36.いい雰囲気だったのに、お父様が邪魔をする
ナユタはリエル皇子と騎士二人が会話する様子を、木陰から眺めていた。
(何を話していたのかな? )
パトシュナ子爵とパーヤルが去った後。
そっと後ろからリエルに声をかける。
「リエル殿下に御挨拶申し上げます」
「あぁ、ナユタ、来たのか」
「昨日は、皇家のご会食いかがでしたか? 有意義な時間を過ごせましたか?」
「そうだな 。自分の考えは伝わったと思う」
ナユタは、リエルが何か吹っ切れたように感じた。
「先程、騎士二人と話されてましたね」
「あぁ……彼らも思うところがあったのだろう」
「犯人でしょうか?」
「僕も同じようなものだ」
「はあ?」
ナユタは、また皇子が感傷的的になっていると察知する。
「殿下の何が彼らと同じなのですか?」
「⋯⋯良かったと思ったんだ」
「良かった?」
「リリィじゃなくて」
リエルは、そこまで口にして下を向く。
何かに悔いているようだ。
「亡骸の鳥を、リリィとは別の鳥だとわかった時⋯⋯リリィじゃなくて良かったと!」
彼の少し興奮して荒げた声が響く。
「死んだのがリリィじゃなくて良かったと、思ってしまったんだ!」
瞬間。
風の音だけが二人をかすめる。
ナユタは目をぱちくりさせた。
「⋯⋯普通じゃないですか?」
「いや、こんな考えが争いを生むんだ」
リエルは言葉を続ける。
「傷ついたり死ぬのが、自分じゃないから家族じゃないから友じゃないから⋯⋯これが戦争が回避できない原因なんだよ 。 この国の皇子として、人の傷みがわかる人間でないと」
「それに⋯⋯今回の黒幕を絶たないと、またこういうことが繰り返される 。彼らは罪を着せられたにすぎない」
彼はただ自分を責める言葉を続ける。
そんなリエルに、ナユタはやはり自分の選んだ人に間違いはなかったと確信した。
「とても人間らしい考え方ですね」
「⋯⋯ナユタ?」
「自分と大切な人や動物が無事で喜ぶなんて、いたって正常です。 殿下はもう少し負担を軽くしてください」
「⋯⋯そうかな」
「ただ、私はそんな殿下が好きです」
突然のナユタの告白に、リエルは目を見開いた。
「いつも皆を良くしようと悩む殿下が大好きです」
リエルは顔から火が出るかのように、真っ赤になった。
ナユタは彼の両手を包み強く握る。
「ち、ちょっと急に……っっ」
「ふふ……慌てる皇子様もかわいいです」
ナユタは自身も照れながらも、自分の気持ちを素直に伝えた。
思わず、告白してしまった。
心臓がどくんどくんとうるさく響く。
その時ーー
「ナユターー! ここにいたのか! アルパスのクッキー持ってきたぞーー!」
父のレオンが大声でナユタの名前を叫びながら駆け寄る。
その瞬間、二人は手を離しうつむいた。
「ほら、これを見ろ ! メイドが一時間並んで買ったんだぞ! 菓子メーカーはアルパスでいいんだろ? これだろ?」
ナユタは思わずた息をついた。
「はあ~~、お父様は本当に空気を読めない天才ですね!」
「な、なぜ怒ってるんだっっ! 娘の機嫌取るのに必死なんだぞ、父親ってのは!」
「アルパスだろうがカルパスだろうが、お父様は今とても罪深いことをされました」
「あ、リエル殿下に御挨拶申し上げます」
レオンはやっとリエル皇子の存在に気がつく。
「これは失敬、二人きりだったのか」
とたんに、レオンがニヤニヤし始めた。
「下品な笑顔です、お父様」
「私とリエル皇子とどっちが大事……」
「わざとそういう質問して傷つきたいのですね……悪趣味です」
思春期の少女と父親のやり取りに、リエル皇子は自然と笑顔みがこぼれた。
(僕には味方の数は少ないが、絶対的な味方がいる。)
リエルはまだナユタの告白の余韻に浸りながら、言い合う父娘を眺めていた。
※ ※ ※
「もうリリィとは会わない方がいいと思ったんだ」
リエルの部屋のテーブルの上。
夜のピンクの小鳥とリエルの小さなお茶会。
木の実をついばみながら、リリィは皇子の話を聞く。
「リリィは僕の弱点なんだよ。僕の騎士達が優秀で、なかなか僕自身を消せないから、愛するものを消す方向にシフトしたんだ」
(あ、愛するもの……)
リリィはバタバタと羽を動かし、顔を覆い、リエルの背中を羽でバンバン叩く。
「鳥も照れるのか……とゆーか殺されるかどうかの切羽詰まった話してるんだけど」
リリィはピィピィ鳴いて、『私は強いから大丈夫』 と伝えた。
「⋯⋯何か一生懸命お喋りしてくれてるの? かわいいね」
(か、かわいい⋯⋯っっ)
リリィはまたバタバタ動き、リエルをバンバン叩いた。
「これずっと繰り返すの⋯⋯?」
リエルはけらけら笑いながら、リリィの頭をなでた。
「でも、決めたんだ。 僕はもう逃げたくない。 僕を狙う奴らの思い通りにさせたくない 。リリィは僕が守るから、今まで通り一緒に寝よう」
(い、一緒に寝、ね……っっ! )
リリィはゆでダコのように真っ赤になり、後ろに倒れた。
(人間だったら、鼻血を出していたかも……)
「ちょっっ! リリィッ! しっかりっっ!」
(皇子様⋯⋯絶対確信犯でしょ、これ)
リリィは倒れながら、リエルを恨めしそうに睨んでいた。
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