18.好きって何?
「どういうことだ?」
後日、アリサを護衛した皇室騎士団から報告を受けるレオン。皇帝陛下の近衛兵までが護衛に加勢した、という事実に驚いた。
今回の毒殺未遂事件は、アリサが黒幕に命令されリエルの命を狙ったのは間違いない。普通なら、アリサを逮捕し、拷問し、黒幕を吐かせてから⋯⋯死刑だ。
ただ、リエル殿下がアリサに温情をかけ、皇帝陛下の許可をもらい、東辺境地まで逃がした。そこまでは理解できる。
(なぜ、皇帝陛下が近衛団を使ってまで、メイドを守ったのだろう⋯⋯。)
数々の疑問が残る中、またもや事件の捜査は数日で打ち切られていた。
この一連の動きに、レオンはリエル皇子がまだ幼かった頃を思い出す。
※ ※ ※
今から七、八年前。
皇居内で殺人事件が頻発した。あの時と酷似している。
誰かを暗殺するために、忍び込んだであろう傭兵が次々と殺される。
その誰かも今となっては、リエル皇子の可能性が濃厚だろう。
同時に、リエル殿下の使用人が一人ずつ皇居を去る。
その度に皇帝陛下が捜査を打ち切る。
皇帝陛下は、当時も姿を消す使用人達を、安全に新天地へ送っていたのかもしれない。
暗殺するために協力したと思われる人達をーー
(何故黒幕の尻拭いのようなマネを……皇帝陛下自らが……。)
レオンは、今回も調査が打ち切られているため、首謀者を割り出すことはできなかった。
※ ※ ※
「リリィ、僕は婚約候補者三人全員断ろうと思うよ」
リエルは、モモイロノトリに夜のルーティンのお茶会で告白。
『え? 婚約しないの? 』
リリィはリエルに鳴き声で聞き返す。
「今回のことでわかった。僕と関わると、誰かが辛い思いをする。ここ7年何もなかったから忘れてた。まさかアリサまでこんなことになるなんて」
リエルは疲弊していた。この状況では、自分が側にいては、誰も幸せになれないと。
「リリィ、僕と一生一緒にいてくれる?」
ーー ピィッッ???
『今、なんと言いましたか? 一生? 一緒?』
リリィは興奮気味に鳴きながら、部屋の中を飛び回る。
「鳥だから、裏切らない」
リリィは飛び回っていて、一緒にいたい理由が「鳥だから」というセリフを全く聞いていない。
『一生リエル皇子様と一緒にいれるわ! やったぁ!!』
※ ※ ※
ここは皇居近くの森。
リリィは久しぶりにモモイロノトリの仲間達と近況報告をしていた。
『リエルオウジサマが私と一生一緒にいたいんだって!』
リリィは羽をばたつかせて、喜びを表現する。
人間に関心が全くないハンナとアンナの反応は薄い。
『そう、良かったわね。』
その一言で終了。
二羽は、また育児談義と旦那の愚痴で盛り上がっていた。
リリィは、また会話に入れない。
すると、ハンナがリリィに話しかける。
『リリィ、ケンタがしつこくまだアンタと番になりたいってうるさいわよ! なってあげたら?』
『好きじゃないのに?』
『何それ。好きって何?』
『好きは好きじゃない。わからない?』
ハンナとアンナは本当に分からなかいようだ。
リリィはここで気づく。
ーー私は最初リエル皇子様に育てられたから、ペットみたいな感情があるのかな? 好きとか、あ⋯⋯あい、愛とか!
リリィは小枝の上で羽をばたつかせて、興奮しだした。
『ちょっと! 急に暴れないでよ! 狭いのに!』
ハンナはリリィにピィピィと文句を言うように鳴いた。
※ ※ ※
「一体、皇子二人のどちらを『皇太子』に指名されるのです?」
皇后アリシアは皇帝テオに、後継者の選択を迫った。
「陛下は頻繁にへヴァンと二人きりで話をされていますが、次代の皇帝として帝王学を伝授されているのでしょう?」
テオは何も応えず、紅茶のカップに口をつけた。
「後継者は当然へヴァンでしょう? 正皇后の私の一人息子ですよっ! なぜ側妃の子リエルと後継者を迷う意味がわかりません!」
アリシアは興奮して、握りしめた手が震えていた。
テオはそんな妻を見つめて、はっきり告げる。
「へヴァンは私の目から見てよくわからない」
「なんですって?」
「お前には、あいつが国を治める器量があると思うか?」
「もちろんです ! 早く皇位継承者を明らかにして下さい! いらぬ混乱を招いてしまいます」
「それは君の言う通りだと思う。私も早くはっきりさせたい」
皇帝テオは、皇后アリシアの瞳を見つめた。
「君次第だな……」
「何ですって?」
「君の動向で、皇位継承者が決まる」
「……では、私の希望は、皇太子はへヴァンです。そう受け取ってもよろしいのですね?」
皇后アリシアは、満足したかのように皇帝の部屋を退室した。
(彼女は……あの日から変わってしまった。まるで別人だ)
テオは考えを巡らせる。
(今回のリエル毒殺未遂は内密に処理したが、また皇后は何か行動を起こすだろう……全て私のせいだが)
テオは大きなため息をついた。
(しかし、あのシュバルツ家の専属騎士は、監視役の庭師の存在まで気づいた。さすがレオンの目に留まった少女だな。へヴァン並みに勘が良いというか……)
「ヘッセンはいるか?」
ベルを鳴らし、執事ヘッセンを呼んだ。
「お呼びでございますか?」
外で待機していた執事が頭を下げて、部屋に入ってきた。
「へヴァンを呼んでくれるか。その後、しばらく二人きりで話したい。お前はまた外で待機してくれ」
その時、テオの執務室の窓辺には一羽の小鳥。
リリィが二人のこのやり取りを一部始終偵察していた。
皇帝と皇后の仲は、あまり良くは見えなかった。
ーー家門で決めた婚姻だったのかなぁ……リエル皇子の実母マリアン側妃とは愛し合っていたのかしら?
※ ※ ※
その後。
夜のリエル皇子とのお茶会にて。
リエルの衝撃発言があった。
「リリィ、明日は町に視察に行くんだよ、平民に扮して。大切な任務なんだ」
『え? 明日の任務は、リエル殿下と町でデート?』
リリィは皇子から明日の予定を聞き、喜びの鳴き声を上げる。
「久しぶりだから、楽しみだよ。仕事だけど。」
リリィはテーブルの上で楽しそうに、ピョンピョン跳ねて何も聞いていない。
「どうしたの? 嬉しそう。リリィも一緒に連れていきたいけどね⋯⋯夜にまた会おうね」
そう言って、リエルはリリィを手のひらに乗せた。
『明日は初デートだ! しかも平民の姿で! どこに行こうかしら』
リリィは、その日はずっとテーブルの上を跳ね回っていた。
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