿下を叩こうとしたわけではありません。叩くマネをしたのです」
「距離が近かったら、絶対叩いていただろう」
レオンは、ナユタに言い返す。
そして、二人はリエルに向き直り一礼。
「リエル殿下、これで失礼いたします 」
「ありがとう、この後も楽しんでいってくれ」
レオンはまだ顔を赤くしているナユタを促しながら、挨拶の列から立ち去った。
リエルは、ナユタが照れた時の仕草を思い出していた。
ーー なんだろう⋯⋯この既視感。照れながら顔を隠して後ろを向き、反対の手で僕をバンバン叩く⋯⋯。
そして、彼は完全に一致した場面を思い出す。
ーーあ、そうだ! リリィの照れ方と一緒だ! なんだかリリィとナユタってたまに反応が似てるんだよな。
リエルはナユタにリリィを会わせる計画を立てなければ、と再考し始めた。
※ ※ ※
一通り挨拶を終え、ダンスや食事を楽しんでいる貴族達。
そんな中、執事が皇族にパーティーの進行状況を報告していた。
「皇子の誕生パーティーはこれまで予定通り進んでおります 。急遽、欠席されたのは⋯⋯」
「⋯⋯誕生日パーティー?」
突然、アリシア皇后が低い声でつぶやいた。そして、執事にたずねる。
「誰の?」
皇后は口角を上げて怪しく微笑む。テオ皇帝、へヴァン皇子、リエル皇子他使用人達も、ただならぬ空気を感じ取った。
そして、皇后はへヴァン皇子の顔を凝視して口を開く。
「あなた⋯⋯誰⋯⋯?」
※ ※ ※
パーティーは無事幕を閉じた。
シュバルツ家の面々も馬車で帰路についていた。
「ナユタ、踊ってしまったな」
キリアンが疲れた様子で、ナユタに話しかける。
「どうでしたか? おかしくなかったですか?」
「まあ、初めてにしては上出来だ 。さすが私の娘だな」
一通り、ナユタの初めてのダンスの話に花が咲いた後。
キリアンがレオンに違う話題を切り出す。
「父上、パーティー途中で皇后陛下が退席されましたね」
「ああ、あれはどうしたんだ?」
「僕の聞き間違いかもしれないのですが、へヴァン殿下のことが、わからないようでした」
「どういうことだ?」
「殿下に対して、素性を訊ねたのです。あなた、誰? 、と」
理解不能。
誰も言葉を発しない。
(なんだろう? 記憶が混乱されたのかな? )
ナユタはそう解釈した。
「一時的に記憶が曖昧あいまいになったのかなぁ。そうだと良いのだが」
レオンは、ナユタと同じような見解だった。
「その時、皇帝陛下も退席されましたね。 皇后陛下に付き添われて」
「また皇帝陛下だけだが席に戻られたし、皇后陛下も落ち着かれたのだろう」
語り合っている内に、馬車はシュバルツ家の邸宅に到着した。
※ ※ ※
皇后アリシアは睡眠薬を服用し、よく眠っていた
使用人を下がらせ、皇帝とへヴァン皇子がベッドに付き添う。
「リエルのあの宣言から、この調子ですね」
へヴァンはベッドのサイドチェアに座る皇帝に話しかけた。
「ああ⋯⋯覚醒ももうすぐかな⋯⋯長かった」
皇帝テオは皇后アリシアの寝顔を眺めながら、つぶやいた。
「このまま何事も起こらなければ良いが」
しばらく、沈黙が流れる。
「君は⋯⋯どうするのかね?」
テオはへヴァンに問う。
へヴァンは皇帝の鋭い眼をじっと見つめた。
「⋯⋯僕はやっと自由になるだけですよ」
「本当に良くやってくれている 。 一生安泰に暮らせるくらいの報酬は用意しよう」
「⋯⋯俺は報酬のために、第一皇子という存在になったのではありません」
テオは答えは分かっているが、あえてへヴァンに問う。
「⋯⋯リエルのためか?」
※ ※ ※
リリィは、人間になってどんなに忙しく活動した日でも、夜はリエルのの部屋を訪れた。
ただ、今日はさすがのリリィも眠気に負けそうだ。
「眠い? 今日はここで泊まったら?」
リリィは眠気眼ねむけまなこで、リエルの声に反応し彼の指に止まった。
その時。
『ピィッ?』
「どうした?」
(なんか背中がむずむずする。なんだろう最近、痛みが走ったり、違和感があったり⋯⋯。)
心配そうな皇子の顔を見て、リリィは慌てて平静を装う。
(まだ違和感があるけど、明日もあるから⋯⋯少しだけここで休んでから帰ろう。)
リリィは一時の休息のため、静かに目をつむった。
リエルは、眠るリリィを見つめながら、今日の皇后アリシアの言葉を思い出す。
ーー『あなた⋯⋯誰なの?』ーー
あんなに溺愛しているへヴァンに問いかけた言葉。
(耳を疑った。何か心の病だろうか。)
パーティーの後、皇后陛下を見舞おうと足を運んでも、また皇家でリエルだけ入室できなかった。
(何が起こっているんだろうか?)
リエルは、目を瞑るリリィの寝顔に癒されながら眠りについた。
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