20. 猛禽類VS人間
視察団四名は、西に向かって走る。
走りながら、リエルはナユタに言葉をかけた。
「ナユタ、助かったよ! よく刺客が迫ってるのがわかったね」
「野生の勘ですね」
(逆にあんな近くの殺気がわからないのか……人間は不便すぎるわ⋯⋯)
「っっ!!」
この先にも待ち伏せされている気流がナユタを襲う。
挟み撃ちなら、避けようがない。
前方からは殺気と恐怖が感じ取れた。
ーー次は逃げることができない状況かも……翼がないから、挟み撃ちに合っちゃう! もう、本当に人間って不便!!
市民西広場まで逃げてきた。広場では、露店が並び人々があふれかえっている。
「そこまでだな」
待ち伏せしていた刺客達五名が、逃げ道をふさぐ。その内一人は、泣いている幼児を脇に抱えていた。
後ろから、店でまいた刺客五名も追い付いつかれた。
リエル達四人は十人の刺客に取り囲まれてしまった。
静かに剣を抜いたリエル達や、武器を携帯している刺客達に気付き戸惑う平民達。
「きゃああーー!」
「盗賊か? 武器持ってるぞ!」
「逃げろ逃げろっ!」
大勢の平民が叫び、逃げ惑い、大混乱に陥った。
刺客の一人が三歳くらいの男の子を人質に取っている。
母親は泣き狂いながら、子供の名前を叫ぶ。
「マオ、マオ!! お願いします! どうか離してください!」
「ママ! ママ!」
泣き叫ぶ幼児は、抱えられ首元に短剣を向けられていた。
「なあ、かわいそうだなぁ? かわいそうだろ?」
男の子の頬に刺客がキスをし、皇子を一瞥。
にたりと笑う。
「この国の皇子は、きっと君を助けてくれるよ。 正義の味方だからね! さあ、皇子と騎士の皆様、剣を捨ててもらいましょうか!」
リエルと騎士二人は顔を見合わせた。
「剣を捨てたら、その子は離すんだな?」
「お、皇子……平民の子のために、まさか剣を……?」
騎士二人が目を見開く。
耳を疑う平民達。
広場は静寂な空間と化していた。
「さあ、さっさと剣を……えぇ?」
刺客の男の間の抜けた声。
人質の幼児を抱えている腕が急に軽くなった。
「はい、 もうママから離れちゃダメだよ」
ナユタが男の子を抱っこして、母親に渡す。
光速の救出劇に、敵も味方も立ち尽くしている。
子供を奪われた刺客は、羞恥で顔を徐々に高揚させながら叫んだ。
「やっちまえ!! こっちは倍以上の人数いるんだ!」
十人が一斉に四人に襲いかかる。
「お嬢さん、お前の相手は俺だ!」
二メートルはゆうに超える怪獣男が、ナユタを捕らえようとする。
下からナユタは大男を睨みつけた。
彼女は俊敏に大男の拳をかわす。
(殿下は三人相手でも大丈夫、 心配なのは、味方の騎士二人……! )
「あぁっ!!」
護衛騎士の一人が腕を少し切られ声を上げる。
ナユタは、一瞬その声に気を取られる。
それを怪物男は逃さず、ナユタを後ろから羽交い締めにした。
(しまった!! )
「ナユタ!!」
リエルは真っ青になって、狂ったように叫ぶ。
しかし、敵を三人相手にしているから、応戦ができない。
圧倒的に相手の方が人数が多くて不利だ。
「お前がナユタか……噂ほどでもない」
怪物男は、ナユタをきつく締め上げる。
ギシギシと骨がきしむような痛み。
苦痛に顔が歪んだ。
(このままでは、骨が折れるっ! ……しょうがない! )
怪物男がいっそう力をこめたその時、男の大木の腕が空をつかむ。
カラーーン……
剣が地面に落ちる音。
ナユタが消えた……服と剣だけ残して。
ナユタは足の早いネズミに変わり、ひとまず小道の壁に身を隠していた。
(皆が驚いている間に、次の手を打たねば! )
次にネズミのナユタは、小鳥のリリィになり空高く舞い上がる。
同時に、左方向から急激な勢いで迫る何か。
猛禽類の大群だ。
瞬間、リリィは死を覚悟する。
(⋯⋯いやっ! やられる! )
しかし、その猛禽類軍団はリリィの横を通り過ぎた。
一直線に降下し、人間達を襲う。
猛禽類は⋯⋯タカだ!
タカの群れは、敵の刺客達を取り囲んで攻撃。
鋭い爪が腕や足に食い込む。
一人に数匹まとわりついているので、たまらない。
「うわぁぁっ!」「痛い痛い!!」「助けてくれーー!」
刺客達は、口々に叫んで意味もなく剣を振り回す。
皇子と護衛達は、唖然とその光景を眺めていた。
「ひとまず退却っっ!」
刺客のリーダーがたまらず指令を出す。
怪物男含む全員、四方八方に逃げ去った。
その姿を見て、次第に歓声を上げる民衆。
「リエル皇子様、ありがとう!」
「リエル様、万歳っ!」
「東帝国万歳っ!」
リエルは、自分に向けられている賛美に照れながら思わず民に一礼。
その歓声の中、皇子は負傷した騎士に近くの皇室御用達の病院にかかるよう指示。
市民達が負傷した騎士の案内役をかって出た。
リリィは屋根の上から、その様子を嬉しそうに眺める。
(良かった。リエル皇子嬉しそう。)
その時。
一羽のタカが、リリィに近づいた。
全身を恐怖が襲う。
(やられる! 食べられちゃう! )
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