表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第ニ章 騎士として

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/37

16.皇室専属騎士選定大会②

 ナユタ対ペリカ。


 二人は対峙しながら、腰を低くして間合いを取る。

 鎧が重くのしかかる。

 少し動くだけでも、鳴る金属音。

 観客達の何千という二つの眼が突き刺さる。


 ナユタは、ペリカの(かぶと)の奥にある目を見据えて口角を上げた。


「3秒かな」

「はあ?」


 瞬間。

 ペリカの視界から消えるナユタ。


「な? どこに?!」


 ナユタは跳び上がりペリカの頭を踏みつけ、空中で一回転。

 ペリカの頭に衝撃が走る。


「ーーくっ!」


 彼女は、頭をおさえ後ろを振り向く。

 ナユタは降下する勢いそのまま。

 ペリカの剣に自らの剣を振り下ろした。


「ーーつっ!!」


 不意をつかれ、握っていた剣が手から離れる。


 ーーカシャーーン⋯⋯


 静寂の中。

 剣が地面に叩きつけられた音だけが響く。

 そして、ペリカの首元で止まるナユタの剣。


 あまりにも一瞬の出来事に会場は凍りつく。

 観客も。ペリカも。ヘラルド(司会者)も。


「⋯⋯ヘラルド(司会者)、ナユタの勝ちだろ?」


 レオンの声が、動揺した静寂を壊す。


「あ、ああ⋯⋯閣下、申し訳ございません⋯⋯ナユタ卿の勝利です!」


 観客は一斉に叫び、歓声で会場を揺らした。


「何が起こったんだ?」

「ナユタ嬢がペリカ嬢の背後に回ったんだが、どうやって?」

「体が浮いたように見えた」


 (かぶと)を上げたナユタは、うなだれているベリカに手を差し出す。ペリカは苦々しい表情だ。


「ほら、私は勝っても卑しいのでしょう? あなたは、堂々としなさい。貴族の美しい血が流れてるのだから。」


 ナユタはそう言って、にっこり微笑んだ。

 ペリカは形式的な握手だけをして、さっさと退場する。

 その後ろ姿を見て、一言。


「大口叩くんじゃないわよ、人間のくせに。」



 ※ ※ ※


 皇族席では、皇帝テオ、皇后アリシア、第一皇子へヴァンが並んで座っている。


「あのシュバルツ家の養女。強いじゃない、ねぇ、へヴァン」

「そうですね」

「でも、私はあなたの専属騎士はキリアンがいいわ。いくら強くても出自が孤児ではね」


 第ニ皇子リエルは、数列後ろに離れた席に一人。

 彼は、もうこの状況に慣れていた。


 ーーナユタ嬢⋯⋯本当に僕の専属騎士になりたいのか?


 幼い日。

 自分の専属騎士になるのが夢だと語っていた少女。

 彼の内心は複雑ではあった。


 ーー彼女が僕の騎士になると、危険な目に遭う確率が高くなってしまう。


 そんな不安をかかえながら、リエルはこの大会の行く末を見守っていた。


 ※ 


「勝者! キリアン・フォン・シュバルツ!!」


 ヘラルド(司会者)が、大声で準決勝のキリアン対エルリックの対戦結果を叫ぶ。

 会場は割れんばかりの歓声を上げた。


 兄のキリアンも圧倒的な強さで、決勝戦までシュバルツ家の兄妹二人は順調に勝ち進む。


「決勝戦は兄妹対決だな!」

「前代未聞だよ」

「まず女騎士が希少だからな」


 観客は口々にシュバルツ家の兄妹対決に期待を寄せていた。



 ※ 


「いよいよフィナーレ! シュバルツ家の次世代騎士二人! キリアン卿とナユタ卿の決勝戦です!」


 太鼓とヘラルド(司会者)が、会場のボルテージを上げた。

 ここまでくれば、どちらも皇子二人の専属騎士は確定。

 ナユタは、兄キリアンと向かい合う。


(リエル殿下専属でなければ、この7年の意味はないわ! )


 キリアンは兜さ(かぶと)の奥でニヤついている妹の表情が、容易に想像できた。


(神聖な歴史ある騎士選定大会で⋯⋯と言ってもあいつは気にもとめないしな)

 彼は、義妹の説得はとうに諦めていた。


 ヘラルド(司会者)が、試合開始の合図と大声を上げる。


「決勝戦、開始!」


 その瞬間、キリアンはナユタが両手で握っている剣を自らの剣で払う。


 ーーガキーーン⋯⋯!


 剣が高く弧を描いて舞った。

 そして、彼は彼女の眼前に剣を突きつける。


「ま、参りました⋯⋯」


 ナユタは四つん這いになり、悔しそうな表情で兄に降参する。会場は沈黙に包まれ、物音一つしない。


 その瞬間。

 レオンは項垂(うなだ)れ、頭を抱えた。


(うちの娘が⋯⋯やってしまった)


 分かってはいた。

 あれほど、リエル皇子の専属騎士になりたがっていた娘だ。

 しかし、故意に負けるにしても、もう少し接戦を演じてもいいじゃないか⋯⋯と、父は肩を落とす。



「し、勝者、優勝は⋯⋯キリアン卿! キリアン·フォン·シュバルツ!」


 ヘラルド(司会者)も、あまりにあっけなく勝負がついてしまって、戸惑いを隠せないでいた。


 キリアンがため息をつきながら、ナユタに手を差し出し、握手を求める。

 二人とも(かぶと)を上げて顔をさらす。

 そして、兄は妹を睨む。


「お前に⋯⋯騎士としての誇りはないのか?」

「ない⋯⋯かな」


 ナユタは言い切って、兄と握手する。

 キリアンはため息をつきながら、父レオンの審判席に目をやる。

 レオンはキリアンに、しょうがない、と肩をすくめるジェスチャーをして(かぶり)を振った。


 大会後、そのまま聴衆の前で騎士達の叙任式に移行。


 優勝者キリアンは、へヴァン第一皇子の前に跪く。へヴァンがキリアンの肩に剣で軽く叩き、専属騎士に叙任。


 次はリエル第二皇子が専属騎士を叙任する。

 ナユタが皇子の前で跪いた。


 ーーこのために、モモイロノトリの(せい)を捨てたんだ! このために!


 ナユタは胸に感慨深いものがこみ上げてくる。

 リエルは、儀式に習い淡々と剣を彼女の肩に置き、お決まりのセリフを述べた。


「東帝国第ニ皇子リエルは、シュバルツ·フォン·ナユタを専属騎士に命ずる。」



 一連の式が終了。

 皇子二人とキリアンとナユタは、歓声をあげる観客に手を振る。


「ご覧になって。シュバルツ家のナユタ卿の表情を」 

「あんなに喜びを表す騎士様で大丈夫かしら」

「まあ、まだお若いから⋯⋯」


 観客がナユタを注目するのも無理はない。

 手を振りながらも口元を抑えニヤついているナユタ。騎士の威厳などない。

 ただ一人、リエルだけが複雑な思いを抱えていた。


 こうして、今年の皇室騎士選定大会は幕を閉じた。


 ※ ※ ※


 その夜。

 毎晩、開かれるリエルとリリィの小さなお茶会。

 リエルはリリィに心情を吐露する。


「ナユタが僕の専属騎士になったんだよ。これからは主従関係が鮮明になる。お兄様より、僕の方が内外の争いに駆り出されるだろう? 専属騎士は、主君を守るために命をかける。もう僕のために、誰も傷ついて欲しくない」


 リエルは、ナユタが自分の専属騎士に叙任された運命に不安を抱く。


 ーー皇子様が私を気遣って⋯⋯? 私は皇子様がいなかったら、存在しなかったのに。


「ピィヒィピィッッピピピィッッ!」


 リリィは、必死にリエルの専属騎士になれた喜びを伝える。


「よしよし、リリィもう寝ようか、おいで」


 リエルは人差し指を差し出した。それに、リリィは捕まる。

 そして、枕元に飛び降りる。

 リエルはその小鳥の様子を眺めながら、ベッドにもぐった。

 彼が寝たら、リリィはシュバルツ家に帰らなければならない。

 リリィは、リエルが寝息をたてると、アリサに窓を開けてもらい、シュバルツ家に向かって飛び立った。


 ※ ※ ※


 週末、ナユタは義理の母のナーシャ夫人の肖像画の前にいた。いよいよ、明日から専属騎士として皇居内の宿舎に入居する。


 ーー人間の母親だけど……私も……あなたに想いを馳せる時が来るのだろうか。その時、 私は何か変わるのだろうかーー


 ナユタはナーシャ夫人の肖像画の前で、しばらく立ちつくしていた。

 明日から、リエル皇子の専属見習い騎士としての生活が始まる。

 週末だけ、シュバルツ家邸宅に帰省する。

 平日毎日、リエルの側にいられる夢のような新生活。


(リエル殿下専属騎士⋯⋯()()騎士⋯⋯)


 ナユタは肖像画の前で、一人ニヤニヤしていた。

 メイド達はそれを目撃する。

 いつも通り、引きながら様子を見守っていた。


「お嬢様ってたまにあの笑い方されるわよね」


 そして、リエル皇子の婚約者選定のティパーティーは、二週間後にせまっていた。



 

最後までお読みいただきありがとうございます!




感想や評価、リアクションいただけると、とても嬉しいです(.❛ᴗ❛.)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ