学校の怪談 3
人だかりが出来ていた音楽室の前に立つと、扉の向こうから
ポロン…
と、ピアノの音が聞こえた
ピアノは一定のリズムで鳴り続けている
ポロン…
ポロン…
ポロン…
妙に冷たい音
感情のないような、機械のような音
息を飲む
生徒の一人が、恐る恐る扉を開けて教室内に入る
後に野次馬のように生徒が続く
俺もその波に飲まれながら音楽室に入った
音楽室には誰もいない
だが、黒いグランドピアノの前の椅子が、ゆっくりと揺れていた
ピアノの蓋が、ギィ…と勝手に持ち上がる
鍵盤が、ひとりでに沈んだ
ポロン…
ポロン…
ポロン…
「…影じゃない?」
が、よく見ると、ピアノの上に黒い手
輪郭が揺れ、歪んだ手
その手が鍵盤を押すたび、音が不気味に響く
ポロン…
ポロ…
人影の手が止まる
ゆっくりと
ピアノの蓋の向こうから顔が覗いた
「ぎゃああああああああああ!!!」
生徒の悲鳴と、一部逃げる人
黒い影
人の形をしているが、目も口もない
ただ、こちらを見ていると分かる
影が立ち上がり、ピアノの前に立つ
「え、なにあれ…」
「…人?」
「さっきと同じ、人影だ!」
生徒たちがざわつき、スマホを構えると
突然人影が歩きだし、こちらに迫る
「うっ、うわあああああああああ!」
悲鳴を上げ、逃げ惑う生徒
その悲鳴と連動するように、袖の下が痛む
腕が脈打つ
心臓の鼓動と同じリズムで、ドクン、ドクン、と熱が走る
「っ…!」
痛む腕を押さえながら
震える足で、なんとかその場に立ち、人影を睨む
その人影が、手を伸ばした瞬間
俺の足元で、今度は赤い光の線が五芒星の紋様を描き、地面の下から物体が飛び出した
バサァッ!!
羽音がして、音楽室の空気が一気に熱を帯びた
火の粉のような、炎の羽のような光が、視界に、ちらちらと浮遊しながら舞う
あれは…もしかして…
朱雀か…?
燃えるような赤い翼
尾は炎の帯となって揺れ、その身体は光の粒子でできている
「また地震?」
「何が起こってるの…?」
朱雀が羽ばたくと、音楽室のカーテンが揺れ、空気が震えた
人影が朱雀に触れた瞬間──
ジュッ!!
影の輪郭が焼けるように崩れた
朱雀はさらに羽ばたき、炎の風を人影に叩きつけ、高く鳴いた
キィィィィン──!!
その声が音楽室全体に響き、人影は後退し、黒い粒子を撒き散らしながら形を失っていく
炎の粒子が舞い、朱雀の身体がほどけるように消えていった
静寂が戻る
「人影が消えた…」
「なんか急に、熱気がすごくない?」
「どうなってんの…?」
生徒たちが、ひそひそと囁く中
腕の痛みが徐々に引いていく
腕は、模様は…怖くて見れない…
音楽室のピアノは静かに佇んでいる
だが、鍵盤にはまだ微かに熱が残っているように見えた




