19.視察デート
翌日。
朝からリエルや護衛騎士達も極秘視察のため、準備に取り掛かった。
服も平民が着る質素な服で変装。
そして、精鋭騎士を数人連れていくだけだ。
リエルとナユタは、荷物運搬用のカートに乗り、牛車に乗る。
精鋭騎士は、牛車を運搬する農民に扮した。
「見習いの私がカートに乗って良いのですか?」
「牛を操るのも技術がいる。それにカート外の方が危険度が増す。ベテラン騎士に任せた方が良い。」
「は、はい、承知しました」
ナユタは、狭いカートに揺られながら、リエル皇子とデートしているような気分で浮かれていた。
「よく町を視察されるのですか?」
「直接、市民の暮らしに触れ内情を知らなくては。貴族達の報告だけでは、虚勢を張っている場合もある。大事な任務だよ」
リエルは瞳を輝かせて、外の景色を眺めながら応えた。
「今の皇帝陛下は税金を下げたり、毛布を配給したりして、国民には支持があつい。ただ、どうしても貴族に流れる資金を国民に還元してるから⋯⋯」
リエルはそこで言葉をつぐんだ。
このままだと、貴族寄りのアリシア皇后の嫡男であるへヴァン第一皇子が、貴族内では皇太子に推す声が大きくなる。
兄へヴァンが皇太子に選ばれるのは構わない。
リエルは権力には興味はない。
(僕は⋯⋯『不吉皇子』という言葉がついてまわっているから。ただ、この東帝国が平和であれば僕は何でもいい。)
リエルは、黙り込んで市民の様子を眺めていた。
そんなリエルの横顔をナユタはうっとりと眺める。
(仕事している皇子様⋯⋯カッコいい⋯⋯)
リリィがふと町の若い市民に目を移すと、ショッピングしたり、食べ歩いたり⋯⋯カップルは手をつないでいたり。
(デートかなぁ⋯⋯デート!! 平民の若いカップルに見えなくては! )
「リエル殿下! ちょっと髪触りますね!」
そう言って、ナユタはリエルの髪を無造作に崩す。
「な、何を⋯⋯!」
「あと、胸元もボタンを何個かはずして⋯⋯」
そのままリエルのシャツのボタンも上から二つ外した。
「これで町で遊んでる若者に見えますよ!」
ナユタがふとリエルの顔を覗き込むと、顔が真っ赤になっていた。
「大丈夫ですか? 体調がすぐれませんか?」
ナユタが熱を測るため、リエルの額に手を伸ばした。
すると、リエルは顔を背ける。
「だ、大丈夫⋯⋯ちょっと近いから⋯⋯」
ナユタはついリリィの感覚でリエルにベタベタ触ってしまっていた。
「も、申し訳ございません!」
ナユタも心臓が騒ぎ出し、顔を赤くした。
妙な空気の中、牛車を町の牛舎に預かってもらい、リエルとナユタ他騎士二人は食事に出かけた。
※ ※ ※
町のレストランは大盛況。
リエル、ナユタ、他護衛騎士二人計四人だが、分かれて座らなければならないほどだ。
「じゃあ、僕とカノ卿が一緒に座って、ナユタ卿とロイ卿が⋯⋯」
「いや、殿下とナユタ卿が同席の方がいいと思いますよ」
視察団の一人ロイ卿が思わず口をはさんだ。
「なぜ?」
「⋯⋯殿下は鈍感ですね。とりあえず私は恨まれたくないので、カノ卿と同席します」
「殿下、ロイ卿がカノ卿と座りたいのですよ! 私と一緒に早く座りましょう!」
そう言って、ナユタはリエルの手を引っ張って二人席に座る。そのまま、カノ卿とロイ卿も少し離れた相席に腰をかけた。
「何食べたいですか? 殿下」
「ナユタと一緒でいいよ」
「その注文の仕方は最悪ですよ! ちゃんとメニュー見て下さい!」
リエルは驚いて、わかったよと、メニューに目を通す。
幼い頃から、全く自分への態度が変わらないナユタに戸惑う。
先日の婚約者選別パーティーでの令嬢達とは全く違う。
リエルは、昔からナユタの自由な振る舞いが好きだった。
貴族令嬢なのに、自分の意見をハッキリ口にする。
やりたくない事は、本当にやらない。
人間のしがらみに囚われない別の生き物のようだ。
そんなナユタを見ていると、リエルは心臓のリズムが早くなる。
ーーナユタは、誰か想い人がいるのだろうか⋯⋯でも、僕は他人を不幸にするかもしれない。僕じゃあダメなんだ。
リエルは、あの異名ために全てを諦めていた。
※ ※ ※
2人の元に注文した食事が並ぶ。
リエルはビーフシチュー、ナユタは魚のムニエル。
「見たことない食材が入ってるな」
リエルが店のウェイターにたずねると、西帝国から輸入された食材だと言う。
ジャガイモに似ているが少し甘い。
ナユタはそんなリエルをうっとりと眺める。
(はぁ……仕事している殿下……)
次の瞬間。
急にナユタに緊張が走る。ぎゅっとテーブルの上のリエルの手を握った。彼への緊迫した目配せは危険度を表している。視察団他二人にも、近づいて耳打ち。料金を払い、裏口から店を出て、四人は一斉に駆け出した。
(誰……? 人間達の殺気が近づいてくる! )
その直後。
店に数名の強面の男性客が、ぞろぞろ入ってきた。
店内一人一人の顔を覗き込んで、人探しをしているようだ。
「いないなぁ……」
「おやじ、男三人女一人の四人組来なかったか? 男は金髪と茶髪二人、女はピンクの髪」
「……それでしたら、さっき裏口から出ていきましたよ」
「裏から逃げたぞ! 追えっ!」
五人の武装した男たちは、乱暴に客をかき分け乱暴に回った。
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