信じるものは見えるものだけか?
翌朝の教室は、相変わらず、いつもと同じざわめきに満ちていた
でも俺の胸の中は、昨日の夜からずっと違うざわめきがあった
あれはなんだったんだ
影みたいなやつ
勝手に動いた手…あの光…
『まあ、科学的には“呪いの効果は確認できず”って結論だね
阿部くん、これは偶然だよ』
科学部に行っても、結局は解決しなかった
『お前の中に眠る“力”が
呪いの気配に反応したのだ』
『私、霊が見えるから
あなたも、見えるんだね』
『でも、見えたんでしょ
あの人、あなたに話しかけてた』
『それ…部長が“呼び水”として描いたものなんだ
清明を呼ぶための』
『うん
清明が降霊したと言う事は
あなた、”力を持つ人”なんだよ』
なんならより酷くなってる気がする
『気にするな
また何かあったら相談してくれ』
また行くのも気が引けるし…無意味な気がする
『私もね、小さい頃から見えてたけど…
誰にも信じてもらえなかった
だから…
あなたが一人で抱え込んでるの、なんとなくわかる』
気づけば、俺の足は科学部とは逆方向へ向かっていた
築地さんのクラスの前に立つと、胸がどくどくとうるさく鳴る
『怖くなった時とか、困った時とか…
誰にも言えないことがあったら』
『いつでも話してね
私は…あなたの味方だから』
意を決して、教室の扉を開けて声を掛けようとしたら、タイミングよく扉が開いた
「あ、阿部くん?」
築地さんが顔を出す
昨日と同じ、少し影のある優しい目
「どうしたの?」
「あ…
あの…話したいことがあるんだけど
ちょっと、いい?」
築地さんは一瞬だけ驚いたように目を瞬かせ、すぐに小さく頷いた
「うん
屋上、行こっか」
風が吹き抜ける屋上は、昼休みとは思えないほど静かだった
築地さんはフェンスにもたれ、俺の顔をじっと見つめる
言葉が喉につかえて、なかなか出てこない
でも…
「昨日の…事なんだけど
帰り道で…変な影みたいなのに襲われたんだ」
築地さんの表情がわずかに強張ったよう
「影…?」
「うん
形がなくて…でも、確かに“見てる”、”見られてる”って感じで…
逃げようとしても体が動かなくて…」
手が震える
築地さんは黙って聞いてくれていた
「で…その時…
俺の手が勝手に動いて…
空中に…なんか、図形みたいなのを描いて…
影が目の前で弾かれて…そのまま、消えた」
言い終えた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた
「昨日、金縛りにあってさ」
「うちの家、絶対なんかいるんだよ」
そんな話を、俺はいつも笑って聞き流していた
「へぇ、すごいな」
「マジで?
それ夢じゃないの?」
面白半分、話半分
信じる気なんて、最初からなかった
本気で…話していたのかもしれないのに…
”そんなわけない”って、心のどこかで決めつけていた
俺は…
無意識に…傷つけてたんだ
目を細めながら深い息を吐いた
築地さんは、フェンスにもたれながら静かに、呟くように言う




