24.不吉第ニ皇子の求愛ダンス
そして、その夜。
リエルの部屋で人間と小鳥の茶会での出来事。
「リリィ……僕は好きな人ができたかもしれない」
その瞬間、小鳥は盛大にくるみをふいた。
「鳥もむせるんだ……大丈夫?」
リエルは飛び散ったくるみを布でふきながら、心配そうにリリィの喉元をなでた。
「でも……僕といると不幸になってしまうかもしれない 。 お母様もナーシャ夫人も亡くなって⋯⋯。使用人も僕の周りからいなくなっていった。もし、その人がそんなことになったら耐えられない」
リリィは、何故か怒りで表情が歪んだ。
『そんなのダメよっっ!!』
羽で皇子の肩をバシバシ叩き、ピィピィ鳴き続けた。
『なぜ人の病死まで皇子様の責任になるの? 好きなら好きで、行動にでなさい! 求愛ダンスを見せつけたらいいのよ!』
リリィはアドバイスをしながらも、胸がチクチク傷んだ。
『私なら大丈夫 ! リエル皇子様の幸せが一番!』
もちろん、モモイロノトリの姿では鳥の鳴き声しか出ず、何もリエル皇子には伝わらなかった。
※ ※ ※
「へヴァン皇子の誕生日パーティー? 絶対参加?」
それは、シュバルツ家低宅で夕食時に知らされた。
「ええーー……っ!!」
ナユタはあからさまに、拒絶する態度を見せる。
「まあ、皇室の招待だと断れないな」
今回のパーティは非公式。
これはへヴァン皇子があまり派手な行事を好まれないためだ。ただ、へヴァン皇子の年の近い子息や子女は強制参加。やはり、次期皇太子は第一皇子であることを、次世代貴族にも知らしめたい意図が透けて見える。
そして、レオンはふてくされている娘に慰めの言葉をかけた。
「まだ成人前だから、ナユタには私がずっと側にはついてる。 安心しなさい 」
続けて、父は娘を説得するため魔法の言葉を口にした。
「もちろんリエル皇子も参席するよ」
※ ※ ※
ナユタは、ベッドで飛び跳ねていた。
兄のキリアンも妹の部屋でくつろいでいる。
「ダンス……ダンスの練習しなきゃっっ! 」
キリアンは、妹のはしゃぎっぷりに開いた口がふさがらない。
「考えれば、皇族全員参加するよね! へヴァン皇子とリエル皇子は血のつながりはないとはいえ、二人きりの兄弟なんだし! ねえ、お兄様!」
「今回はダンスなしだよ。 ナユタは食事してジュースでも飲んでな。 デビュタント前だからな!」
ここで、妹のはしゃぐ声も動きも止まる。
「つまんないーーっ!!」
「ね⋯⋯念のため、俺がダンスの練習相手になってやるよ。 デビュタントも近いだろう?」
「お兄様が?」
「当日はデビュタントのために、ファーストダンスは取っておけ」
キリアンが手を差し出して、練習台になってくれるような仕草をした。
「じゃあ、あのセリフ言ってよー! ……ダンスを踊る栄光をなんとか」
キリアンは照れながら、ナユタの望み通りのセリフを口にする。
「ナユタ嬢、私にファーストダンスを踊る栄光を与えてくれませんか?」
「喜んで」
ナユタは兄に淑女の礼をする。
キリアンの鼓動は速度を増し、同時に背徳感に苛まれた。
二人は呼吸をあわせてステップを踏もうとするが、なぜかナユタよりキリアンの調子が悪く音に合わない。
「ちょっと!! 相手が私だからって、適当に踊らないで!」
「ち、違う……緊張してて……!」
「私の練習相手からはずすわよ!」
「わ、わかった! ちゃんとするから!」
キリアンはナユタと手を繋ぎ、腰に手を添える等全ての動作に戸惑っていた。
※ ※ ※
「お嬢様、閣下が来られました。お通ししてもよろしいでしょうか」
「お父様が? はい、どうぞ」
ナユタが寝支度をしていたら、部屋に父のレオンが珍しく訪ねてきた。
彼はお茶を用意しているメイドと共に入ってきた。
「悪いね。少し話がしたくて。すぐに終わるから。」
「いいえ、寝るにはまだ早い時間ですもの。大丈夫です。」
ナユタは、侍女とメイドに指示を出した。
「もう今日は下がっていいわよ、また明日ね」
「失礼いたします」
メイドはナユタの部屋を退室した。
明日からは、ナユタはまた騎士の業務に戻る。
レオンは休暇の最後の夜に、お茶を用意してやってきた。難しい年頃の娘の父親らしく、ぎこちなく話を切り出す。
「明日からまた皇居だね」
「はい、また週末帰宅しますね」
「へヴァン殿下の誕生パーティーもあるし、忙しくなるね」
「それはお父様も一緒じゃないですか」
ナユタはリエル皇子の元に帰れるので、毎日平日だと良いのに、と願うくらいだ。
「ところで……わざわざ私の好きなお菓子を準備されてどうされましたか?」
ナユタは至高のスイーツであるアップルパイを口に運んでたずねる。レオンは少し躊躇しながら、話を切り出した。
「お前ももうすぐ社交界デビューするし、貴族や皇室の情報を伝えておこうと思う。」
レオンは、個々の家門のスキャンダルや個人の性格等、細かい部分までナユタに話してくれた。
「最後に……」
「皇室の最大の口外禁止の事件に触れようと思う」
レオンはここでナユタと目を合わせ一呼吸おく。
「ナユタはへヴァン殿下をどう思う?」
父レオンは娘ナユタに問いかけた。
「……リエル殿下のお兄様です」
「他にどういう印象を持っている?」
「え? それ以外? キリアン兄様の主君とか?」
レオンはナユタがへヴァン殿下にはあまりに無関心なので、あきれてしまった。
「へヴァン殿下もなかなか麗しいお方だろう……」
「あまり交流がないので、お人柄とかわかりかねます 」
「そこなんだよ、皇室の謎は」
(……へヴァン第一皇子の人柄が皇室の謎? )
レオンの言葉の意味がわからず、怪訝な表情になるナユタ。
「第一皇子失踪事件を耳にしたことはある?」
「少しだけ……しかし、皇居では皇族の噂話を口にするの困難なので」
「そうか、そうだろうな⋯⋯しかし、キリアンにも成人前にはこの話は伝えたから、お前も知っておいた方がいいだろう」
レオンは、紅茶で少しのどを潤してから、話し始めた。
「……10年前、私が皇帝陛下に謁見している間の出来事だったんだ」
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