再現実験 2
霞が関先輩は眉をひそめる
「計波は正常値のままだが…?」
視線を感じて、身体は静止したまま、その方向に目を向けると
踊り場の隅で黒い影が揺れ、形を持ち始めていた
清明では…ない…
けど、またあの影…!
水天宮先輩は震える声で叫んだ
「あ、阿部くん、あれ!」
影が一気に距離を詰め、俺の胸元へ向かって来る
──来た!
手が勝手に動く
指先が空中に式を描いた瞬間
透明な結界が目の前に展開した
影がぶつかり、バチンッ!と弾かれる
霞が関先輩は驚愕してモニターを見ていた
「何が起きている!?」
影は弾かれた反動で壁に跳ね返り、次の瞬間、水天宮先輩と霞が関先輩の方へ向きを変えた
水天宮先輩は後ずさる
「えっ嘘…
やば…こっち来る…!?」
霞が関先輩は影に気づかず、ただ困惑したように周囲を見回す
「何だ…?
水天宮、何が──」
影が二人に向かってゆく
…っくそ!
間に合えっ──!
反射的に走り
影より先に、二人の前へ飛び込む
その瞬間──
視界が白く弾けた
「──っ!!」
結界が再び展開し、水天宮先輩と霞が関先輩を包み込むように広がる
影が結界にぶつかり、激しい音を立てて弾かれた
「うわっ…!」
影は霧のように散り、そのまま消滅する
水天宮先輩は呆然と俺を見つめた
「阿部くん…今の…」
霞が関先輩は震える声で言う
「何が…起きたんだ…」
俺は肩で息をしながら、胸を押さえた
また…勝手に…
でも…守れた…
水天宮先輩は声を張り上げるように言う
「部長…!
現れたのは清明ではなかったけど…
でも今のは…本当に霊すよ!」
霞が関先輩は計測器を見つめ、静かに息を吐いた
「…だが、計波は正常値だ
脳波にも異常はない
証拠がなければ…霊的現象とは言えない」
水天宮先輩は、何故か悔しそうに唇を噛む
「でも…阿部くんは式を描いて…!
影が消えたんすよ!」
「式…?影…?」
「そうです!
安倍晴明の技っすよ、きっと!影は、黒い…もやもや~っとした影っす!」
霞が関先輩は静かに首を振った
「水天宮
君が見えたと言うのはわかる
だが…科学は再現性がなければ証明にならない
見えない現象を霊と断定することはできない」
霞が関先輩は計測器を片付けながら言う
「それはそうすけど、でも…っ!」
水天宮先輩はやけに霞が関先輩に食い下がる
霞が関先輩は、手で水天宮先輩を制した
「今日はここまでにしよう」
隣で、水天宮先輩は、何かを言おうとしたのかは定かではないけど、息を呑んだよう
霞が関先輩は計測器を持ちながら、その場を立ち去る




