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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第ニ章 騎士として

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21.食べていいか?

 (ーー食べられる! )


 しかし、なぜかすぐにその恐怖心は、すぅーっと消え去った。一羽のタカはリリィの隣にとまる。


(猛禽類がいるのに、不思議な感覚だわ……急に怖くなくなった。)


『人間なんてチョロいな、 飛べないわ動きが鈍いわ』

 そのタカがリリィに鳴き声で話しかけてきた。


 しかし、リリィは視覚的な恐怖は消えないので、震えながら礼を言う。


『初めまして、リリィと申します 。ありがとうございます。助かりました 』

『お前が噂の最近人間になってるリリィとかいうチビか?』

『私をご存知で?』

『そりゃあ人間になるとか、そんな鳥、珍しいからな』


 タカは地上のリエル皇子を見下ろした。


『あいつのためか?』


 リリィは真っ赤になって動揺して目が泳ぐ。


『い、いや……ほら! 私は彼を守る仕事をしていて! ご、誤解しないで! 私はただ彼の騎士として!』


 タカはリリィを睨む。

 リリィはその瞬間、本能的な恐怖で心臓が跳ねた。


『うまそうだな、お前』

『え……えぇ?』

『食べたい、ダメか?』

『ダ、ダメに決まってます!』

『あいつ助けてやったのに? 報酬くれよ』


 それを言われれば、ぐぅの根も出ない。


『リエル皇子様がいなくなったら……』

『ん?』

『皇子様がこの世界を離れる時が来たら、私を食べていいですよ』


 タカは唖然(あぜん)とした表情でリリィを見返す。


『皇子様がいない世界に生き続ける自信がないし』


 タカは呆れて少し笑った。


『じゃあ、その時までせいぜい楽しくやるんだな。 俺はご馳走を食らうのが延びるけど』

『今回はありがとうございました』

『また何かあったら呼んだらいい』


 リリィは人懐っこく笑ってうなづいた。

 地上にいるリエルが、ふと空を見上げると、民家の屋根にとまっているタカとモモイロノトリが視界に入った。


(あれは……リリィ……? )


 そんなリエルに護衛騎士が皇居に戻ることを促す。

 しかし、リエルはナユタの捜索をすると言って、馬車に乗ろうとしない。


「ナユタ卿はきっと見つかりますよ 。先に皇子の御身をお守りするのが、我々の責務なので先に帰宮を。私たちが全力でナユタ卿をお探しします」


 母やナーシャ夫人を失っている恐怖がよみがえるリエル。貴族達が噂している声が頭にこだまする。


『第ニ皇子にかかわると命が危ないわ』

『マリアン様もナーシャ夫人もご逝去されて……』

『へヴァン殿下も一時失踪されたじゃない』


 ーーどうしよう……ナユタまで失ったら!


 リエルは顔が青ざめ呼吸が乱れ、その馬に座り込む。


「リエル殿下、大丈夫ですか?!」


 背後から、聞き覚えのある柔らかな声。

 この声はーー。


 彼は振り返り、夢我夢中でその人物を抱きしめる。


「殿下?」


 (⋯⋯ナユタ。ナユタの声だ! )


 リエルは更に抱きしめる両手に力を込めた。


 一方、ナユタは彼のその行動に戸惑いながらも、高鳴る鼓動を抑えるのに精一杯だ。


「ど、どうしましたか? どこか痛みますか?」


 リエルは彼女の存在を確かめるように、しがみついたまま。

 躊躇(ちゅうちょ)しながらも、ナユタは両手を皇子の背中にまわす。


(手があると、こうして抱き締めることができるのよね。)


 彼の背中は広くたくましくなったが、小刻みに震え呼吸も荒い。


(あたたかい……抱き締め合うことは、なんて胸がしめつけられる行為なんだろう。)


 ナユタは、熱があるかのように体が熱くなる。


 (よく人間はこうして背中をとんとんと叩いてたかな? )


 ナユタも、皇子の背中を優しくとんとんと叩いた。

 リエルは驚いたが、少し顔を赤らめながら話す。


「良かった、無事で⋯⋯」


 彼は徐々に呼吸が整う。

 しばらくして、二人は馬車に乗り皇居に向かった。


 ※ ※ ※


「ところで、その服はどうしたんだ? 羽毛?」

「似合いませんか?」

「い、いや……似合っているけど、どうしたの? そのワンピース」

「エストリニア神の良心でしょう」


 鳥から人間に変わるときは、いつもこの服を着た姿になっていた。


(まあ、そうなるよね。人間は服を着なきゃやばいもん。)


 ナユタにとって、リエル皇子との初めての市内視察は、こうして幕を閉じた。



 ※ ※ ※

 その頃。

 皇居へヴァン第一皇子執務室前。


「視察団リエル殿下含め四名、市民西広場にて奇襲に遭いました!」


 伝令の報告を聞き、血の気が引くキリアン。


(ナユタ⋯⋯ナユタが同行してるはず! )


 しかし、キリアンもへヴァン皇子の執務室前の側衛任務を投げ出すわけにいかない。妹一人の無事を確かめられない自分の立場に絶望する。

 唇を噛み少し出血した。

 血の味が口の中に広がる。

 彼が無意識に震えていると、また別の伝令が走ってきた。


「リエル殿下含め四名は、カノ騎士が軽傷を負いましたが、皆無事であると報告があり……キリアン卿?」


 キリアンは、伝令が自分を見て驚いているので、理由をたずねた。


「顔に何かついてるか……?」


 自分の顔を触ると、手に水がついている。


 ーー涙……? 俺は泣いているのか?  


 キリアンは思わず頭を振った。


 ガチャッ⋯⋯!


 急にキリアンの背後の扉が開く。

 へヴァン第一皇子が顔をのぞかせていた。


「どうしたんだ?」

「あ、いえ、市民西広場でリエル殿下一行四名が刺客に襲われましたが、無事だそうです」

「⋯⋯君の妹もいたのか?」

「はい、しかし怪我もないようです。気にかけていただき、ありがとうございます」

「なら、良かった。 また詳しい話は後日に聞く。今日は妹の側にいてあげたら良い 。退勤を許可する。」

「お気遣いいただき感謝いたします。」


 キリアンは、礼を口にするやいなや、ナユタの宿舎に向かって走り出した。


 ※ ※ ※


「あら、お兄様。側衛の仕事はいいの?」


 ナユタは宿舎まで訪ねてきた兄にたずねる。

 とにかく、キリアンは息を切らしていて汗だくだ。


「入りますか? 水でも⋯⋯」

「はぁ⋯はぁ⋯いや、いい」

「ダメ! 水ぐらい飲む!」


 ナユタは無理やり部屋に押し込み、水を台所まで取りに行った。



 

最後までお読みいただきありがとうございます


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