オカ研へようこそ! 1
放課後
築地さんに言われた場所まで来た
本当に、ここで合ってるのかな…?
一抹の不安を覚えながら、部室の扉を開けた瞬間、空気がひんやりしているのが分かった
いや、空気だけじゃない
視界に入ったその人の存在が、部屋の温度を変えていた
西洋の古典的な魔術師が着ていそうな、重たそうなローブを羽織った女子
前髪は目よりも下まで垂れていて、鼻から下しか見えず、顔の印象がまったく掴めない
長い黒髪は後ろでまとめられていて、白く細い指が、古い巻物らしきものを静かにめくっている
なんだ、この雰囲気…
本当に同じ高校の生徒なのか…?
阿部くん、と近寄って来た築地さんが小声で言う
「あの人が、オカ研の部長
飯田橋先輩」
飯田橋先輩は顔を上げ、静かに俺を見つめた
「そなたが、阿部の君か?」
俺は息を飲む
阿部の君…ってなんだ…?
若干の疑問を抱えたまま、緊張しながら頷く
「はい…」
築地さんは俺の背中を押しながら一歩前に出て、嬉しそうに言った
「部長、この人です
安倍晴明の霊と接触して…影を祓う術まで使ったんです
阿部くんは、私たちの力になってくれると思います」
飯田橋先輩はゆっくり立ち上がり、俺に向き直る
「阿部の君」
俺は息を飲む
「もし、そなたが本当に晴明公の御力を宿すのなら
それを確かめる術がある」
「確かめる方法?」
飯田橋先輩は、迷いなく言った
「われと共に、幽き地へ参ろう」
築地さんが驚いたように声を上げる
「えっ!?
し、心霊スポットですか…?」
飯田橋先輩は揺るがない声で、俺を真っ直ぐ見ながら続ける
「影が姿を現したのなら、逃げる理由はない
その正体を見極めるべきだ」
戸惑いながらも、胸の奥がざわつく
築地さんは不安そうに俺を見た後、飯田橋先輩に向き直る
「本当に、行くんですか…?
そこまで…しなくても…」
飯田橋先輩は、前髪の奥で何を考えているのか分からない表情のまま、静かに言った
「だからこそ、だ
影が現れる場所なら、そなたの力は否応なく露わになる」
その言葉に、胸の奥がざわついた
晴明の力を持つのか
術が本物なのか
自分より強いのか
末裔として相応しいのか
要は、全部そう言う事
でも…
「行くよ」
自分でも驚くほど、声は震えていなかった
「俺も…知りたいから」
飯田橋先輩の前髪の奥で、何かがわずかに動いた気がした
築地さんが俺の袖をそっと引っ張る
「阿部くん…無理しなくていいよ
行きたくないなら、断っても…」
俺は首を振った
築地さんが小さく肩を震わせる
正直…俺だって気は進まない
心霊スポットなんて…行きたいわけがない
昨日の影の感触がまだ腕に残っている
あれがまた出てきたら、今度は無事で済む保証なんてないんだ
それに──
“誰かを助けるため”に力を使うならまだしも
自分から危険な場所に行くなんて、そんな事、絶対に避けたい
でも…
「行きましょう」
真実を確かめる為にも
そして
この力が何なのか、自分自身が知るためにも
「よい覚悟だ、阿部の君
その心、見届けよう」
飯田橋先輩は、薄く笑った




