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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第ニ章 騎士として

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38.パーティという名の品評会

 へヴァン第一皇子誕生日パーティー当日。


 非公式パーティとはいえ、皇居内にあるホールはとても華やかだ。初めて皇族のパーティに招待された次世代貴族達が初々しい。


 そこに、シュバルツ家の馬車も到着。

 父レオンと兄キリアンが馬車から姿を現した。

 そして、キリアンが手を差し出し、ナユタはそのエスコートを受け馬車を降りる。

 その姿にため息がもれる貴賓(きひん)達。


「ナユタ嬢は、亡くなったナーシャ夫人とは血縁関係ないわよね?」

「ナーシャ様本人が若返ったようよ」

「なんと美しくて、はかなげなご令嬢なんでしょう」


 口々に賛美の声が上がる。

 まだ幼さの残る少年のような子息達も、顔を赤くしてざわつく。


「シュバルツ家の令嬢は、リエル殿下専属騎士だと聞いたぞ」

「あんな可憐な細腕の騎士とか」

「今日はダンス踊られるのかな?」


 この状況が全くもって面白くない兄のキリアン。

 今日はへヴァン皇子の護衛任務のため、ナユタにずっと帯同できない。

 父レオンだけが頼りだ。


「父上、ナユタを守ってくださいよ! とにかくナユタへのダンスの申し込みは全て断って下さい」

「父に任せなさい! 社交界を何年渡ってきてると思ってるんだ! 上手く乗り切ってみせるよ!」


 レオンはニコニコ笑いながら、キリアンにへヴァン皇子の側衛任務に戻るよう促した。



 ※ ※ ※


「シュバルツ侯爵家レオン閣下とナユタ令嬢です!」


 入場の音楽が鳴りった。

 ナユタはホールの階段を父レオンのエスコートでゆっくり降りる。

 レオンの麗しさと、ナユタの美しさに会場がどよめく。


「ナユタ嬢は東帝国一の美女だろ」

「今まで騎士の制服しか見たことがないので⋯⋯」

「美しい方だと評判だったが、ここまでとは」

「シュバルツ侯爵も若々しくお美しい 。再婚のご意思はないのでしょうか」


 そんな中、皇家登壇の音楽が始まった。

 皇帝陛下、皇后陛下、へヴァン第一皇子、リエル第二皇子が姿を現した。


「今宵は我が息子へヴァンの誕生パーティーによく集まってくれた 。ささやかではあるが、楽しんで帰ってほしい」


 規模の小さいパーティーではあるが、さすが第一皇子の誕生パーティー。食事やデザート等彩りよく豊富に並んでいる。


 リエルはナユタを壇上から見下ろした。

 今日はリエル皇子の護衛には、ナユタの代わりにカノ騎士が指名されている。

 リエルは、ナユタのドレス姿に目を奪われた。


(ナユタ⋯⋯あれはナユタだよな? )


「どうかしたか?」

 挙動不審なリエルに、兄のへヴァンが気付き声をかけた。


「い、いえ、何も」


 へヴァンが、階下のホールに目をやると、レオンとナユタが話をしていた。

 その二人を取り囲むように、貴族達が彼らを見つめ噂話に花を咲かせている。

 当の本人達は気にしていない。


(まるで品評会の目玉商品だな)

 へヴァン皇子はその光景を心の中で皮肉った。


「ナユタ嬢、スピル伯爵家嫡男レーバンドでございます」

「私はイワンタル公爵家アランです。以後お見知りおきを」

「ロンズ伯爵家嫡男ジュナです」

「ぜひ一曲私と」「私とも」 


 レオンは、群がる一人一人を検閲。


「今日はナユタは成人前なので、誰ともお相手しない。デビュタント当日の楽しみにしていて」

「本日は、ナユタはダンスを遠慮させてもらう」


 ナユタは側でレオンの行動を見ていて、お父様ご苦労様だなぁ、と心の中で(ねぎら)った。


 父レオンは、娘に群がる色めきだった次世代貴族達を蹴散(けち)らす。

 そして、次はなんとレオン自身に令嬢を連れた貴族達が群がった。


「⋯⋯シュバルツ侯爵レオン閣下に御挨拶申し上げます 。 ハインズ伯爵です。こちらは長女のニージュナでございます」

「あ、はい。私はシュバルツ·フォン·レオンです。こちらは私の娘ナユタです」

「シュバルツ侯爵閣下、ナユタ嬢に御挨拶申し上げます 。こちらは私の娘アイシャです」

「レオン閣下、御挨拶⋯⋯」


 ナユタはあまりの貴族達の娘の押し売りに、翻弄されていた。


(お父様狙いっっ ! そりゃあ、お父様は若く見えるし美丈夫なオジサマですもの。⋯⋯しかも私と同じような年齢の()まで紹介されちゃって⋯⋯。)


 ナユタは貴族の婚姻は戦いだということを、目の当たりにしていた。


(でも、これじゃあ、お父様が私の(たて)になれないっ! お兄様ーー!! )


 壇上で側衛任務中の兄キリアンに、ナユタは目で窮状(きゅうじょう)を訴える。


(なんだよ、あれ……ナユタに群がる虫どもを払いのける役目の父上が群がれてる )


 キリアンはナユタのすがるような視線が痛かった。


「君の家族はすっかりこのパーティーの主役だね」


 へヴァンがキリアンに笑いながら話しかけた。


「は、はっ ! 申し訳ございません」

「妹さんが大変そうだから尽力しよう」


 ナユタはいつの間にか次世代貴族に取り囲まれていて、気を遣いながら挨拶していた。

 へヴァンは壇上を降り、少しずつナユタに近づく。

 キリアンもへヴァン皇子の後ろをついていく。


(へヴァン殿下? 一体何を? )


「ナユタ嬢 、息災で何よりだ」


 ナユタは背後から声をかけられ、振り向くとへヴァン第一皇子だった。兄キリアンも後ろにひかえている。


「へヴァン殿下に御挨拶申し上げます。お誕生日おめでとうございます」


 ナユタは頭をさげ、ドレスのすそを持ち上げ、淑女の礼をした。


「そろそろ曲がかわるな 。一曲お願いできるだろうか?」


 へヴァン皇子が手を差し出す。


(なんですって……? )

 ナユタは、とっさに兄キリアンに目配せした。

 キリアンは意を決して皇子に進言する。


「へヴァン殿下、光栄極まりないお言葉ですが、ナユタはまだ成人前でダンスは……」

「いえ、お兄様お受けいたします」


 ナユタは兄の言葉を制して、ダンスの申し込みを受けた。


「ふーん……空気は読めるようだな」


 へヴァン皇子はニヤリと笑い、ナユタの手を取る。

 ナユタはキリアンに顔を向け『あ、り、が、と、う』と口を開け、声に出さずに感謝した。


 ーーお兄様やお父様の顔に泥を塗るわけにいかない……それにへヴァン皇子がお相手なら、他のご子息も少し大人しくなるでしょう 。


 ナユタは、リエル皇子とのダンスはデビュタントまで取っておく方向に気持ちを切り替えた。


 二人は、ホールの中央に立つ。貴賓達の視線が集中する。

 そして、曲が流れーー

 滑らかな動きで、二人はステップをふんだ。

 鳥のように軽やかだ。

 ナユタはへヴァン皇子の動きに驚いた。


(体幹が良いのか、難しい動きも簡単そうに……へヴァン殿下は本当にお上手だわ)


 2人を見つめる貴族達からは、ため息がもれた。


「なんと美しくて華麗なダンス」

「あんな軽やかにステップを踏まれるなんて、天性の才能ね」

「まるで絵画のようだわ」


 壇上から二人のダンスを眺めるリエル。カノ騎士が声をかける。


「次にダンス申し込まれますか?」

「……いや、またナユタが話題の中心になってしまう。どうせ面白おかしく噂されるのがオチだ。 今日はそっとしておく」


 そう言いながらも、リエルは残念そうにうつ向いた。

 そして、その姿をへヴァンは踊りながらも視界にとらえる。


「……妬いてるのかな」


 へヴァン皇子は一瞬暗い表情に変わる。


(え? 今、へヴァン皇子は何かつぶやいた? )


 ナユタはよく聞き取れなかったが、あと少しでダンスも終わるので、スルーした。

 やがて、ダンスは終わり、へヴァン皇子はナユタに挨拶をして、皇家の壇上に戻った。


 そして、貴族達は次々に皇家に挨拶するために列をなす。


「皇帝陛下に御挨拶申し上げます」

「皇后陛下に御挨拶申し上げます」

「へヴァン皇子お誕生日おめでとうございます」


 そして、シュバルツ家の番が回ってきた。

 ナユタはドキドキしながら、皇家の前に立つ。

 皇帝陛下から順番に挨拶。

 皇后陛下にも挨拶をしたが、一言も返答がない。

 本当に体調が悪いみたいだ。

 扇で口元を覆っているが、パーティーに最後まで参席することは無理かもしれない。

 続いて、へヴァン皇子⋯⋯そして、いよいよリエル皇子の面前にレオンとナユタが移動した。


 

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