12.第ニ皇子の不吉な事件
「お母様、ごぶさたしております」
「⋯⋯ここで、あなたに出会ってしまって、私まで不吉になりそうだわ」
アリシア皇后は、リエル皇子に冷たく言いはなつ。
(はぁ? 何、このおばさん ! コウゴウだっけ? 美人でも性格悪すぎるわ! しかし、ここで反論できないのが人間の世界……)
ナユタは悪態をつきそうになったが、なんとか人間らしく我慢した。
続けてレオンが口を開く。
「皇后陛下に御挨拶いたします」
「レオン閣下、 こちらの令嬢は?」
「はい 、私の娘のナユタでございます」
「この子が噂の養女……」
皇后も風の噂で耳にしていた。
シュバルツ侯爵が亡き妻ナーシャ夫人そっくりの幼い娘を養女にした、と……。
想像以上にそっくりで、皇后は動揺する。
(全くの他人がこんなに似るものなの? )
少女は、シュバルツ家特有の淡い緑の瞳ももっている。
(どういうこと? 完全にシュバルツ家直系の娘みたいじゃない! )
シュバルツ家に直系の娘が存在するとなれば、皇族や貴族の勢力図にも影響する。
(いや……そんなはずは……)
そんなにナーシャ夫人似ている子供が帝国内に長年いれば、孤児だろうが噂になるはず。
「ナユタ、御挨拶なさい」
「皇后陛下、へヴァン殿下、初めてお目にかかります。ナユタ フォン シュバルツと申します」
ナユタは、覚えたての淑女の礼をぎこちなく披露した。
「レオン、彼女はナーシャ夫人にそっくりね」
そこで、レオンは皇后が一番知りたいであろう事実を先に口にする。
「彼女の体にはシュバルツ家の紋章はありませんよ」
皇后は目を見開き、しどろもどろ答える。
「ま、まあ、私は別に夫人に似ていると言っただけですわ 」
皇后は一息ついて、つぶやいた。
「リエルだって、立場は似たようなものですしね」
皇后はリエルを一瞥
リエルは目を伏せてうつむく。
「お母様、世界には血の繋がりがなくても3人は同じ顔が存在すると言いますよ」
突然、きっぱりと言い切る幼い少年の声。
へヴァン第一皇子だ。
「リエルは僕のたった一人の弟です。それに彼は『養子』ではありません。 皇帝の血を引く正統な皇位継承者の一人です」
「お兄様……」
へヴァンは無表情で、実母の皇后に意見を述べた。
そして、淡々と言葉を続ける。
「それでは皇帝陛下と食事を予定してますので失礼します」
皇后と第一皇子とその護衛達は、皇帝陛下が待つ皇居へ去っていった。
リエルは自分以外の皇族が三人で会食することに、ショックを受けていた。
(僕は……側妃の子だから……)
シュバルツ侯爵は、リエル皇子に目線を合わせ、しゃがんで話しかけた。
「いいですか? リエル殿下、 あなたには味方がたくさんいます 。私、キリアン、ナユタ……一人ではありません。 決して、ご自分を卑下なさらぬよう健やかにお過ごしください」
ラエルは拳を握りしめて、表情を変えまいと耐えている。
突然、ナユタはリエルの手を取った。
「一緒に遊びましょうっっ! 私達子供は美味しいものを食べて走れば良いのですっ! 今からおやつをいただきましょうっ ! お兄様、おやつもらってきて!」
「なんで僕が……」
「皇子様のメンタルケアも騎士の役目よ! ほら殿下、行きましょう!」
ナユタは無意識にリエルの手を引っ張って、メイド達の元に向かった。
「おやつ食べたい! いい?」
「承りました 。園庭のテーブルでお待ち下さい」
メイド達はかわいらしい主人達に微笑んで、支度をしに下がった。
「殿下は甘いものお好きですか? 何が好きですか?」
「マドレーヌ……」
「食事は何が好きですか?」
「肉が……」
矢継早にナユタに質問され、皇子は引き気味になっていた。
「リエル殿下がお困りになってるだろ!」
キリアンがナユタに忠告した。
「私は将来のご主人様の情報収集をしているだけです!」
側では、レオンがその光景をあたたかく見守っている。
そんな中、次第に顔が熱くなるリエル。
(僕の専属騎士になりたい女の子が現れるなんて⋯⋯)
一方、兄キリアンはナユタがリエル皇子に甘い感情をもっているのでは……と感づいた。
ナユタはナユタで、はしゃぎながらもアリシア皇后の影が頭から離れない。
(皇后の後ろにわずかだけど、一瞬黒い影が見えた……あれは? 確か巣立ちの時にも見えたような⋯⋯)
※ ※ ※
ナユタ(人間)は、夜はリリィ(小鳥)になって、皇子を訪ね続けていた。
シュバルツ家では、早い時間に部屋で就寝。
そっと窓からリリィになって飛び立つ。
そして、リエルに窓を開けてもらい、一羽と一人は就寝前に小さなお茶会をして、リエルはベッドに入るのだ。
リリィも少し休息をとった後、使用人に窓を開けてもらう。シュバルツ家に帰宅し、ナユタになってベッドにもぐる。
毎夜、このルーティンを繰り返していた。
※ ※ ※
そんなある夜。
すやすやとリエルが寝息をたてた頃。
部屋に用意された止まり木につかまるリリィも、目を瞑り休む体制に入る。
すると、窓の外からかすかに音がした。
壁を叩くような音。人間には聞こえない。
リリィは窓辺に移動する。
しかし、窓は閉められているので、目視するのは無理だ。
その時、異変に気づくリリィ。
(また窓が施錠されていない? )
ーー ガタッ! バタンッッ!!
ついに窓が開けられ、室内に飛び込んできた刺客。
すかさず、リリィはくちばしで目のあたりを攻撃する。
『お前、なんなの! 皇子様に何をしようというの?』
「痛い痛い痛い! なんだ、この鳥!」
刺客は短剣を振り回す。
この騒ぎに飛び起きて、部屋の隅に身を寄せるリエル。
リリィは、リエルの怯えた姿を見て刺客への殺意が増す。
「リエル皇子、ご覚悟を!」
刺客はリエルに、短剣を振りかざした。
リエルは両手を頭の上で交差し、防御の体勢をとる。
リリィは激しく羽をバタつかせ、刺客の視界を遮り続けながら、ピィピィ鳴いて護衛を呼ぶ。
『こら! ヘボ護衛!! 仕事しろ! リエル皇子様を守りなさい!』
「殿下、何の騒ぎですか?」
人間の護衛はやっと異変に気付き、部屋の扉を乱暴に開けた。
皇子は部屋の隅で涙をためて震えている。
「ちっ!!」
刺客の男は舌打ちをし、窓から逃走を図る。
「逃がすか!」
護衛は刺客の足を狙い短剣を投げつけた。
しかし、そのまま窓から脱走。
リリィは、護衛や使用人⋯⋯この部屋に集まった人間達を凝視した。
ーー裏切者がいるんだわ……窓の鍵を開けたままにしたヤツが。
すると、侍女アリサがリエル皇子を気づかって、他の部屋に案内した。
「今日はあの部屋は調査が入りますから、ここで休んでください。リリィも一緒ですから安心して下さい」
アリサは空いている部屋にリエルとリリィを通した。しばらくは護衛騎士も室内で見守ってくれるようだ。リエルは、客室のベッドにもぐって、リリィに話しかける。
「リリィ……カッコ良かったよ。リリィに助けられたね」
リエルに小さな頭をなでられるリリィ。
すると、小鳥は照れて、羽で顔を隠す。その仕草で、彼も少し緊張がとけて目を閉じた。
しかし、なかなか眠れないのだろう。何度も寝返りをうっている。護衛は何人か交代でリエルを見守ってくれていた。リリィは睨んで、一人一人の殺気を確認する。
ーーこの護衛も悪意はなさそうだわ。
やっと寝息をたてた皇子の側で、リリィもしばらく休息を取った。
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