13.俺と番(つがい)になろうぜ!
翌日。
刺客と思われる死体が、また園庭内に転がっていた。
窓から逃げたが、やはり誰かに処理されていた。
これで9人目。
そして、使用人のユーリが消息を絶った。
消えた護衛や使用人は9名。
9名全員、リエル皇子を護り仕える人間達だった。
※ ※ ※
皇后の部屋。
アリシア皇后とへヴァン皇子が密談中。
アリシアは、またリエル皇子殺害に失敗し苛立っている。
そう⋯⋯やはり、リエル第ニ皇子襲撃事件の黒幕は、アリシア皇后だったのだ。
「今回はあと一歩だったのに! モモイロノトリが邪魔したらしいじゃない!!」
決行日のために、念入りに計画したはずだった。
昨夜は、皇帝が領地の視察のため留守。
近衛兵が少なくなり、警備が手薄だった夜。
アリシアは疲れた表情を見せ、ぼそっとつぶやく。
「⋯⋯刺客は他国の傭兵集団に依頼してるから、捜査は断念するとは思うけど、もうこれ以上は⋯⋯」
彼女は力なく肩を落とす。
なぜなら、皇后からのリエル皇子殺害依頼は、傭兵集団側も「絶命依頼」と名付けられ、恐れられた。
当たり前だが金より命だ。
命あっての金。
どれだけ大金を積まれても引き受ける者がいない、と傭兵集団の団長から最終通告を受けていた。
「お母様、もうリエルを消すことはあきらめましょう。そんなことしなくても僕が皇太子になりますよ、安心して下さい」
へヴァン第一皇子は母をなぐさめた後、鎮静剤を渡し、休息のため眠らせた。
彼女の意識が、遠のいたことを確認するへヴァン。
「あの鳥も一先ず、及第点だな」
へヴァン皇子は、一人つぶやいた。
※ ※ ※
一年後。
モモイロノトリ達が森で井戸端会議中。
ナユタ(人間)は9歳だが、リリィ(小鳥)は立派な成鳥になっていた。
『卵11個産まれたんだよー』
『結構、産んだんだねぇ! 給餌大変でしょ?』
皆、何事もなく孵化して巣立ってくれればいいけど⋯⋯』
卵を産み抱卵に忙しいハンナ。8個中2羽孵化して、給餌に忙しいアンナ。
2羽とも忙しい中、短い育児の情報交換に時間を割く。
当たり前だが、リリィは話の中に入れない。
『あんた、まだ人間に化けてるの?』
『だって、人間だと9歳なんて、まだ子供なんだもん。騎士になるには、15歳にならないと』
『人間とは番になれないのに』
『私はリエル皇子様とずっと一緒にいれればいい』
『変なの。野生動物として終わってるわ』
リリィはハンナのこの言葉に傷ついた。
鳥が他の生物の感情なんて、知る由もない。
だから、このハンナの言葉になんの悪意もないのだ。
それは、リリィも理解していた。
すると、空からすっとリリィの前に現れたケンタ。
『リリィ。俺と番になろうぜ! 今、嫁募集中だから!』
元気の良いケンタは、リリィに求婚する。
『嫌だ。私は人間に化けてるから忙しいし。育児なんてできないわ』
『ちぇっ! いつまで『人間ごっこ』やってんだか。俺が別の嫁さんもらってもいいのか?』
『はあ? ご自由にどうぞ。』
ケンタは悔しそうな表情に変わる。
『リエルってやつだって、いつか人間の番みつけるだろうに。バカなやつ!』
捨て台詞を吐いて、ケンタは飛び立った。
『ケンタの言う通りだよ。早く鳥の生活に戻りなよ』
ハンナとアンナも、リリィを一羽残して、それぞれの巣に帰った。
リリィは少し胸がちくりと痛んだ。
※ ※ ※
「どうしたの? リリィ元気ないね リンゴいる?」
いつも元気なリリィがくるみをあまり食べないことを心配するリエル。
ーーリエル皇子様に番かぁ⋯⋯
やはり、リリィはそのことを考えると、胸が少し痛む。
その時、視界に赤い丸い物体が映る。
ーー リンゴだ!
『これ、食べていいの?』
リリィはリエルにピィピィとたずねる。
「いっぱい食べていいよ」
リエルは微笑みながら、リリィの頭を指でなでた、
リリィは勢いよくつついて食べる。
「良かった。体調が悪いわけじゃなかったんだ、嫌なことでもあったかな?」
リエルはリリィの小さな頭を指でなでながら微笑んだ。
リリィは、リンゴを喉に流し込みながら、リエルを見つめる。
ーー皇子様が私を見て、微笑んでくれる。それ以上の幸せがどこにあるの? 人間の騎士になって、皇子様を守れればそれでいいんだ!
リリィは、リンゴをついばみ続けた。
※ ※ ※
皇居内会議室ホールにて。
会議後、大公クレオと侯爵レオンが雑談をしていた。
「一年前の9人目から刺客が現れなくなったな」
クレオがレオンに話しかける。
「もう請け負う傭兵がいなくなったのでは? 必ず殺されてますからね」
「⋯⋯結局、黒幕は分からずじまいか」
クレオが椅子の背もたれに体を預け、伸びをしながら諦めたような口調でぼやいた。
続けて、レオンが自分なりの見解を述べる。
「たぶん首謀者が傭兵を使って、リエル皇子を暗殺するよう依頼。使用人一人にも協力を促す。結局、傭兵は皇居内で始末され、使用人は即効姿を消す。こんなところでしょう」
「しかも、毎回皇帝陛下自らを調査打ち切りにして⋯⋯刺客に協力した使用人も逃がした可能性があります。」
「⋯⋯推測したところで、捜査できなければ真相なんて闇の中だ。とりあえず、リエル殿下が健やかであればいい」
レオンは、そこで気になっていた点をたずねてみる。
「ナッツ大公家クレオ閣下」
「なんだ、あらたまって」
「あなたは、皇室や全貴族⋯⋯いや、国民を動かす力を持っています。閣下は、東帝国の危機を何度も救っているじゃないですか」
「俺は目の前の敵と闘ってきたたけだ、大げさな」
レオンは一呼吸おいて、真顔でクレオに質問する。
「へヴァン第一皇子とリエル第二皇子のどちらが皇太子としてふさわしいとお考えですか?」
クレオは迷いなく即答。
「俺は継承者争いには中立の立場だな」
「なぜ?」
「面倒だからな」
「は?」
レオンは、クレオの返答にとまどう。
「第一皇子のへヴァン殿下が9割方皇太子になられるでしょう。後ろ盾も強い。しかし、皇后陛下の言いなりで、全く剣術の授業にも参加されず、勉学も独学。部屋にこもって何をされてるのか⋯⋯」
「客観的に見て、リエル殿下の方が真面目だし、剣術も良い素質をお持ちだな」
「ならば⋯⋯!」
「でも、派閥とか面倒じゃないか。俺は剣には自信はあるが、頭は良くない。だから、中立を貫く」
「はあ⋯⋯」
レオンは、クレオの性格はわかっている。
この人は、権力や派閥に左右されず、自由な人だ。
だから、騎士達の信頼も厚い。
しかし⋯⋯。
「お前は、リエル殿下の味方だろ?」
「誠実であり実直なのは、リエル殿下でしょう。まだお二人とも成長過程ですが」
クレオは、紅茶を一口飲み、別の話題に切り替える。
「ところで、ナユタ令嬢は息災かな?」
「はい、たぶん立派な騎士になると思います。女騎士は珍しいですが」
「騎士系貴族のシュバルツ家は安泰だな。キリアンもこのままいけば、東帝国の優秀な騎士に育つだろう」
「ありがとうございます。きっと、あっと言う間に大きくなりますよ」
その言葉通り、リエル第二皇子、ナユタ、キリアン⋯⋯それぞれの時間を過ごしながら、子供たちは時間を重ねていった。
もちろん、リリィはじめ、鳥の仲間たちも。
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