拒絶
「じゃあ、阿部くん、また」
「うん、また」
阿部くんは腕を押さえながらそう言って、私達は解散した
部長は先ほどから無言
夜風が吹き、ローブの裾が揺れる
私は意を決して、部長に声をかけた
「部長…あの…
やっぱり阿部くんは、私たちの力になってくれると思うんです」
部長は私の方へ振り返り、少しの沈黙の後、静かに言う
「私は、協力し合う気はない」
「え…」
その言葉は、刃物のように鋭く、冷たい
「で、でも…部長は…
霊が見えないって…
だから、阿部くんがいれば──」
「築地の君」
部長は、いつになく強い声で遮った
「私は、そなたの好意に応えることはできぬ
阿部の君と手を取り合うつもりもない
それだけだ」
言葉が詰まり、何も言えなくなった
部長はローブを翻し、夜の道を歩き去っていく
残された私は、その背中を見つめた
嫌われ…た…?
胸が痛い
息が苦しい
夜風が冷たいのに、頬だけが熱い…
幼い頃から、私は見えた
家の廊下の隅に立つ影
公園のベンチに座る知らない人
夜中に天井を這う黒いもの
怖かった
でも、もっと怖かったのは
「霊なんていないわよ」
「そんなこと言うんじゃありません」
「変な子だと思われるでしょ」
母のその言葉
変な…子…
その一言が胸に刺さり、抜けなくなった
それ以来、誓ったんだ
霊が見えるなんて、絶対に言わないって…
中学でも、すっと黙って
高校でも、ずっと黙っていようと思った
でも──そんな時、飯田橋部長と出会ったんだ
「陰陽師とは、平安の御代における官人にて、陰陽寮に仕えし者のこと…」
「陰陽道には、万物の巡りを示す相生・相剋の理がございまして…」
「その道を極めし者のひとりに、安倍晴明公という名高き陰陽師がおられ…」
「そして私は──その晴明公の正しき血脈を受け継ぐ、末裔」
「飯田橋さんまた陰陽師の話…」
「陰陽師の漫画とか映画とかの見すぎなんじゃ…」
「感化されやすいんだよ」
「どこどこの末裔とかうさんくせー」
「好きに申させておけばよい」
すごい人だ…
「妖は見えぬ」
そう言いながら、誰よりも怪異に向き合っていた
この人の力になりたい…
私だけは、部長を笑わない…
そう思って、オカルト研究会に入ったんだ
そして
部長のためになると思ったから
部長の力になれると思ったから
阿部くんを紹介したけれど…
『私は、協力し合う気はない』
私…
余計なこと…しちゃったのかな…
部長を傷つけたのかもしれない
お節介だったのかもしれない
胸の奥が、じんわり痛む
阿部くんなら、部長の力になれるって…思ったんだ
私じゃ…部長の役に立てないから…
でも…
夜風が吹く
小さく肩を震わせた




