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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第ニ章 騎士として

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37.私の一生独身宣言にお兄様が歓喜する

「リエル殿下、皇帝陛下がお呼びです。」

「わかった。執務室でいいのかな?」 


 リエルが皇太子になる決意表明した会食後。

 皇家の態度に変化があった。

 テオ皇帝はリエル第ニ皇子と話す時間を増やした。

 父の皇帝は時間ができれば、リエルを執務室に呼び、他愛のない話をするようになった。 


 この変化に貴族達は、敏感に反応する。


「まさか⋯⋯皇太子を第ニ皇子に指名されるのでは⋯⋯」

「いや、先日まで疎遠な親子関係ではなかったか? へヴァン殿下の方がまだ有力だろう?」

「しかし、見誤れば我々の家門にも影響が」


 相変わらず、彼らは自身の保身にしか興味はない。

 この国の統治者に相応しいかどうかなんて眼中にはなかった。

 一方、皇后はあの会食以来、体調を崩している。

 うなされることも多い。

 テオやへヴァンが、代わる代わる様子を見に足を運んでいた。

 リエルも見舞いに行きたかったが、テオに止められていた。


「今は大事な時期だから……もう少ししたら、お前を受け入れてくれるかもしれない 」


 リエルは意味がよくわからなかったが、父テオの指示通り見舞いには行かなかった。

 へヴァンが一番態度が変わらない。

 皇居内ですれ違っても、軽く挨拶するだけだ。


 ーー 《俺はお前に幸せになってほしくない》

   《あいつはやめておけ》


 兄の言葉が頭から離れない。

「兄上」という呼び名を何度も強要したり、彼が涙した理由もわからない。

 兄の態度が一番リエルを苦しめていた。



 ※ ※ ※

「ご主人様、 キリアン様、どうぞお入り下さい」


 ナユタがドレスを部屋で試着し終えたのだ。

 扉の向こうには、ナーシャ夫人の生き写しでしかないナユタがたたずんでいた。


「ナ、ナーシャ……」


 思わず亡き妻の名前を口にした父レオン。

 あまり装飾のないドレス。

 アクセサリーも若者らしいピンクサファイア。

 髪は幼さの残るリボンで結んでいる。

 キリアンもすっかり美しく成長したナユタに言葉も出ない。

 脈が早くなり体が熱い。

「女性」として意識していることを実感する。


 ーー自分は兄、兄なんだ


 キリアンは自分に言い聞かすように、この言葉を心で唱えた。


「ちょっとお母様にもお見せしてきます」


 彼女は足早に肖像画が飾ってある廊下へ向かう。

 レオンはナユタの変化に気づく。


(故人を偲ぶ(・・・・・)という感情がわかるようになったかな? )


「キリアン、お前もついていくのか?」


「⋯⋯ええ、お母様に会いに行きます」


 ※ ※ ※


 【シュバルツ フォン ナーシャ】


 肖像画に添えられたプレートに刻まれた名前。

 現シュバルツ侯爵レオンの亡き妻。

 ピンクの巻き髪に、グレーの瞳。

 彼女の肖像画の前で、ナユタは立ち尽くしていた。


(お母様⋯⋯いかがですか? あなたの娘になってから、8年経ちました。 私はあなたの娘と名乗れる女性に近づいていますか? )


 目をつむり、心の中で静かに語りかける。


「⋯⋯ナユタ」

「お兄様」

「邪魔したかな?」

「いいえ、もう終わりましたから」

「ナユタは母上が亡くなって、数カ月後僕の妹になったんだよね」

「そうですね」

「そのせいかな? お母様の生まれ変わりのような気がしてしまう」

「私は私ですよ」


 ナユタはキリアンに顔を向けて、はっきりと言いきった。


「そうだな、ごめん」

「いいんですよ、 そんなに似ているなんて本当の親子になれたみたいで嬉しいです」

「俺は⋯⋯」


 キリアンはナユタの手に触れた。


「もう失いたくないんだ」

「大切な人は誰も」


 手をきつく握り、その手の甲にキスをした。


「お兄様⋯⋯」

「お前が騎士でいる限り、胸が張り裂けそうだ⋯⋯最近、また皇子がかわいがっている鳥が狙われたそうじゃないか」

「私は強いです」

「辞めたくなったら、いつでも言うんだぞ」


 ナユタはめんどくさくなって、はいはいと、いい加減な返事をするだけだった。


「それよりどうですか? こんなドレスを着るのは初めてです 」

「⋯⋯う、美しいよ」


 キリアンはあからさまに照れた。

 まともにナユタの瞳が見れない。

 ナユタはキリアンの両頬をつかみ自分に向ける。


「ちゃんと私の瞳を見て言ってください」


 キリアンはナユタの目と合った。

 とたんに心臓が跳ね上がる。


「き、きれいだよ」

「本当に?」

「あ、ああ……」

「じゃあ、リエル皇子様にもきれいと思ってもらえるかしら」


 キリアンはその言葉を聞き、黒い感情が少しわく。


「ナユタ、リエル皇子は……やめた方がいい」


 キリアンの言葉が胸に突き刺さる。


「大丈夫、 わかっているわ。 私は養女だもの」


 そして、言葉を続ける。


「私は誰とも結婚しないと思う」


 キリアンは、その言葉に飛び上がるように喜ぶ。


「そ、そうかっっ!!」

「⋯⋯何? 急に元気になって……私が一生独身なのが嬉しいの?」

「お兄様が一生お前の面倒見てやるからなっっ!」


 テンションが高くなった兄は、べらべらと何気ない会話を続けた。ナユタは兄の話を聞きながら、ある考えをめぐらせていた。


(本体がモモイロノトリの私と皇子様では⋯⋯というか鳥と人間なのだから、婚姻自体無理だ。 だから、私は騎士として一生お側にいれれば、それでいい)


「痛っっ!」


 ナユタは突然背中にチクッとした痛みを感じ、思わず声を上げた。


「どうした?」

「いえ、背中に痛みが走ったような気がして……もう大丈夫です」

「そうか 無理するなよ。もう父上の元に戻ろう」

「はい」


 キリアンはナユタの手をひいて、父の部屋に向かった。


 

最後までお読みいただきありがとうございます


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