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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第ニ章 騎士として

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18/36

17.ティーパーティーで毒殺を

 リエル第二皇子の婚約者選定ティーパーティー当日。


 場所は、皇室のバラ園。

 候補者の令嬢達は三人。

 茶会の間、ナユタはリエルの専属騎士として、皇子の後ろから護衛する。

 彼女にとって、本格的な初めての側衛の仕事だ。


「お久しぶりです。ミリネー嬢、リンダ嬢」

「バレチェ嬢も相変わらずお美しいです 。 憧れますわ」

「今日はよろしくお願いいたします」


 給仕しながら、使用人達は痛感する。

 ここは彼女達の戦場なのだと。

 配膳が終わる頃、リエル皇子がナユタはじめ護衛騎士を引き連れて、テーブルに到着した。


「遅れてすまない」


 一斉に令嬢達は起立し、淑女の一礼をし挨拶の言葉を述べる。


「リエル殿下に御挨拶申し上げます」

「ああ、そのまま座っていて」


 皇子は焦って、深々と礼をする三人の令嬢を制した。

 とたんに、口元を抑えるナユタ。


 (何、この違和感⋯⋯! 気持ち悪い! )


 ナユタは、この空間にいるだけで胸やけしそうになった。

 当たり前だが、リエル他、人間が気づかない異様な気流。


「殿下は18歳になられるのですね。私は17歳になりました 」

「私の父も殿下を称賛しておりました。美しく聡明でお強くて……」

「こうして、ご一緒にお茶をいただけるだけでも、家門の誉れでございます」


 ナユタは、令嬢達の皇子への美辞麗句に心の中で悪態をつく。


(いっつも「不吉第二皇子」とか揶揄(やゆ)しているくせに、「家門の誉れ」だって。どの口が言うんだか。)


 たとえ「不吉第ニ皇子」でも「皇族」には変わりない。

 彼女達の家門の落とし所はそこだろうと、ナユタは理解した。しかし、人間の二面性には毎回身震いする。


「ところで、皆は趣味とかはあるの?」


 リエルは、ありきたりな質問を投げ掛ける。


「私は刺繍が得意です」

「ダンスの習得は早い方だと思います」

「私は読書が好きです」

「殿下は何でしょうか? 剣術とか?」


 リエルは一呼吸おいて、得意気に答えた。


「……鳥の観察」

「え?」

「鳥を眺めているだけで幸せになれるんだ」


 皇子は、真顔で鳥への熱い思いを語りだした。


「猛禽類が一番好きなんだ! かわいい小鳥達もああ見えて強いんだよ!」


 茶会の場が少し静まったが、リエルは気にせず鳥の生態を嬉しそうに話続ける。


(リエル殿下……)


 ナユタは鳥類への賛美に、一人心震わせていた。


「⋯⋯童心を忘れない殿下は純粋な方ですのね」

「私も一緒に鳥の観察をしてみたいですわ」


 リエルと話を合わすように、婚約者候補達はしどろもどろ会話を膨らませた。


 その時。


 ナユタは、植え込みで動きが不自然な庭師を視界に捕らえた。監視をしているようだ。


 ーー誰を?


 庭師の視線の先には、お茶のおかわりを用意しているメイドがいた。


 ーー アリサ?!


 リエル皇子の専属メイド。

 この違和感の原因は彼女からだ。邪悪な空気が彼女の体を覆っていた。

 ティーポッドを持つ手が震え、その表情は強張って紅潮している。


 ーーまさかアリサが? 


 アリサは、リリィが雛だった時から⋯⋯いや、リエル皇子幼少からの専属メイド。リエルには情もあるはず。

 ナユタは、動揺し唇を強く噛む。


 ーー人間の感情に左右されてる場合じゃない!


 彼女は近くの護衛騎士に、こっそり耳打ちする。

 その騎士は、庭師の背後から近づき、口をふさぎ取り押さえた。庭師は抵抗を試みるが、屈強な体の騎士はびくともしない。


「う、うぅ⋯っ!」

「静かにしろ。命だけは助けてやる」


 小声でやり取りし、庭師は諦めたのか力がぬけた。

 ナユタはそれを確認し、メモに何かを書いてリエルにそっと見せた。


 それを目にした途端、表情が曇るリエル。


「すまない。すぐに戻る」


 リエルは席を立ち、ナユタと共に城内に入る。

 数分後、リエルだけが席に戻ってきた。


「東洋の珍しいお茶が手に入ったので、ナユタがすぐに持ってくる。楽しみに少し待っていて」と、3人の令嬢に説明した。


 すると、メイドのアリサが顔色が青ざめる。


「私が手伝います!」


 彼女は血相を変えて、いそいそとキッチンへ向かった。




 ナユタがキッチンでお茶の用意をしていると、アリサが飛び込んできた。


「私が用意しますから、先に殿下のお側にお戻り下さい!」


 アリサは叫んで、ナユタからティーポッドを取り上げようとした。

 その瞬間。

 一瞬でアリサは数人の騎士達に後ろ手に拘束される。


「い、痛い! 何をなさいます!!」


 彼女はこの状況に混乱する。

 騎士達数人に羽交い締めにされ、身動きができない。


 ガターーンッ!! ーー


 アリサは顔を床に押し付けられた。

 そして、彼女の目にはナユタの片方の靴だけがうつる。

 ナユタは、頬を地面に押さえつけられているアリサを見下ろしていた。


「アリサ……どうしてこうなったかあなた自身が一番理解しているでしょ?」


 一人の騎士が、アリサのエプロンのポケットから小瓶を取り出した。


「これは何? 誰に指示されたのかしら?」


 ナユタは、顔を押さえつけられているアリサの眼前に小瓶を見せつける。


「いい? あなたは皇子の毒殺に失敗したの。」


 ナユタの低い声は、事実だけを告げ、なんの感情も読み取れない。


「でも、アリサ……あなたを絶対に死なせない。生きるのです。きっと病弱な弟を人質にでも取られたのでしょう。すぐに退宮しなさい。最大限、皇室騎士団が護衛します!」


 アリサは拘束を解かれ号泣しながら、ナユタに土下座する。


「も……申し訳ございません! お情けありがとうございます!」


 ナユタは彼女を見下ろし、アリサにゆっくり告げる。


「あなたのためではない 。あなたが死ぬと、殿下が悲しむからです」


 ※ ※ ※


 その後、リエルの元に戻ったナユタ。何事もなかったかのように、お茶を入れる。

 しかし、皇子は終始暗い表情だった。いつ誰が裏切りかねない状況を覚悟してたとはいえ、彼にとって侍女アリサはもう10年来のメイド。


(まさか彼女が裏切るとは⋯⋯。)


 何も知らない婚約候補者達は、リエルに気に入られようと必死だ。


 (皆、家門のためだ……家のため。)


 家門の地位を高めるため、殿下との婚姻を願う令嬢達。

 弟の命を助けるため、殿下の命を奪おうとするアリサ。

 殿下自身を誰も愛してはくれないのだろうか?


 (私が……私なら……)


 ナユタは悔しくて、きつく拳を握りしめる。


 (……アリサについた護衛は大丈夫だろうか? )


 ナユタがそんな疑問と不安を抱きながら、このティーパーティーは終わった。



 ※ ※ ※

 そのころ。

 アリサは馬車に乗せられ、東辺境伯領地へ向かう途中、森で盗賊の奇襲を受けていた。


「盗賊か!」

「馬車を守れ!」


 馬車の護衛騎士は十人。相手も同数。盗賊は口元を布で覆っている。皇室騎士団達は、この盗賊相手に苦戦していた。


「貴様ら……絶対盗賊じゃないだろ! 」  

「メイドの口封じを命令されたのか?!」


 護衛達は、彼らが自分達と似通った剣術であることに戸惑っていた。

 激しく剣がぶつかる音があちこちで響く。

 一瞬でも動きを止めたら死ぬ。

 鏡と対戦しているようだ。


 これでは勝負がつかない、とお互い限界を感じていた時。


「手こずっているではないか! 皇室騎士団であろう、情けない!」

「あなた方は……!」


 五人ほど加勢する謎の集団が現れた。次々と盗賊をなぎ倒していく。彼らは、見事に急所を外していた。


 戸惑う皇室騎士団と自称盗賊達。

 彼らは皇帝陛下直属の近衛団に違いなかった。

 力の差は歴然。


「⋯⋯た、退却!」


 盗賊を名乗る刺客達は、尻尾を巻いて方々(ほうぼう)に逃げ去った。


「もう大丈夫ですよ」


 護衛騎士が、馬車の中で震えているアリサに声をかける。

 アリサは涙を流しながら、手をあわせて感謝の言葉を述べた。


 そして、護衛騎士が加勢してくれた近衛団の一人にたずねる。


「刺客を追わないのですか?」

「あいつらを深追いする命令は受けていないからな。もう大丈夫だろう。道中気をつけるんだぞ。」


 その言葉を残して、そのまま近衛団一向は皇居へ帰るために馬を走らせた。


 ※ ※ ※


 1ヶ月後、アリサは無事に東の辺境伯領地に到着。

 そして、辺境拍邸では早速メイドとして雇用された。

 辺境伯領主は、アリサの弟も同じ敷地で生活できるよう手配もしてくれた。


 ※ ※ ※

 翌朝。

 アリサは都の空に向かって、膝をつき手をあわせ祈りを捧げる。


 ーーリエル皇子。私のかわいい小さな皇子。ごめんなさい。私は悪魔に魂を売りました。きっと地獄に行くでしょう。でも、どうすれば良かったのか。弟が死ぬか皇子が死ぬか。ただのメイドが、あの御方の命令に背くことはできませんでした⋯⋯。


 祈りが終わり目を開けるアリサ。

 すると、彼女の瞳には一羽のモモイロノトリが映る。


「⋯⋯リリィ?」


 その小鳥を見つめていると、アリサはあの日を思い出した。


 ーーあの雛が巣立った時。リエル皇子は無邪気に笑っていた。不器用に可愛い羽を動かす幼鳥。私は⋯⋯あの時、確かに幸せだった。幸せだったのに!


 アリサは地面に突っ伏して、ごめんなさいと何度も叫んで、声を上げて泣いた。彼女の慟哭は、この東の地で命果てるまで続くだろう。


『さようなら、アリサ。元気でね』


 リリィはピィピィ鳴いて、首都の方向に飛び立っていった。



 

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